ユウタとしし座流星群
ユウタはひとりで夜空を見上げていた。
今夜はしし座流星群だということはクラスメイトの会話を盗み聞きして知った。
初めて聞いた言葉だったがユウタにはそれが流れ星のような、綺麗なものだとはクラスの盛り上がりでなんとなく分かった。
「友達としし座流星群を見に行く」と家族に告げてユウタは家を出た。
ユウタは10歳である。自分でも子供という自覚がある。その自分がひとりで簡単に夜間の外出を許されることに両親の自分に対する興味の薄さを肌で感じた。
ユウタは話すのが得意ではない。ゆえに友達も少なかった。ケンイチは仲良くしてくれるが、ケンイチはクラスの人気者で皆と仲が良かった。ゆえに自分だけの友達ではない。ユウタは立場をわきまえてケンイチに自分から話し掛けることは避けていた。
小さい頃に買ってもらった高さの合わない自転車で河川敷に着くと、もう沢山の人がいた。家族連れで来てる人もいれば男女のカップルで来てる人もいる。
その中でユウタは自分のクラスメイトの一団を見つけた。
ケンイチ、モモコ、コウタロウ、ミサキとユタカ、他にも何人かいる。自分が誘われるはずがないとわかっていたのでユウタは特別何も思わなかった。ただその中に担任のキョウコ先生がいることは残念だった。
しかしキョウコ先生も仕事が終わった時間である。仕事が終わった時間なら自分が好きな生徒とだけ交流しても良いと思う。ユウタはそう思った。でもどこか裏切られた気持ちであった。
ケンイチたちに見つからないように場所を移動した。ケンイチは優しいので自分を見掛けたらきっと仲間に入れる、その優しさが申し訳なかった。そこでキョウコ先生に「誘ってなくてごめんね」と言われたら、ユウタはどんな顔をすればいいのかわからなかった。
自転車で移動して、人が少ない場所に出た。
ここならゆっくり見れそうだ。
ユウタはそこでチアキを見つけた。
河川敷のコンクリートの斜面に、クラスメイトのチアキがひとりで座っていた。
チアキは大人しい女の子で、友達がいなかった。
ノロマで鈍臭く体育では足を引っ張り、声も小さいので教科書を読む声も聞こえない。
表立ってイジメられてるようなことはなかったが、クラスの女子のリーダー格であるモモコが率先して無視をしていたので、それに従うようになんとなくクラスの女子からは相手にされていなかった。チアキはいつもひとりだった。
同じくひとりだったユウタはそんなチアキをいつも遠くから眺め、親近感を覚えていた。
だからここでチアキと二人きりになったのは、何か神様の大きな力が働いているのかと思った。
チアキは小さい身体を更に小さくして座り、ぼんやり夜空を眺めていた。
ユウタはそんなチアキの姿を見て胸が少し熱くなった。
この気持ちは何だろう。
「チーちゃん」
ユウタが声を掛けるより先に誰かがチアキを呼んだ。ユウタより大きな男の子だった。
チアキは自分の隣のスペースに手を添えて「ここに座って」とその男の子に合図をした。男の子はチアキの隣に座った。
そのあとで大人たちがチアキとその男の子を囲むように座った。
チアキの家族だ。
お父さんとお母さん、お祖母ちゃんもいる。あの男の子はチアキのお兄さんだろうか。
チアキは教室では見せたことのない顔で笑っている。
それを見たユウタは気付かれないようにそっと場所を移動した。
自転車を漕いで、更に離れた場所でユウタはひとりコンクリートに座り、夜空を見上げた。
星が綺麗だった。
ユウタはふと、自分はこれからどんな人生を送るのだろうと思った。
優しい人間になりたいと思った。
困ってる人がいたら助けたいと思った。
気付くとユウタの目から涙が溢れていた。
チアキが家族に愛されてて良かった。
ユウタは安堵した。もしかしたら自分は優しい人間になれているのかと思った。