羽子板
正月といえば羽子板。と誰かが言っていた。まだ寒い時期に年が明けてすぐ、河辺の少しの広くなっている空き地に友達と集まった。
吐く息が白く、陽も出て間もない。年が明ける前に会った時に約束した「皆であの場所で羽子板をしよう」の約束は無事果たされそうだ。
「羽子板って面白いの?」
そんな言葉が方々に飛び、不安もよぎったがなんとか今日にこぎつけた。
「あけおめ」
と私が皆に言うと
「あけおめ」
と返ってきた。年が明けた感じがする。朝方のこの時間はまだ誰もいない。そんな場所で羽子板をする。なんか今年はいい年になりそうだ。
「タケ来てなくない?」
と誰かが言う。たしかに来ていない。私が羽子板の話をした時に一番に「羽子板!面白そう!」と言っていたのに。風邪でもひいたのか?どうしたのだろうか。心配になる。でもこの歳の私達には連絡手段はなかった。全部口約束である。行ってみていなかったから帰るし、少し待って来なくても帰る。そんな約束レベルなので来ない可能性もある。
「タケ来なくてもやろうか」
と誰かが言う。私は少しタケを待ちたかった。
皆が持ってきた羽子板を見る。カラフルで各々の個性が出ていた。羽子板トークで少し盛り上がったあとは実戦。少し距離をとって羽根を打つ。
「お待たせ!」
ちょうど羽根を打とうとした時にタケはやってきた。手に羽子板を持っている。タケは走ってこちらにやってきた。
「あけおめ」
と息が切れ切れ言う。皆が「あけおめ」と返す。
「さぁやろうぜ!羽子板!」
と掲げたタケの羽子板は大きな五平餅だった。
「え?」と声を出してしまった。このタイミングでの声出しはジャングルで大声出すのと一緒だ。
「どうした?」とタケは聞いてきた。私は皆が思っている疑問をタケにぶつけるしかなかった。これは声を出した私が悪い。
「これ、五平餅だよね」
という言葉をタケに投げた。タケはそれを素直に受け取りまた言葉を返してきた。
「羽子板だよ」
この言葉はキャッチ出来なかった。この言葉は地面に落ち、コロコロと転がっていった。だって、だってさ。それさ。「五平餅なんだもん」
まだ肌寒い季節。皆が各々持ってきた羽子板を強く握り締め下を向きながら笑いを押し殺した。そのあとタケは白状した。「五平餅だ」と。その時は皆大きな声で笑った。初笑いであった。