食用油と健康の逆説II:行き場を無くした植物油の大逆転
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必須脂肪酸の根拠となった実験を紹介しました。
今回は食用に使用されるようになった経緯を紹介していきます。
植物油は元々食用ではなかった!?
過去、植物油(多価不飽和脂肪酸)は燃料や塗料、機械の潤滑油として使われていました。
日本では江戸時代まで行燈(あんどん)が使われており、その燃料として菜種油やエゴマ油、魚油を使っていました。
オメガ3のアマニ油は、酸化してすぐに乾いて重合し皮膜を作るので、塗料のニスとして使われていました。(ヨウ素価130以上の乾性油)
明治時代になると石油製品が登場し、次第に燃料や塗料は石油製品に変わってゆき、これまで使われていた植物油は行き場を無くしていきます。
アメリカでは1900年ごろまで、調理油としてラードが使われていました。しかし、豚肉の臭いがしたり、ラードと綿実油が混ざっていたり、コストが高かったということもあって、評判が良くなかったようです。
特にケーキを作るときには、ラードの豚肉の臭いが邪魔になりました。
歴史を変えたクリスコの登場
アメリカでは1911年に、日本でもお馴染みのP&GがCRISCO(クリスコ)という綿実油のショートニング商品を発売。
大々的なマーケティングを行ったことで、1916年には、CRISCOは6,000万缶もの売り上げとなるベストセラーになりました。[1]
ショートニングとは、植物油の炭素の二重結合に人工的に水素を添加することによって、飽和脂肪酸のように常温で半固形状の油脂を作ったものになります。
一部は悪名高いトランス脂肪酸を含みます。
固形のものはマーガリンが有名ですね。
当時は綿実油の評判や質が悪く、オリーブオイル、ラード、バターと混ぜられていたこともありました。
綿製品が大量生産されると、売れ残った綿花が大量に余ってしまい、腐ってしまうので廃棄されていました。
それをどうにか食用にできないかと目を付けたのです。
CRISCOは消費者に信頼のあるブランドとしてのイメージを定着させるマーケティング手法を使いました。
P&Gは綿実油に水素を添加して固形の油を作り出すことに成功し、販売の際には原材料である綿実油からできている事には一切触れていませんでした。
なぜなら当時のアメリカでは、食品会社に成分表示を義務付ける法律がなかったのです。
全て植物性のものから作られているというイメージ戦略で人々の関心を惹き、純度の高さや、臭いや味も少なく、フライやケーキに使えると宣伝しました。
こうして、安価で使いやすいCRISCOが瞬く間に大人気になりました。
その後、バーの実験が追い風となり、石油製品によって追いやられていた植物油は、CRISCOのベストセラーや、必須脂肪酸という名誉が与えられ、燃料や塗料に使用されていたものから、食用になりました。
それから第二次世界大戦後に、大豆油の生産が本格的になりました。[2]
日本では、江戸時代から庶民の間に天ぷらが登場し、食用油が一般的になり始めたのが明治時代で、食用油を使った調理法が確立してきたのは大正時代からだとされています。
その後、1960年頃から始まったアメリカ主導のキッチンカーによるフライパン運動で、小麦とともに調理油に植物油を使うのが主流となり始め、伝統的な和食よりも洋食を食卓に取り入れる家庭が増えてきました。
不自然な必須脂肪酸
人類の歴史は、一説では700万年とも言われています。
現在のように、必須脂肪酸と呼ばれているオメガ3とオメガ6を食用油として大量に摂取してきた歴史的事実はありません。
せいぜい、食べ物に微量に含まれていたものを食べてきただけです。
世界では主にそれまで、一価不飽和脂肪酸(オメガ9)のオリーブオイルや飽和脂肪酸が主体のバター、動物性脂肪のラード(飽和と不飽和が半々くらい)が主流でした。
たとえば、大さじ5杯(60g)の油を作るのに必要な植物は、
とうもろこしなら98本、ブドウの種なら625粒、ひまわりの種なら2800粒、ゴマなら52,000粒も必要です。
ゴマは世界各地で、食用として使われてきました。
そのゴマをすりつぶして抽出したゴマ油は、儀式、薬用、香料として使われていたといいます。
ただし、非常に高価な物で、庶民にはあまり普及していなかったようです。
近代になり抽出技術が発達し、多くの種子から油を抽出できるようになり、
この100年の間に突如として、多価不飽和脂肪酸が必須脂肪酸だという概念が生まれました。
つづく
【参考文献】
[1]How Crisco toppled lard – and made Americans believers in industrial food.
The Conversation.
Published: December 18, 2019 1.49pm GMT.
[2] History of Soybean Crushing: Soy Oil and Soybean Meal (980-2016). Lafayette, CA: Soyinfo Center; 2016.
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