お茶から島を変える生産者。グリーンティ五島【旅先案内人 vol.18】五島リトリート ray#4
耕作放棄地を茶畑に。地域に新たな産業を生み出し、未来へ繋ぐ。
島を訪れると、スーパーや土産物屋で、多くの”お茶”を目にします。五島茶と呼ばれる緑茶から、五島の名産である椿の葉を使った「つばき茶」、他にも五島産のレモングラスを使ったお茶まで。その豊富なバリエーションから、昔からお茶が盛んだったと思いきや、お茶の生産がしっかりとはじまったのは、今から25年ほど前。ひとりの立役者の存在がありました。
島でお茶の生産から販売までを手がける、「有限会社グリーンティ五島」。緑茶をはじめ、緑茶を発酵させた和紅茶、椿の葉を使ったつばき茶など、100%オーガニックにこだわった商品を全国へ届けています。そんな会社の社長、入江 稔雄(いりえ としお)さんは、五島列島のお茶の生産の礎を築いた第一人者。焼けた肌と力強い五島弁が、パワフルな印象です。福江島で生まれ育ち、高校を卒業をした後、父親と同じ畜産業へと進みますが、お茶の生産に関しては未経験だった入江社長。なぜ、お茶の栽培をはじめたのでしょうか。
「茶畑は、今から25年前の平成9年にはじめました。お茶の生産自体は、そのさらに15年前くらいには行われていたのですが、台風災害や後継者の問題などで、しばらく廃園になっていたんです。その頃、島の産業として養蚕産業が一気に盛り上がった時期があり、県内最大の養蚕団地があったほど。しかし、海外産の低価格繭の流入が増え価格は下がり、養蚕農家も高齢化。みるみる衰退していきました。仕事がなくなり、どんどん島の外に人が流出していってしまったんです。どうにかして、五島の新しい産業をおこし雇用の場を作らんばいけん、と思ったのも、お茶づくりを始めた理由の一つでした。」
「島では、耕作放棄地が増え続けています。ほったらかされてしまった土地は、どんどん土が悪くなっていく。そうなると、土の体力がなくなり美味しいものが作れなくなってしまうんです。また、『山が荒れれば海が荒れる』という言葉があるように、農業の衰退は、海にまでも影響を及ぼします。”これじゃいけん。島のためにひと肌、ふた肌もぬがんばいかん。”そう思って、耕作放棄地を茶畑として蘇らせていく取り組みをはじめました。」
生産者としての原点に立ち返った、オーガニックとの出会い。
経験のないお茶作りにチャレンジをしながら、「生産と同時にお茶屋(現在のグリーンティ五島)までやらないと、五島の経済がまわっていかない」と考え、栽培から販売まで、全てを自ら手がけることに。五島で作られた緑茶『五島茶』は、その確かな美味しさが口コミで広まり、他の地域へと販路が拡大していきます。
「知り合いに紹介され、静岡の茶商を訪ねた時があります。五島のお茶を出したら、”こんなお茶は飲んだことがない。この旨味と甘味はなんですか?”と驚きながら言われたんです。おそらく、堆肥と島の潮風が運ぶミネラルが、お茶を美味しくさせたのでしょう。そこから静岡の茶商との取引が始まっていきました。」
茶商も驚くほどの美味しさと、五島の風土が育んだ特異性を武器に、販路を徐々に増やしていきました。しかし、その後、産地表示義務化の波に揉まれ販路は縮小、ペットボトルの普及などで需要は落ちていく。そして、温暖化や台風の被害も一気に続き、苦しい時期を迎えます。
「いきなり売上が1/10、1/20に落ちていって、トラブルも起こる。肥料のお金も払えない。自分も家族もスタッフも意気消沈して、会話もなかったです。そんな、どうしようもない時にオーガニック農法に取り組む地元の人と出会い、もう一度、原点を見つめ直すことができたんです。
自分らの本当の原点にもどらんば。我々農家というのは、消費者に安心・安全・おいしさを届けるのが役目。それを自分は忘れておった。原点に戻ろう、と。教えてもらった有機農法を続けていくと、お茶も徐々に蘇っていき、さらにまろやかになっていきました。これしかない!と思いましたね。」
現在では、最も基準が厳しいとされる「EU(欧州連合)」の残留農薬基準もクリアし、有機オーガニック認証を取得。厳しい時期を乗り越え、消費者へより良い商品を届けながら、自分たちも胸をはって誇れるものづくりへと、歩みを進めていきました。
つばき茶、そして、レモングラス。新たな島の産物を生み出す。
震災以降、中国産のお茶が流入し、お茶の価格が暴落。その頃、五島列島では島の特産物を作り活性化につなげたいという動きがありました。素材として注目されたのが「椿の葉」でした。古くから椿が自生し、現在も栽培が盛んであった椿を活かせないか、入江社長にも相談が持ち込まれます。
「最初は、エグくて口に入っていかなかったんです。頭を抱えながらも試行錯誤の末、椿の葉と緑茶を混合発酵させる世界初の製茶法で”五島つばき茶”を生み出しました。つばき茶を、県の農業試験場に出してみたら、日本人の成人病の効果があるような、驚きの成分も出てきたんです。美容や健康効果も確認され、今や、五島の大切な地域産物の1つになっています。」
新たな地域産物を作るために、奔走した入江社長。「つばき茶で生産者の生活を支え、島に人を呼び戻すきっかけになれば・・・。」そんな想いが、彼の胸の内にはありました。
「近年、地球温暖化や台風など異常気象の影響で、お茶を育てるのがどんどん難しくなってきています。せっかく頑張って育てても、ダメになる。現場も疲弊してしまいます。”とにかく南方の品物が必要だ”と思い、色々調べた末に、レモングラスにたどり着きました。」
お茶っぱに続く第二の”柱”を作るべく、南方系の素材、特にハーブなどを検討していたところ、知人からレモングラスは島に雑草でも生えていて、越冬していることを教えてもらったそうです。現在のオーガニック農法と堆肥土づくりが、レモングラスにマッチし、美しい色をした香り高いレモングラスの栽培に成功。入江社長は、島の未来を見据えつつ、再びこの地ならではの素材を生み出しました。
『この島はいい島だと、若い人に自信をもたせんばいかん』
入江社長の挑戦の真ん中には、いつも島のため、島の豊かさや経済を守るという信念があります。そんな彼に、島の豊かさとは何か?と質問を投げかけると、こんな答えが返ってきました。
「それは、”経済と心”だと思います。いつでも向上心を持っていること。みなさんの活気、やる気が必要です。私が生きている間に、この島はいい島だと、若い人に自信をもたせんばいかんと思っています。地元に自信があれば、出ていこうとは思わないはずです。そのためには、外から来た人に、どんどん島の素材を磨いて美しくして、価値を高めて売り込んでいって欲しい。地元の人には、原石がわからなくなってしまっているんです。お互いにアイデアを出し合って、私たち生産者にもどんどん注文をつけてほしい。我々は、いくらでもいい素材を作って、それに応えていきたいと思っています。」
全ては、島の未来を見据え、次の世代に島の豊かさを繋ぐために。耕作放棄地を茶畑に、そして椿茶の栽培、新たにレモングラス生産へのチャレンジ。バイタリティ溢れる入江社長の姿からは、地元への深く大きな愛情と、ものづくりへの情熱を感じます。お茶から島を変えていく、グリーンティ五島の取り組み。次はどんな難題をクリアし、新たなチャレンジをしていくのか・・・今後も目が離せません。
有限会社グリーンティ五島
長崎県五島市吉久木町1179-2
Instagram:https://instagram.com/greentea_goto
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?