国指定文化財の“最古の日本庭園”が3年連続で年間来場者1,000人以下…日本の“文化財庭園”がこの先生きのこるには。
本記事は三重県伊賀市にある国指定文化財(名勝)の庭園『城之越遺跡』の紹介記事を再構成したもの。
というのも、庭園の紹介そのものよりタイトルにしたことをもっと伝えたいから。
日本最古の庭園『城之越遺跡』。
古墳時代の4〜5世紀(3〜400年代)に作庭されたと推定されている“最古の日本庭園”城之越遺跡。
1990年代初頭に発掘されたのちに国指定名勝&国指定史跡となり、1997年(平成9年)に史跡公園として開園。
庭園の講座とか聞くとやはり「すごいもの」として紹介されることが多い庭園の一つなのですが、2022年春に初めて訪れた時には庭園周辺に現代アート(彫刻作品)が展示されていた。
『大平和正展「風還元」野外プロジェクト』。
自分自身、また『おにわさん』では『室生山上公園芸術の森』や『モエレ沼公園』も紹介していたりするので、野外のインスタレーション、ランドアート、彫刻庭園は好きだ。今回の作品展示もとても楽しい、のだけど――
けど城之越遺跡に期待していたのはそこではなかったので結構ビックリした。
池の間際にまで作品が展示された姿は“ありし日の姿を”的な国指定文化財のポリシー(そんなの無かったらごめん)から割と逸脱しているように思えたし、本来は会期も昨年で終わっているはず…(「撤去に来られるはずなんですよねぇ」というゆるい感じで…いや、ゆるいのは好きだけど)。
…でも、「そうなる(=庭園そのものの価値ではなく、別の要素で集客する)のもしょうがない」と思う要因は「年間来場者が3年続けて1,000人以下」という現状。
国指定文化財の“最古の日本庭園”が3年連続で年間来場者1,000人以下の現実。
受付の方とお話しすると
「おととし年間で300人しか来なかったから、どうにかせんとってこの展示をやって、来場者が増えた」
というお話をお聞きして。
「300人?桁が一つ違うのでは…?」と内心思ったんです。
決してアクセスが良い場所ではないけど、1日1人も来ていない…?
で、帰って『伊賀市統計書』の<施設別観光客入込数>を見たら、確かに《2018年:713人→2019年:647人》と推移。
コロナ禍前からこの数字ってことは300人はマジだったんだな…。
展示のカタログの冒頭の《「日本最古の庭園」として一世を風靡した城之越遺跡だが、近年の来場者数は年間300人を割る。》は恨み節にも見える…。
300人だろうが500人だろうが700人だろうが、年間10〜20万円の入場料収入でこれだけ広い庭園&学習館を維持するのは無理ゲー。
それを前提に、庭園の“美しさ”で言うならば、自分の地元に平成年代に開園して文化財的な価値はまだ全くない『万葉の森公園』の方が綺麗だし来場者も多い…。“国指定名勝”として“芸術上または観賞上価値が高い”に達していると言えるのか。
そしてかつて“日本最古の庭園”と持ち上げた方々は、城之越遺跡のこの現状に気づいているのだろうか…。
“文化財の日本庭園”がこの先生きのこるには?
以前の↓の記事の中で書いたけど、2021年には『都道府県指定文化財』の庭園が、文化財指定を解除して解体・消滅するといったことがあった。
んだけど、このことを日本庭園の専門家やそれに近しい人とお話ししても結構みんな知らないんですよね。気づいていない。
『庭園に関わるプロ同士の情報共有不足』
『ネガティブな話題や課題は見ないようにしてる』
『業界がクローズド』
色々要因はあるんだろうけど(自分は業界の人じゃないので知らないけど)…
専門家が『文化財にするだけして、あとは知らん』みたいなものを一般の人が残したいとは思わないよね…。
一方で。
今回見た展覧会のカタログのご挨拶にある《普段見ることのできない客層》の来場や満足度の高さ、別のアーティストの《「私もここでやりたい」との声》という事実は本当に何よりで素晴らしいことで。
きっとこの“古代の祭祀の場”は制作のインスピレーションにも繋がる…。
けれどもやっぱ「ノーマルな状態の庭園施設として」年間500人前後じゃ少な過ぎるし厳しい。
たとえば。せめて造園・日本史系の学部の修学旅行や屋外授業・フィールドワークの場に出来ないものでしょうか。
伊賀上野まで含めれば下記のような、国指定史跡の藩校/国登録有形文化財の武家屋敷/三重県指定文化財で松尾芭蕉ゆかりの露地庭園もある。
そういう専門的な人が来ないなら確かに別に「アート作品が展示されたまま」の方がいいわけだから…。
「せっかく発掘して国指定名勝にまでしたのに、維持することの難しさ」を、庭園に関わる人自身がもっともっと実感する必要があるのではないか。
色々書いたけれど、決して施設のディスではなく、
『国指定文化財の庭園のこの現状、庭園シーンとして気づけているんだろうか?』という投げかけ。また芝生が青くなった頃に再訪したいと思います。