子どもの声が騒音?公園で大声禁止!遊び場を追われる子どもたち。解決策は?
公園で遊ぶ子どもたちの声が、近隣住民にとって騒音になってしまうことがあります。この問題は、子どもたちの自由な遊び場と、公園の近隣住民の快適な生活環境という二つの要望が対立しています。どちらも大切なことですが、どうすれば両立できるでしょうか。
この記事では、住民や自治体や専門家などさまざまな視点を参考にしながら、地域の公園利用のあり方を考えてみます。
子どもたちの遊び場の移り変わり
昔は子どもたちの遊び場所といえば空き地でした。そこでは年齢の違う子どもたちが仲良く遊んで、空き缶やゴムボールなど身近なもので色々な遊びを工夫していました。
高度経済成長期に入って開発が進むと、郊外の空き地は少なくなりました。その代わりに、子どもたちの遊び場としてブランコやシーソーなどの遊具がある「児童公園」が作られるようになりました。子どもたちは児童公園でさまざまな遊びを楽しみました。
しかし、少子高齢化や社会環境の変化で、児童だけでなく高齢者や障がい者も含めて幅広い世代が利用できる公園が必要になってきました。そこで、1993年に都市公園法施行令(都市公園の種類や配置基準などを定めた法令)が改正されて、児童公園と呼ばれていた公園は「街区公園」に変わりました。
遊び場が減って自由に遊ぶことにも制限
児童公園から街区公園に変わったことで、ブランコや滑り台などの「児童遊具」は撤去されることが多くなりました。そのかわりに「健康遊具」が設置されることが増えています。国土交通省の「平成25年度都市公園統計調査」によると、街区公園では1998年度から2013年度までの間に、箱型ブランコは9割近く減りました。ジャングルジムも半分以下になりました。一方で健康遊具は5倍以上に増えました 。
健康遊具は高齢者の健康増進を目的としたものですが、子どもたちも使ってみたくなることがあります。しかし、歩行運動遊具や懸垂器具は子どもたちにとって危ない場合もあります。足を挟んだり、落ちたりする事故が起きます。国土交通省は、「健康器具系施設は、主として大人が利用することを目的とした施設である。」「保護者は、特に、自己判断が十分でない年齢の子どもの安全な利用に十分配慮する必要がある。」と指針を出しています。
一方で、楽しく遊べる子ども向けの遊具が減ってしまうことに加えて、公園の一部では「大声を出さないでください」「走り回らないでください」という注意書きも見られます。これらの変化は、子どもたちが公園で自由に遊ぶことを制限してしまうものです。
子どもの声をどう受け止めるか ドイツと日本
公園で遊ぶ子どもたちの声が周辺住民にとって騒音として苦情が出るという問題は、日本だけでなくドイツやフランス、イギリス、アメリカなどでも深刻です。公園や保育施設で遊ぶ子どもたちの声が日常生活に支障をきたすとして、近隣住民が騒音とみなして騒音対策を求めるケースもあります。
このような状況にどう対処すればいいでしょうか。一つは「子どもが子どもらしくいられることが大切だ」という考え方です。この考え方に基づいて、ドイツでは2011年に「託児施設や子どもの遊び場などから発せられる音は、環境に悪影響を与えるものではない」という主旨の連邦環境汚染防止法改正案を可決しました。この法律は、児童保育施設などから発生する子どもの騒音を周辺の住民が一定程度は受け入れるようにとする法律です。東京都もまた2015年に「都民の健康と安全を確保する環境に関する条例(略称、環境確保条例)」を改正し、保育所などから出る子どもの声を規制対象から外しました。声だけでなく、足音、遊具音、楽器音なども規制の対象から外しました。
騒音でなく煩音という問題
近隣トラブルの原因になる子どもの声は、「騒音」ではなく「煩音」(はんおん)だと考えられる場合があります。「騒音」とは高い音量や周波数の音で、不快感を客観的に測定できるものです。一方、「煩音」とは八戸工業大学名誉教授で騒音問題総合研究所代表の橋本典久さんが提唱した言葉で、聞く人の気分や関係性によって不快に感じる主観的な音です。
例えば、自分の家で子どもや孫が遊ぶ声は楽しいと思うのに、近所で見知らぬ子どもたちが遊ぶ声はうるさいと感じることがあります。家で静かにしていたい時には遊具の音や足音も気になります。
橋本典久さんは、騒音問題と煩音問題では対策が異なると指摘しています。騒音問題は、防音対策によって音量を低減することで解決できることがよくあります。しかし、煩音問題の場合は、防音対策だけでは解決できないばかりか、逆効果になることもあります。それは煩音問題は人間関係の問題でもあるからです。互いに被害者意識を持ち、相手を敵視する傾向が強まると、トラブルはエスカレートする可能性が高くなります。
公園で遊ぶ子どもたちの声を受け止める
子どもたちは遊びに夢中になると楽しくて声が大きくなります。大人たちは子どもたちのそうした気持ちを受け入れてあげることが大切です。しかし、声があまりにも大きくて長時間続き、周囲の人々の生活に迷惑を与える場合は、声を抑えるように優しく声をかけましょう。公園で思い切り遊ぶことは彼らの心身の成長に欠かせないことだと認めつつ、周囲の人々にも配慮することをお話してください。声がうるさいからと子どもたちを排除したりすることは、公園の役割や意義に沿わないだけでなく、子どもたちの成長や社会性の育成にも良くありません。
公園利用者と近隣住民との共生
公園は子どもたちだけでなく、さまざまな人々が利用する場所です。赤ちゃんやベビーカーを連れたお散歩やベンチでの休憩、軽い運動などそれぞれが気持ちよく公園を利用できるようにするためには、公園の利用に関することを地域ごとに利用者や近隣住民と話し合ったり調整したりしながら共生していくことが必要です。
そのためには、制限ルールだけではなく柔軟性も大切です。例えば、いま子どもたちの間で人気のある外遊びを大人たちが教わったり、子どもたちが大人たちからベーゴマなど昔遊びを教わったりして一緒に遊ぶイベントを企画してみるのはいかがでしょうか。高齢者や在宅の機会が多い方々が参加することで、外出のきっかけや楽しみが増えるだけでなく、子どもたちと顔なじみになって信頼関係や地域のつながりが深まることが期待できます。
こうして、子どもたちの楽しそうな顔を見て声を聞いて、「今日も元気だね」「楽しく遊んでいるね」と感じられるようになれば、子どもたちに対する不快感も減らせるのではないでしょうか。