【ファンタジー】ケンとメリーの不思議な絆#39
第六章 時の流れと共に
メリーへの報告
おばあちゃんが消えるのを目の当たりにしたメリーの息子のケンは自分の体験がまだ体から冷めない内に家に帰ろうと思い、来た道を戻っていった。もう、新しい土地を見学するどころではなかった。早る気持ちのまま渡ってきた吊り橋のところまで走っていき、そのまま橋をを渡った途端に曇天だった空が一瞬にして晴天の青空へと変わり太陽の光を浴びていた。橋を渡り切って後ろを振り返ると、今渡ったはずの吊り橋は忽然と消えて無くなっていた。そこにあるのは深い谷底へつながる亀裂だけだった。そんな現象にも驚くことなくケンの身に起こった不思議な出来事を素直に受け入れていた。
「もしかすると、だれかが僕を呼び寄せてくれたのかな。おばあちゃんと会えるように。でも不思議な体験だったなぁ、早くお母さんに話してあげたいな」
帰りはほとんど下り坂ばかりなので来た時よりも早く家にたどり着くことができた。そして、夕方陽が沈む前になんとか家まで帰り着いた。興奮し冷めやらぬケンは、自分の身に起こった一部始終をキヨシとメリーに熱く話した。二人は、微塵も疑うことなくケンの不思議な体験談を、大粒の涙を浮かべ手を取り合いながら息子の話を静かに聞いていた。そして、かけがえのない家族と友達の大切さを噛み締め、ここにケンがやって来た年にできたビンテージワインを一本持ってきてコルクの栓を抜き、メリーの両親の分と親友のケンの分のグラスも準備し、食卓に並べ、親子三人で夕食とともにワインで乾杯した。
親子三人は、グラスを合わせ、両親とケン三人の冥福を祈りつつ、これからも変わらぬ家族の愛を誓ってワインを口に運んだ。そう、アルコール度数の低い当時のワインだ。このワインがキヨシとの縁を結び、アルコール度数の低いワインでなんとか日本市場の販路をつくり、今日に至ることができることになったのだから面白い。今の生活の基盤になったとも言える当時のワインだった。全ては、当時バックパックでやってきた日本人青年のケンの偶然の訪問から始まったのである。もし、あの時ケンが違うルートを選択していたら、もしかするとケンはまだ生きていたのかもしれないし、その時はメリーのワイン工場は継続できていなかったのかもしれない。もちろん、キヨシとの出会いもなくなり、今こうして存在している愛息のケンも存在していなかっただろう。そう思うと、ケンの命の重さをありがたく感じるキヨシとメリーだった。キヨシはケンの遺骨の捜索をフランス警察に願い出ることにした。
つづく 次回から第七章に入ります
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