【ファンタジー】ケンとメリーの不思議な絆#35
第六章 時の流れと共に
一人旅での発見
キヨシとメリーの息子であるケンは、初めての一人旅に興奮していた。今回は飛行機や列車を使った旅ではないが、今まで行ったこともないところに一人で行くということ自体に興奮していた。背負ったリュックの重さも全く気にすることなく、いつも見ていた丘の向こうのそのまた向こうの景色を見てみたかった。なんとなく、不思議な力に導かれるかのように額から汗を流しながらひたすら歩いた。
偶然なのか何かに導かれたのか、二十年近く前に、旅行者である日本人のケンが落ちてしまった谷底のそばまでやって来ていた。しかし今は昼間なので亀裂がよく見える。そっと覗き込んでその深さを確認していた。
「うわっ、ここ危ないなー、夜に来てしまうと落ちてしまうかもしれないな。柵を作った方が良さそうだ。帰ったら村の人に言っておこう。でもここってすごい昔からあるはずなのに何で誰も気づかなかったんだろうなぁ。不思議だなぁ」
ケンは、亀裂に沿って歩いてみた。一時間くらい歩いたところに、亀裂の向こう側に渡れる橋がかかっているのを見つけた。長さは五メートルくらいの小さな吊り橋である。走ってジャンプすれば越せそうな亀裂だが、谷底を見るとそんな勇気は出ない。橋を探して正解だった。とりあえず橋を渡り、亀裂の向こう側へと渡った。橋を渡る前は快晴とも言える真っ青な空だったはずなのに、橋を渡った途端に、どんよりとした雲に覆われた空に一瞬にして変わっていた。
「変だな、なぜ一瞬で空が変わったのかな。そういえば、霧のようなもので先がよく見えなくなってきたな。でも、向こうのほうにはなんとなく灯りがついている気がする。なんか呼ばれているみたいだよなぁ」
ケンは慎重に足を進めていた。初めて来た場所なので、足元には十分注意しながら進んだ。一歩一歩と進んでいくたびに霧の様なもので視界が悪くなっていった。それでも、なんとなくぼんやりと見える灯りに向かって歩いていった。すると少しずつ霧のようなものが薄らいで、曇り空の下に街が見えて来たのだった。
「えっ、こんなところに街があったなんて。聞いたこともないな。時々山を降りて買い物に行く街より大きな街みたいに見えるな。でもおかしいなぁ。こんな山の上に街があるなんて。もしかして蜃気楼なのかなぁ」
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