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【ファンタジー】ケンとメリーの不思議な絆#15

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第三章 奈落の底から


落下

 いきなり、足元にあったはずの地面がなくなっていた。暗くて全く気づかなかったが、谷底につながる亀裂があったのだ。深さは五十メートルはありそうな感じだった。谷底には小さな川が流れていた。左足は亀裂のヘリを捕らえていたので気づかず、そこから右足を一歩前に踏み出したとき、当然あると思った地面がなかった。地面がないと認識した時は遅かった。全体重は右足にかかっていた。重力は容赦無くケンに襲いかかって来て、まるで飛び降り自殺をするかのように真っ暗な亀裂の中にケンは落ちていった。落ちていく途中で、「ここで死ぬのか」とケンは覚悟した。そして、亀裂の底を流れている小さな川底に叩きつけられた。ドン、バシャーンという大きな音も亀裂の中ではかき消されてしまった。ケンは落下中に気を失ってしまっていた。

 どのくらい時間がたったのだろうか。ケンもわからない。上の方をみると高いところにうっすらと空のような空間が少しだけ見える。しかし、あんなに高いところから落ちたはずなのに痛みがどこにもない。一体どうなっているのだろうと思っているところに、黒いスーツを着た男がどこからともなく舞い降りてきて話しかけてきた。

「私は案内役です。あなたと同じような境遇になった人たちがたくさんいる街にお連れします。さぁ、私の手をとってください」男は右手を差し出して来た。

「ちょ、ちょっと待ってくれ。同じような境遇ってどういうこと」

「生前は良いことをしたのに予期せぬ事故で命を失ったという境遇です」

「うわっ、混乱するなぁ。ということは僕は死んだっていうことなのかな」

「はい、人間としては死んでしまわれました。本来はもっと長生きするはずでしたが、あなたがワイン工場に立ち寄ったところで、時間の歪みが発生し、結果としてあなたはここで死んでしまいました」

「そんな。こんな遠いところで死んでしまったのか」

「さぁ、行きましょう。あまり時間がありません」ケンは男の手を取った。

 その瞬間、ケンの体はフワっと宙に浮き案内役とともに空中へと引き上げられていった。まるで自分の体重を感じないことが不思議だったが、死んでいるのだから当たり前かと妙に自分で納得していた。そう、実際に持ち上げられたのはケンの魂だけだったのだから。


つづく


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