【ファンタジー】ケンとメリーの不思議な絆#18
第三章 奈落の底から
母の安心
ケンはとても感じのいいメリーのお母さんと話ができてホッとしていた。自分の母親は遠く離れた日本にいて会えずじまいで自分が死んでしまったことを悔やんでいるに違いないと思ったからだ。なので、少なくとも目の前にいるメリーのお母さんには安心してもらいたいと思ったのである。ケンは、自分がメリーと出会うまでのことを簡単に説明していた。
「僕は旅行が好きで世界中を回っていたんですよ。旅行が好きというより人が大切にして来た慣習や伝統が好きなんです。それで、いろんな遺跡をみたりしながらいろんな国の人の話を聞いて旅をしていたんです。今回はやっとフランスに入ることができて、天気のいい日に延々と広がる葡萄畑を見ながら歩いていたら、バッタリとメリーさんとお会いしたんです。メリーさんは僕をワイン関係者かなと思って声をかけてくれたようです。もっともこんな見窄らしい格好をしたワインの買い付けをする人はいないと思うんですけどね。その時、まるで天使のような笑顔で僕に話かけてくれたんです。成り行きで一緒にメリーさんのワイン工場まで歩いて行き、そこでワインをご馳走になりました。その時にご両親が健在の時のようにワインが出来なくて売れなくなっていると嘆いていました。工場の存続も危険な状況のようです。葡萄畑の手入れが十分にできなくて葡萄の糖度が上がらないんだそうです」
「まぁ、あの子はそんな苦労を一人でしたのね。かわいそうなメリー。私たちが死んでしまったばかりに苦労させてしまったのね」
「でも、そんな状況なのに、僕のことを心配して泊まっていくようにと勧めてくれたんです。なんでも、山の方には危ない場所があるから夜の山歩きは危険だということで。僕もその優しさに甘えることにして泊めてもらうことにしました。本当に優しい娘さんですね、メリーさんは。とてもいい人です」
「ありがとう。そうなのよ、あの子は小さい頃から人のことばっかり考えて自分のことは二の次に考える子だったわ。変わってないのね。安心したわ。それでこそ私たちの子よ。でもワイン作りが上手くいかなくなったというのは、私たちの責任よね。申し訳ないわ。できることなら手伝いたいわ」
ケンは、やっぱりは母親はいつでも子供のことを心配するんだなと思い、自分の母親も同じだろうなと思った。両親より先に死んだことをどこかで謝りたいと思ったのだ。けれどもその前にメリーの状況をメリーのお母さんにに教えてあげられたことで少しだけ救われた感じになっていた。
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