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【ファンタジー】ケンとメリーの不思議な絆#38

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第六章 時の流れと共に


隣人ケンの安心

 家の前ではケンの呼ぶ声が虚しく響いていた。会えたことに興奮していたケンのおばあちゃんの姿は徐々に薄くなり、そして最後にはきれいに消えてしまった。ケンは自分の父の友達も亡くなっていたということも知った。自分の知らない世界を知るということはこんなにも衝撃を受けるものなんだということをケンは身をもって感じていた。嬉しい気持ちと悲しい気持ち、そして最後にはやるせ無い気持ちが襲い掛かっていた。

 それをじっと見守っていたのは、家の中にいたケンだった。大粒の涙を流しながら、声をかけたい衝動を一生懸命に堪えていた。自分が声をかける相手ではないと自分に言い聞かせ、表にいるケンが落ち着くのを静かに見守った。外に行った妖精は家の中で涙しているケンの元に戻って来た。

「ケンさん、初めまして。私はメリーのワイン工場にいたワインの精なのよ。名前はハーサ。葡萄畑を守るために力を使い果たして私は死んでしまったけど、メリーのところにはまだ二人の妖精がいてメリーの家族を見守っているわ。それに、ケンさんがキヨシさんに託したワインの販売はとてもうまく行って順調よ。私たちもちょっとだけお手伝いしたの。キヨシさんはフランスまで来て葡萄畑とワイン工場を一人で切り盛りしているメリーに会って、お互いに惹かれあったの。そしてキヨシはフランスでのメリーとの生活を選択したのよ。それからワイン作りも徐々に軌道に乗って今はもう心配することのないほどに大きくなったているわ。だから安心して、ケンさん」

「教えてくれてありがとう。気がかりだったワイン販売がうまくいっているみたいでホッとしたよ。そうか、キヨシとメリーが結婚したんだ。ケンとメリーというわけにはいかなかったけど、キヨシなら安心だ。それに子供の名前に僕の名前をつけるなんて。キヨシらしいな、律儀で。ありがとう。二人の子のケンはメリーさんによく似てるよ。ハーサ、ありがとう」

 ケンは谷底に落ちた時から止まっていた時間が一気に過ぎ去った感覚を感じていた。そして、その時間は生きていたらとても長い時間だったんだということを、メリーの息子ケンの成長した姿を見て感じていた。多少の後悔がないといえば嘘になるが、それ以上にキヨシやメリーたちが幸せに暮らしているとわかり、ケン自身も幸せな心持ちになっておだやかになっていた。

「こうなると、日本にいるお母さんとお父さんが気になり始めたな。まだ元気に暮らしているのだろうか。僕は死んだことになっているのかな」


つづく


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