覚える数字はふたつだけ: ピタゴラス音律、純正律とセント値

さて、今まで周波数比で計算してきた数字をセントに直そう。

まず、ピタゴラス音律は純正完全5度から成るのであった。純正完全5度は約702セントである。平均律と比べると2セント広い。もう少し正確には1.955セントくらいである。

702セントを12回重ねると7オクターブと24セントになる。これがピタゴラスコンマである。実際には小数点以下の誤差が溜まっていて、もう少し正確には23.46セントくらいである。四捨五入してもギリギリ24セントにならない。

純正律はこれに純正長3度が加わる。純正長3度は約386セントである。平均律と比べると14セント狭い。もう少し正確には13.686セントくらい狭くて、386.314セントくらいである。

覚えなければならないのは+2セントと-14セントのふたつだけで、あとはすべて計算で簡単に求まる

完全4度は完全5度の転回音程だから、1200から702を引いて498セントである。つまり、平均律より2セントだけ狭い。 

短3度は完全5度と長3度の差なので2-(-14)=+16(中学校数学)、つまり平均律より16セント広く、316セントである。

大全音は完全5度ふたつだから、2セント+2セントで、平均律より4セント広く204セントである。ピタゴラス音律の長2度はすべてこの値である。小全音は長3度と大全音の差だから、-14-4=-18、つまり平均律より18セント狭く、182セントである。

ピタゴラス音律の長3度は大全音ふたつ分だから平均律より8セント広い。一方、純正律の長3度は平均律より14セント狭いので、純正律から見るとピタゴラス音律の長3度は22セント高いわけだ。これをシントニックコンマという。

半音も計算しよう。全音階的半音は完全4度と長3度の差だから、純正律なら-2-(-14)=+12、つまり平均律より12セント広くて112セント。ピタゴラスの場合は長3度が+8セントなので、-2-8=-10、つまり10セントだけ平均率よりも狭く、90セントである。

半音階的大半音は大全音と全音階的半音の差だから、+4-12=-8、つまり平均律より8セント狭く、92セント。半音階的小半音は小全音と全音階的半音の差だから、-18-12=-30、つまり平均律より30セント狭く約70セント(より正確には70.67セント、四捨五入すると71セント)。

ピタゴラス音律の半音階的半音はひとつしかなく、大全音から全音階的半音を引いて平均律に比べて14セント広く、114セントになる。

広い短2度は大全音から半音階的小半音を引いたものだから、+4-(-30)=34、つまり平均律より34セント広く、134セントである。

さて、もう一度三度の川と島に登場してもらう。今度は概算のセント値もすべて記入した。

================ 越えられない壁
B Ra/Te  112(+12) 16/15
F Le/Fa  864(+14) 8/5
C Me/Do  316(+16) 6/5
G Te/So 1018(+18) 9/5
---------------- 三度の川
D Fa/Re  498(-2) 4/3
A Do/La    0(0) 1
E So/Mi  702(+2) 3/2
H Re/Ti  204(+4) 9/8
---------------- 三度の川
Fis La/Fi  884(-16) 5/3
Cis Mi/Di  386(-14) 5/4
Gis Ti/Si 1088(-12) 15/8
Dis Fi/Ri  590(-10) 45/32
---------------- 果ての川
Ais Di/Li   70(-30) 忘れられた街
================ 越えられない壁(減2度トンネル)

川を渡ると20セント低くなるように見える。さっきシントニックコンマは22セントといったではないか。…落ち着こう。シントニックコンマはピタゴラス音律との差である。ピタゴラス5度上がってシントニックコンマの22セント下がるから、2セント上がって22セント下がり、20セントで正解である。

純正律の五度圏一周は長3度3回分になるから、14×3=約42セント低くなる。より正確には41.059セントで、四捨五入すると41セントである。これが減2度の音程である。五度圏を回っていって12個目の5度(忘れられた街)はこの音程だけ低くなり、トンネルを抜けることで減2度下がり、42セント上がって元の音に戻る。

実際には11個目のDisの音はこれより20セント高いので、22セント下になる。つまり、五度圏の最初の音との間隔は平均律に比べて22セント広い。純正完全5度は純正律より2セント広いので、純正完全5度に比べると20セントほど広いが、意外とひどくない。

最後に、数学的にセント値をどう計算するかだけ書いておく。高校数学の範囲で計算できる。周波数比を2を底とした対数(log2)を取り、1200倍しただけである。オクターブは2倍だから、2を底とした対数は1になり、セント値は1200になるわけだ。

計算機で計算するときはlog2がないことが多いので、底の変換公式を使って、適当な対数を取ってから、その対数を使って2の対数を取って割ればよい。純正完全5度なら周波数比1.5倍だから、こんな感じである。

今年の更新はこれでおしまい。皆様、良いお年を。

いいなと思ったら応援しよう!