器楽と声楽の楽譜の大きな違い

吹奏楽の楽譜はパート譜である。

トランペットはさらに1st・2nd・3rdと3パートに分かれることが多いが、それぞれひとつの楽譜である。つまり、ラッパだけで楽譜が3つある。

ホルンは4パートに分かれることも多く、4つ楽譜ができることになる。まとめたとしても1st&2nd・3rd&4thで楽譜はふたつできる。この場合、声楽でdivisiしたような書き方で最初から最後まで書いてあると思えばだいたい間違いない。

基本的に自分が見る楽譜には自分が吹く音しか書いてない。2パートがまとめられててもせいぜい隣の人か2〜3人向こうの人までだ。他のパートが吹いていても自分が休みなら休符だけ書いてある。

それどころか、休みがまとまっているとアルファベッドの大文字のIを横にしたような太線を書き、その上に休む小節数を数字で書いて済ませてしまう。

練習番号、転調など、複縦線が入るところを超えてまとめることはしないが、初見大会で変拍子だったりすると数えるのが大変である。他のパートの音符はほぼ書いてないので数え間違えたらアウトである。復活は絶望的である。

初見大会をやっているとだんだんと墜ちていく人が増えていき、最終的には空中分解というオチが待っていることが多い。

練習が進んで曲の流れが分かるようになれば数えなくても自然と入れるようになるのだが、本番で間違うまいと思って数えていると、そういう時に限って魔物がひょっこり顔を出してソロの入りを1小節間違えたりするわけだ。

パート譜は自分の音以外は全く分からないので、全体合奏していて「あれ、なんかおかしいぞ?」と思った時は疑義のあるパートまで行って楽譜を見せてもらわなければならない。

パートによって休符の位置と量が違うから、調べたい場所が書かれている位置もパートによって違う。練習番号や小節番号を頼りに楽譜を追って、「あ、間違ってたの俺だわwww」ということもあったとかなかったとか…

何となく和音がおかしいんだけど、といった場合、疑義のあるパートが分からないので、あとで指揮者のところに行ってスコアを見るしかない。

これに対して合唱では全部のパートが書いてある楽譜を使うのが普通である。ピアノ伴奏がある場合、歌と一緒に伴奏もくっついている。つまり、合唱ではスコアを見て歌っていることになる。間奏の部分なんかは歌の段が省略されてピアノだけの場合もあるが、コンデンススコアと言えないこともない。

休符が連続していても、間奏で歌が全部お休みでも、ピアノ伴奏の音符を追えばまず数え間違いはない。なんかおかしいと思えば誰でもすぐに他のパートを確認できるし、気になった和音を調べるのも容易である。和音フェチには大変ありがたい。

指揮者に「ラッパはフルートの旋律を受けて吹くように」と言われたら、吹奏楽のパート譜ではそのまま書いておくしかないが、「テノールはソプラノの旋律を受けて歌うように」と言われたら、ソプラノからテノールへ向けてぐにょんと線を引けばOKである。

和音構成、自分が和音の第何音なのか、どのパートと調和してどのパートとぶつかるのか、旋律がどう繋がり、どこでリズムがばらけてどこで揃うのか、そういったことを全員が理解できる状況にある。

現役の頃はそこまで考えて歌ってなかったこともあり、気がついたのはやはり本格的に合唱を始めてからである。合唱をやっている人にとっては当たり前なのだろうが、これは大変に贅沢なことである。これがタイトルに書いた「大きな違い」である。

他のパートに目を通さずして質の高い演奏は望めない。自分のパートしか見ていない人は大変大きな損をしている、と思うべきだ。

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