ハモりの物理
ハモりは数学と物理で説明できるのだが、数式を書くのも面倒なのでざっくりと説明してみる。
まず、例のA=440だが、この440のことを周波数といい、単位はHzで、ヘルツと読む。これはその昔、電波が実際に存在することを実証したヘルツさんが由来なので、Hは大文字である。
何が440なのかというと、振動している回数が1秒に440回である。回数は往復で1回と数える。声なら声帯、リード楽器ならリード、金管楽器なら唇、弦楽器なら弦が1秒に440回の速さでぶるぶるしているとAの音に聞こえる。というか、昔はAが何Hzと決まっていなかったので、ある時に「Aは440Hz」と決めたのである。
周波数の数字が大きくなる、つまり、1秒間により多く振動すると、音は高く聞こえる。だから、周波数の数字が大きくなることを、普通は「周波数が高くなる」と言う。逆は「低くなる」である。
人間が聞き取れるのはだいたい20Hzから20,000Hzと言われている。20,000Hzは0が多くて読みにくいので、20,000mを20kmと書くのと同様、20kHzとも書き「にじゅっキロヘルツ」と読む。
携帯電話で「プラチナバンド」と言われている電波の周波数はMHz(メガヘルツ)の単位で、kHzより3ケタ以上大きい(まぁ音じゃなくて電波だし)。ちなみに、数字が大きくなる方の接頭語は基本的に大文字で書くが、キロだけは小文字で書く約束になっている。
聞こえる周波数の範囲は動物によって違い、猫はかなり高い周波数まで聞き取れるらしい。ニンゲンの中でも個人差があり、一般的には年をとるほど聞こえなくなる。科学館などで「どこまで聞こえるかな?」みたいな展示はまず子供には勝てないことになっている。子供が喜ぶこと間違いなし。
それどころか、学生の頃に研究室に音を出す機械があったので、同級生と「どこまで聞こえるかやってみようぜ」って誘ってみたら、自分が一番最初に脱落した、という経験がある。ちなみに、今は16kHzも聞こえない。
モスキート音というのは20kHz前後の音で、若い人には聞こえるが年寄りには聞こえないので、若い人がうるさがって近寄らなくなる、という原理である。どうせ聞こえませんよーだ(年寄りのヒガミ)。20kHzを超える音は超音波と呼ばれる。
人間がよく聞こえるのは2kHzから4kHzくらい。440HzのAの音というのは楽譜でいうとト音記号の真ん中あたりの音で、周波数は1オクターブ上がると2倍になるので、上に飛び出したCに8vaを付けたくらいからがよく聞こえる範囲になる。基本的にこれより低くなるほど聞こえにくくなっていくので、アルトはどうやってもソプラノには勝てない(いや勝敗じゃないって)。聴覚検査で使う高い方の音は4kHzらしい。
そして、ピッチがちょっとズレてる時に聞こえるうなりの速さはふたつの音の周波数の差になる。「うなり」はそのまま普通に物理用語である。英語では「beat」なのだが、音楽でも同じ言葉が使われる(「拍」のこと)ので、ちょっとややこしい。440Hzのチューナーと441Hzのチューナーだと差が1Hzなので、1秒に1回のうなりが聞こえるわけだ。
これは数式で説明できる現象であって、耳に届いている音が実際にうなっている。マイクを使って録音して波形を見ればうなっている様子がはっきり目に見えるし、それを再生すれば当然うなっている音が鳴る。うなりが聞こえないのは聞いている方が原因であって、気のせいとか都市伝説とかで済ませてはいけない。
だから、うなりさえ聞いていれば実はチューナーのメーターは必要ない。吹奏楽部で全体合奏をやる時に1人ずつチューニングをすることがあるが、メーターがきっちりゼロになるまで調整するのはあまり意味がない。だって管が冷えたら音程変わっちゃうし。
順番待ちの時にきちんと管を温めて、自然なアンブッシャーで吹いた時にうなりがなくなるかなー、というあたりでサクッと管の抜き加減を決めるだけでいい。合奏中にアンブッシャーが高低どちらかに偏るようなら、自分の判断で管を抜き差しすべきである。どうせあとで抜き差しするんだったら厳密に合わせようとしても時間の無駄で、サクッと合わせて合奏の時間を増やした方がいい。