倍音と音程の計算で全音階を作る(純正律)

前回の倍音と度数の関係を、オクターブ調整して周波数比に直し、低い方から順に並べてみると、

ド 完全1度 1倍
レ 長2度 ?
ミ 長3度 5/4倍
ファ 完全4度 4/3倍
ソ 完全5度 3/2倍
ラ 長6度 5/3倍
シ 長7度 ?
ド 完全8度 2倍

となり、レとシが判明すれば新しい音律ができそうである。

シは割と簡単である。オクターブから短2度を引けばよい。短2度はミとファの間の音程なので、4/3を5/4で割って16/15倍である。オクターブからこれだけ下げるので、2を16/15で割って、15/8倍である。

レであるが、こちらは長2度である。長2度はふた通りの計算がありそうだ。ひとつは完全4度と完全5度、つまりファとソの差。もうひとつは完全5度と長6度、つまりソとラの差である。

前者は3/2を4/3で割るので9/8である。これは3オクターブ上げれば、前回ちょっと書いた第9倍音であることが分かる。

後者も計算してみる。5/3を3/2で割るので、10/9である。あれ、さっきの結果と微妙に違う。

ここで、今計算した長2度をふたつ重ねて長3度を計算してみよう。

前者は9/8×9/8だから81/64で、これはピタゴラス音律の長3度と同じだ。

後者は10/9×10/9だから100/81である。…あれ、どっちも純正長3度にならない。

実は、ふたつの長2度を両方使って3度を作ると9/8×10/9=5/4で純正長3度になる。だから、このふたつの長2度はどちらかが正しく他方は間違いという性質のものではなく、どちらも必要である。

長2度は全音であるが、9/8の方が周波数比が大きい(分数の比較は小学生の算数)ので大全音、10/9の方は小全音と呼ぶ。このように純正の長2度は必ずどちらの全音か指定しなければならず、また、純正だからこそ大全音・小全音が意味を持つようになるので、指定されていたら大抵は純正音程である。

残る問題はレにどちらを使うかである。ドミ間は純正長3度なので、レに大全音を使えばレミ間は勝手に小全音になる。レに小全音を使えばレミ間は大全音になる。

どちらでも良さそうだが、実はレの音程が動くと影響を受ける音程がある。それはレから完全5度上がったラと、完全5度度下がったソである。

まずは大全音で計算してみる。レからラは5/3を9/8で割って40/27となり、純正にならない。一方でレからソは3/2を9/8で割って4/3、つまり純正完全4度である。転回音程はソレになり、純正完全5度である。

小全音で計算すると実はこの関係が逆になり、レラ間が純正完全5度となり、レソ間は純正音程にならない。つまり、この音律ではソレの完全5度と、レラの完全5度を同時に純正にすることができない。

残りの5度は、ファ-ド-ソは純正になるように決めたのだから当然純正である。ラ-ミはラ-ド間が純正の短3度、ド-ミ間が純正の長3度なので、このふたつを足した5度は前回書いた通り純正になる。また、ファ-ドが純正で、ドからシはファからミと同じに取ったのだから、ファ-ドから両方の音を同じだけ下げたミ-シも純正である。

したがって、ソ-レ間を純正に取るとファ-ド-ソ-レとラ-ミ-シが純正になり、レ-ラ間を純正に取るとファ-ド-ソとレ-ラ-ミ-シが純正になる。これは五度圏に書いてみるとよく分かる。

そして、五度圏上で純正ではない5度を挟んだ長3度と短3度が実は純正になる。長3度はファ-ラ、ド-ミ、ソ-シの3つあり、すべて純正である。短3度は長3度よりひとつ多く、レ-ファ、ラ-ド、ミ-ソ、シ-レの4つある。このうち、ラ-ドとミ-ソは常に純正だが、レ-ファとシ-レはレの選択の影響を受け、どちらか一方のみが純正である。

ド-レを大全音に取ると、ドミソ・ミソシ・ファラド・ソシレ・ラドミの5個の和音が純正になる。レファラは純正にならず、短調には使いづらい。

ド-レを小全音に取ると、ドミソ・レファラ・ミソシ・ファラド・ラドミが純正になる。ソシレは純正にならず、長調にはちょっと使えない。

前者は純正律長調、後者は純正律短調と呼ばれることが多い。つまり、純正律は同じ調号の調(平行調、ややこしいから同号調って呼べばいいのに、っていつも思う)でも長調と短調で音律が異なる。

他にも色々特徴があるのだが、それは次回に。

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