つみのかじつは夢をみせる【編集版⑱】
良い文章を読むと心が満たされる。素敵なnoteの記事を読んで今日1日分の満足を得た。向こう3日位幸せに暮らせそう。
これはその素敵な記事、ではなく昨日私が投稿した記事。続きを載せていこうのコーナー。
今日のテーマは「平成風俗」。このアルバム好きすぎ問題。定期的にこれだけ聴きたいときがある。
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てめえの人生、てめえで咲かす~『平成風俗』~
2006年公開の蜷川実花監督作品、映画「さくらん」を観た。昨年観たような気がするけれど、今年は冬に大人気作品『鬼滅の刃』の中で吉原遊郭を舞台にした話のアニメ放送が始まるので、その世界がどんなところなのかを軽くおさらいしておくには丁度いい作品だし、何より私は彼女の作品が大好きで、久々に蜷川実花が映す色鮮やかな世界に久々に触れたかった。
遊郭は花やかで人の欲が渦巻いていてかつ残酷な、女性が主役の世界である。そんな世界を描いた安野モヨコ原作の漫画を蜷川が映像化したのが「さくらん」である。そしてその世界を音楽で彩ったのが椎名林檎である。アルバム『平成風俗』は映画で椎名が手掛けた音楽が収録されており、彼女の実演や作品に欠かせないヴァイオリン奏者で指揮者でもある斎藤ネコとの共同名義でリリースされた。
『平成風俗』には、ソロ名義での既発曲を英語詞にしたりリアレンジした「茎」や「浴室」「迷彩」、新曲「錯乱」や「ハツコイ娼女」、カバー曲「夢のあと」(原曲:東京事変)、「パパイヤマンゴー」(原題:MANGOS、ローズマリー・クルーニー)、兄・椎名純平とのダブルボーカル曲「この世の限り」など、全13曲が収録されている。
アレンジなどの効果もあるだろうが、映画の中で劇中歌として流れているのを聴いたうえで改めてアルバム1枚を通して聴くと、別々のアルバムに収録されていた楽曲たちが遊郭に売られてきた1人の女の子が、禿から花魁になるまでとその後を描いているように思える。
「さくらん」で描かれた遊郭の女の人生は波乱万丈と表現するにふさわしい。土屋アンナ演じるこの物語の主人公・きよ葉(のちの日暮花魁)は、桜の綺麗な時期に玉菊屋に身売りされ、菅野美穂演じる粧ひ花魁の引っ込み禿となる。が、幼いきよ葉はこの女の世界で自分も「女」になっていくのが嫌になり脱走を試みるが、その後粧ひに諭されて日本一の花魁になると決意する。
脱走を試みて失敗したり、きよ葉より先に花魁になった木村佳乃演じる高尾花魁が客と心中しようとして自分だけ先に死んでしまったりと周囲も色々あったが、自分は身請けされるその日に店の男衆と2人で遊郭を抜け出して桜を見に行く。
1曲目の「ギャンブル」はきよ葉の花魁道中のシーンで流れる。きよ葉は粧ひに宣言した通り花魁となり日暮と改名する。
〈此の勝負に負けたら「生キテユク資格モ無イ」〉
という歌詞で花魁として歩く日暮の凛々しい顔が浮かんでくる。
オープニングテーマに使用された8曲目の「迷彩」は、これからきよ葉が過ごしていく遊郭という世界そのものを表しているのだと思う。【妖艶】。この曲を最初に聴いた時に浮かんだ言葉だ。遊郭の女たちは皆綺麗な着物を身に纏い、愛想と色気を武器にしてやってきた男たちを魅了する。花やかな世界のように見えて混沌とする世界へ視聴者を誘う。そのオープニングテーマとして「迷彩」と名付けられたこの楽曲はうってつけだ。
〈逃げ延びて〉水蜜桃に未練 砂みたいな意識と云ふ次元で 逃げ延びて暑さよ何処へ 揺れが生じ 其の儘 怠惰に委ねた最後の青さ まう還らないと知つた温度も超へられぬ夜の恐怖色 境界に澱むでいた決心の甘さ たうに喪つた岸壁打つは引いてくれぬ後悔と濤の色〉
と歌われる一番のBメロとサビは遊郭の華やかさと混沌が入り混じったような感じがする。
そして12曲目の「夢のあと」は東京事変の一期(H是都M・ヒラマミキオ・亀田誠治・椎名林檎・刄田綴色)が制作したアルバム『教育』に収録されている曲をリアレンジしたものであり、映画のラスト、身請けされる直前に店の男衆と遊郭から抜け出し、桜を見に行くシーンで流れる。
遊郭はいわば作られた華やかさであり、人間の欲が根深くあるため、一見わからないような混沌さがある。それが夢のような時間を作るのだ。
しかし、2人が遊郭を抜け出して見た桜はどうであったか。映画を観ている私の目にはものすごく美しく映った。
〈手を繋いで居て 喜びで一杯の球体を探り直して この結び目が世界に溢れたら ただ同じ時に遭えた幸運を繋ぎたいだけ この結び目で世界を護るのさ 未来を造るのさ〉
日暮たちは2人で、自分たちの世界を護り、そして未来を造っていこうとしたのではないだろうか。遊郭を抜け出した2人にはきっと明るい未来など無いかもしれない。それでもあの桜は、人の欲も作られた華やかさも無くて、ただただ美しかった。そしてそのシーンを引き立たせるのは「夢のあと」一択だ。
「平成風俗」は映画のサントラではあるけれど、1人の遊郭に生きた女の一生そのものなのである。
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このシリーズ長いなと思っていたそこの貴方、日曜日の午前中(予定)に完結します。