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こんなぼくがオンライン塾の講師になるまで

意気込んで辞めてみたものの

さて、意気込んで会社を辞めてみたものの、
ぼくにあるスキルは教育系のものばかり。
営業経験も少なく、パソコンが使えるわけでもなく。

資格予備校に入ったものの、先立つ物がない。

「やっぱり、塾か…」

しかし、このコロナ禍である。
集団授業はほぼ全滅。
昔働いていた塾の後輩に連絡をとったが、
オンラインで対応しているということだ。

(うーん…オンラインか…)

ぼくは今まで集団も個別も生徒の目の前でやってきた。
それがオンラインになるとどうなるか、予想もできない。
手元が見えないのでサボっているかもしれないし、
ゲームをしているかもしれない。

(でも、もうしょうがないよな。俺のスキルはこれしかないんだ)

あるオンライン塾のHPを発見し、昼間は勉強、
夕方4時からオンラインの塾講師という生活をすると決めた。

なぜ塾のセンセイは若く見える?

面接の担当は、同年代より少し若いくらいの女性だった。穏やかな人だ。
「所長がいらっしゃるので、少々お待ち下さい」
会議スペースに通された。ぼくともう一人、ボブヘアーの大学生の女の子。
話しかける勇気もなく、ぼくは「所長」と呼ばれた人を待った。

しばらくすると
ぼくと同年代くらいのエネルギッシュなオーラをまとった人がやってきた。

この指導部の所長らしい。何かが違う。

「所長のLです。よろしくお願いします。」

ぼくはあわてて挨拶をし、大学生も会釈をした。

オンライン塾の話を一通り聞き、
テストを受けて(高校入試レベルの英数国)、合格し、
またもう一度今回は1対1で指導部の「主任」に会うことになった。

一週間後、同じスペースで主任と話をした。
若い。
聞いた話だとぼくより3つは年上だということだが、30代に見える。
「指導部主任をやっているGです。よろしくお願いします。」
なんで塾のセンセイは若く見えるのだろう?

社会が・・・ない?

おもむろに主任が口を開いた。

主任「森さんは合格ですね。いつから働けますか?」
ぼく「えっと…土日が普通は予備校なのですが、今はコロナなので、
平日4日くらいで、他の日は行政書士の勉強に使いたいです」
主任「なるほど…できる教科と学年は何でしょう?好きな教科とか。
ぼく「ずっと中学受験の社会をやってきたので、社会がいいです」

すると主任の顔が少し曇ったような気がした。

主任「すみません森さん、社会と理科はないんですよ…うちは国英数が中心でして、小学校が英国算、中学校が英国数、高校も同様なんです。

主任「テスト前や受験前には直前講座で社会もありますが、
森さんには今までの経験が豊富ですから
是非大学生より期待していますので
レギュラーで頑張っていただきたいんですよ。」

(社会が・・・ない?)

久留米大付もラ・サールも福大大濠も西南学院も社会はあるのに?
高校受験も5教科主体で社会はあるのに?
・・・・マジで?

主任「森さん、社会の次に得意なのは何ですか?
ぼく「えーと…」

社会の次に好きなものは数学の図形だった

実を言うと、ぼくは社会の次には数学が好きだった

以前書いたように、ぼくは中学受験の算数を死ぬほどやった。
そのおかげで算数が好きになり、灘の算数も「20年分」解いた。

逆に英語は中3の学校の先生が大嫌いになり、英検も3級で止まり、
Z研で英語を教えるようになってようやく準2級、
しかも2級は苦手の面接で2回落ちて諦めてしまった。
国語は、古文と漢文が本当にダメだった。予習すれば何とかいけるが…

ぼく「数学でお願いします」
主任「数学ですか。中学も高校も大丈夫ですか?」
ぼく「数3以外なら…センターもそこまで悪くなかったですので」
主任「わかりました。高校数学がいま人数が足りていないので、
高校数学をお願いすることになると思います。よろしくお願いします。」

そして一週間後。
ぼくのスケジュールには「高校数学」がびっしり埋め込まれていた。

久しぶり、ベクトル。
久しぶり、因数分解。
久しぶり、確率。
久しぶり、漸化式。
久しぶり、もう二度と会いたくなかったよ積分。お前計算めんどいねん

2020年5月、ぼくはやっぱり塾に勤務していた。
しかし教壇からは降りた。もう、教壇に立つことはない。
黒板やホワイトボードの前で汗だくになって授業をすることもない。

オンラインの向こうの生徒はたくさんいた。

不登校になってしまった子。
コツコツ型でオール5の高校生。
アイドル並みの美女の子。
サッカーのユースチームにも所属しているイケメン。
声優を目指している子。

ぼくは、人と話すのが好きだ。
生徒の未来を一緒に考えるのが好きだ。
誰かの未来を一緒に考えるのが好きだ。

だから、行政書士なのだ。1000の法律を扱うといわれる職業なのだ。

364日、忙しい仕事

これはぼくが考えた言葉だが、
塾の講師は、364日はめちゃくちゃ大変だ。
ただ、1日だけ、異様に嬉しい日がある。

合格発表で生徒が「先生のおかげで受かりました」という声を聞く日だ。

そしてぼくは常にこう言うのだ。
「それは俺じゃなくて、あなたとおうちの人が頑張ったからやん」

生徒の「受かりました!」は麻薬だ。
あれを聞くと、また来年がんばろう、となる。
「碩学」でも「個別」でも、それを聞くことができた。
だから10年以上続けられた。

しかし、ぼくはZ研で、それを聞くことができなかった。

だから、教壇を降りたのだ。

「受かったのは生徒の努力」「受からなかったのは講師の責任」
キレイゴトかもしれないが、ぼくは教育産業の端くれとして、
このことは忘れないでいようと思う。

共通テストは終わった。
今担当しているのは高校3年生が1人、高校2年生が4人、中学3年生が1人、中学2年生が1人。
来年はもっと少なくなる。大学生の研修担当になる可能性が高いからだ。
でも、ひとりでも担当の生徒がいる限り、ぼくは予習をする。

生徒が解く問題を、先生が答えを見ながら解説なんてできないだろ?


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