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【ワンパブ・オープン社内報 vol.36】コンテンツと文章術の妙手が取締役社長に就任!新生・ワンパブを形作る3つの秘策とは
取締役社長 松井謙介
【ワンパブ・オープン社内報】は、ワン・パブリッシング(以下、ワンパブ)で働く人を通して、会社・雑誌・メディアが今どのような新しいことにチャレンジしているかをお伝えしている連載です。
今回は、取締役社長に就任したばかりの松井謙介さんをメディア初取材。新・松井体制となるワンパブのこれからについて詳しく聞きました。(所属や肩書は取材当時のものです)
【プロフィール】
2000年株式会社学習研究社に入社。『GetNavi』編集部、幼児ソフト開発部の現場編集を経て、2010年『GetNavi』編集長に就任し、最大部数記録、電子書籍ユーザー数月刊誌No.1などを達成。メディアビジネス部部長を経て、2020年株式会社ワン・パブリッシング取締役に就任。メディア運営のマネジメントをしながら、コンテンツの多角的な活用を実践中。自社のメディアのみならず、企業のメディア運営や広告のコピーライティングなども手掛ける。現在『Web Designing』(マイナビ)にて、「非接触時代に学びたい 文章力を上げる鉄板ルール」を連載中。2024年1月、株式会社ワン・パブリッシングの取締役社長に就任。
新・松井体制が目指す「ワンパブの3つの形」
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―取締役社長就任、おめでとうございます。まずは今の率直な気持ちをお聞かせください。
ありがとうございます。とにかく楽しみな気持ちでいっぱいです。現在、社員が70名ほどいるんですが、すごく個性豊かで優秀な方ばかり。素晴らしい仲間たちと新しいワンパブをどのように作っていこうか、ワクワクしています。同時に、与えられた責務の大きさを痛感し、身が引き締まる思いです。
―やはりプレッシャーはありますか?
もちろんです。いちビジネスパーソンとして大きなミッションを任されたわけですから、責任重大ですよね。その責任をしっかりと果たさないといけないわけですが、基本的には私らしくやりたいと思っています。
取締役時代から経営には参画してきましたが、やっぱりどこまでいっても私は編集者なんですよ。能力チャートで言えば、「編集・コンテンツ制作」の部分だけ突出していて、他は真ん中に近いんじゃないかと自分では思っています。でも、そんな私に声がかかった。これは、やっぱりパブリッシャーなので、今一度コンテンツに回帰せよってことかなと思っています。
自分なりの強みを活かして、新しいワンパブを創り上げていきます。
―ズバリ、新・松井体制について詳しく教えてください。
大きくわけて三つのことを考えています。
一つは、ワンパブの核となるメディア事業の強化です。ただし、そのメディアというのは雑誌に限ったわけではなくて、世の中の環境変化に対応できるようなバランスの良い事業のポートフォリオを作らなくてはいけないと思っています。しかも、スピーディに。
そのためには、事業の取捨選択も必要でしょう。リソースは限られていますので、伸ばすべき事業とそうでない事業を明確にして、場合によっては思い切った再編なども必要だと考えています。
二つ目は、メディア事業を核としながらも、出版業界が厳しい今の時代においてワンパブが生き残っていくために、新しいマネタイズポイントを創出すること。
各メディアのファンコミュニティを作ることかもしれませんし、消費者と企業を結び付けるようなものかもしれません。ワンパブは旧来的な出版社からコンテンツ・カンパニーへと変わっていかなくてはいけないと思っています。これはワン・パブリッシング創設時からのビジョンです。
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このビジョンに則り、「多彩なコミュニケーション」を実現する「進化したパブリッシャー」でありたいと思っています。
三つ目は、今お話しした二つを実現させるためには従業員が要ですので、ワンパブで働く皆さんが納得感を持って仕事ができるような会社にしていくことです。具体的には、人事制度の見直しやさまざまな研修制度の実施、若手の登用、ワークライフバランスの見直しなどですね。
特にワークライフバランスの問題はちょっと難しいんですよ。うちの会社の多くのスタッフは、良いものを作りたいが故に、積極的に働いてくれていますから。その気持ちは本当にありがたいと思っています。とはいえ、今の時代、従業員の健康やこれからワンパブで働きたい人のことを考えると、過重労働は受け入れられるものでない。そのあたりのマインドセットもしていかなければいけませんね。
出版不況の中でも、「良いコンテンツ」は必ず受け入れられる
―出版不況と言われる昨今で、ワンパブが目指す姿は「コンテンツ・カンパニー」だと先ほどお話がありましたが、具体的な施策を教えてもらえますか?
実は出版不況とコンテンツの関係を考えると、必ずしもピンチな状況ではないと感じています。出版不況ではあるけれどコンテンツ不況ではないと思っています。
と言うのも、博報堂DYメディアパートナーズが毎年調査している「メディアの接触時間」のデータを見ると、2006年と2021年ではメディアの接触時間が335分から450分に激増しているんですよ。約2時間も増えています。
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この増加分はつまりスマートフォンに接している時間なんですよね。以前はテレビを見ていたのが、今はYouTubeやTikTok、いろいろなwebサイトなどのコンテンツを見ている。形は変われども、「良いコンテンツ」は必ず受け入れられるということです。
私自身も、昔は雑誌で北方健三さんの『試みの地平線』を読んでいたわけですが、今はYouTubeでひろゆきさんの人生相談を見ています。需要のあるコンテンツというのはある程度不変で、そのアウトプットの形が変わっているってことだと思うんですよね。
ありがたいことに、ワンパブにはたくさんのメディアがあって、それぞれに熱いファンがついています。今後はそのファンに向けて、これまで作り上げてきたコンテンツを大切に育てながらも、雑誌以外の新しいアウトプットの形をどんどん生み出していきたい。これこそが新しいワン・パブリッシングだと思います。
そのためには、異質な存在を積極的にワンパブに加えていかなくてはと思っています。目指すは、多様性を確保したパブリッシャーですね。
―新しいメンバーにジョインしてもらいながら、刺激を受けながら、会社全体を変えていこうということですね。すでにチャレンジしている新しいことがあれば、ぜひ教えてください。
昨年(2023年)で言うと、学研キッズネット主催で開催した「自由研究EXPO」は大きなチャレンジでした。今年もすでに開催が決まっていて、さらなる挑戦を予定しています。
実はこの件、メインで関わっていないスタッフと話していて、「松井さん、ワンパブの『自由研究EXPO』ってめちゃくちゃすごいコンテンツなのに、どうして全然自慢しないんですか」と言われてハッとしたんです。私たちが作っているコンテンツは価値があるのに、どこかみんな控えめで上品。もっとギラギラと「俺たちこんなことやってるんだぜ!」って発信していきたいと、そのとき強く思いました。
もうひとつ、『生成AI導入の教科書』が未来への大きな指標になりました。原稿の約70%をChatGPTで書いたという前例のない一冊なんですが、私自身が編集を手掛けました。著者の小澤健祐さん(以下、おざけん)のChatGPTを使った本づくりをすぐそばで見られたことは、すごく貴重な経験でしたね。
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正直、出版に関わる人たちって、どちらかと言うとAIを敬遠しているところがあると思うんです。AIの情報は間違っているとか、文章が面白くないとかいろいろ言われていますが、おそらくこれは過渡期だけの話で、編集者がまだAIをうまく使いこなせていないだけ。新入社員に対して「情報が間違っている、文章が面白くない」って言うのと同じで、そりゃ自分のマネジメントが悪いだけだということでしょう。
これからのパブリッシャーは、AIをどうマネジメントしていくかがカギになりますよ。実は、来期はおざけんをAI部門の顧問として迎え入れて、毎月研修や指導をお願いする予定です。ワンパブは、AIを活用した新しいパブリッシャーになりますよ!
人と人の縁を大切にしながら、唯一無二の存在へ
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―先程のおざけんさんも、もともとは松井さんがお仕事を一緒にされていた方だと聞いています。その人脈の広さは、どのように動かれてきたからなのでしょうか。
そうですね、編集者時代に一緒に仕事をした仲間や、さらにその仲間といった広がりももちろんあります。加えて、自分とはまったく違うジャンルの業種に興味を持ってアプローチし、私の強みであるコンテンツだったり文章だったりをうまく活かしてもらう……といったことはずっとやってきました。
おざけんとも「シニア社員のリスキリング支援」事業で出会ったんですよ。この、異業種にも積極的に首を突っ込んでいくのはもともとの気質なんでしょうね。でもこれを全社員に意識してほしい。そのために、今年から「ワンパブに価値を還元できること」という条件で副業も解禁します。みんなには、広い海を見てほしいと思っています。
あとは、会社にデザイナーさんやライターさんの売り込みが毎日と言っていいほど来るんですね。たとえば、独立したばかりのクリエイターさんの営業とかすごく多いんです。正直、その場で資料をもらって「いいですね。検討します」と言っておきながら、結局連絡もしないケースがほとんどだと思うんですよ。
でも私は、作品の質が高ければ、できるだけ「売り込み先で最初の仕事をする人」になってあげたいと思っています。
昨年、会社案内を改訂したんですが、売り込みに来た独立したてのデザイナーさんにお願いしました。いわゆる大抜擢ですよね。そうするとね、その後すごく良いお付き合いができるんですよ。とても恩を感じてくださる方が多くて、こちらが困ったときに助けてくれる。
こう書くとちょっと打算的に思われるかもしれないですが、僕は「最初の縁」ってめちゃくちゃ大事にしたいんです。GetNavi webで連載して書籍化もされた『印刷ボーイズ』シリーズのBOMANGA(ボマンガ)奈良裕己さんも、印刷会社から独立して間もない頃に営業に来ていただき、即仕事をお願いしました。そのときの関係は今も大切にしてくださっている。コンテンツ業は、結局「人」ですからね。工場や設備ではなく、人こそがコンテンツの源泉ですから、その縁を大事にしない会社はダメだと思うんです。
―ご縁を大切にする松井さんだからこそ、多くの人に慕われ頼りにされているのですね。最後に、取引先の方々や社員の皆さんへメッセージをお願いします。
先日、新しく仲間になったメンバーが、こう言っていました。「メディアがあって、企業のサイトが作れて、プロモーションもできて、イベントやSNS、広告運用までできる会社、日本に他にあるんですかね?」
確かに、ワン・パブリッシングは、いつのまにか他のどの会社とも違うユニークなポジションを確立しつつあるんじゃないかなと改めて気づかされました。ここはひとつ、さらなるワンパブらしさ、ワンパブにしかできないことを突き詰めていき、唯一無二の総合コンテンツ・カンパニーになっていきたいと思います。
その実現のために、まずは一年、全力で企業運営に向き合っていきますので、どうかこれからもお力添えをお願いいたします。さらに強くて、明るくて、ユニークな会社にしていきます!
―取締役時代から現場に積極的に携わっていた松井さん。社長になった今後も「役に立てる部分があるのであれば、現場の仕事にも関わりたい」とのことでした。コンテンツと文章術という強力な武器を携えて、他には真似できないワン・パブリッシングという会社を作っていってくれることを期待しています。松井さん、ありがとうございました!
もっと知りたい!松井さんへの一問一答
Q.子どもの頃の夢はなんですか?
A.小説家。大学生くらいまではいくつか書いていましたが、芽が出ないのでいつのまにか諦めちゃいました。
Q.企業のトップに立つことをイメージしていましたか?
A.実は社長に就任したとき、20年来のお付き合いの編プロの社長からお祝いをいただいたんですが「松井くん、新入社員のときに社長になるって言ってたから、実現したね!」と言われました。自分では正直記憶になかったのですが、まあ何事も強く思えば実現する、ということですね。潜在的に思い続けていたのかも。
Q.これまでの仕事で、最大の成功は?
A.2024年の成果。「ネクスト・ワン」ってやつです(笑)。あと、ワン・パブリッシングという名前を発明したこと。シンプルで力強くて略せるのがいいなと思っていたので、自分の中ではかなり気に入っています。
Q.反対に、もっともピンチだったことは?
A.うーん……ちょっと書けませんね(笑)。
Q.特技はなんですか?
A.子どもの頃から絵を描いたり工作したりブロックで何かを作ったり、ということが得意ですね。今でもたまに水彩画を描いたりしています。子どもが小さい頃は、すごろくとか福笑いとか自作していました!
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Q.憧れの人はいますか?
A.世の中の素晴らしいクリエイター全員です。素晴らしい映画などを観ると、エンドクレジットに1000人くらい名前が出るわけじゃないですか。そこに自分の名前がないことが身もだえするほど悔しいですし、逆に、載っているその1000人は無条件に憧れてしまいます。いつも悔しくて眠れなくなるので、あんまいい映画とか観たくないんです(笑)。
Q.ストレスがたまったと感じたら、どんなことをして発散しますか?
A. あまりストレスをストレスと感じないタイプです。可能な限り、ストレスも疲れも苦しみもポジティブにとらえたいと考えてます。
Q.1日があと3時間増えたら、何をしますか?
A.子どもと遊ぶ。土日とかに仕事をしてるとめちゃめちゃ怒られます。
(取材:水谷映美/撮影:鈴木謙介)