斜銃開発とそれにまつわるエピソード
考えることは、どこも同じといいますか、国は違えど、同じような境遇に置かれると似たことを考える人が出てきます。
同じ悩みを抱いていた日本とドイツがほぼ同時に考えついた、斜めに取り付けた機銃。今回は、夜間戦闘機を有効せしめた斜銃の話を。
◆斜銃のアイデアが出来るまで
第二次世界大戦中、巨大な爆撃機で侵攻してくる英米軍に対し、ドイツでは正攻法では攻めあぐねていました。
高々度から進入してくる爆撃機に対し、ようやく敵機を射撃できる高度まであがるものの、当時の夜間戦闘機は、一度目標を逃すと再捕捉するのは困難でした。
そこで考えられたのが敵機と平行して飛行しながら攻撃するというアイデア。図で示すとこんな感じです。
そのために機体に斜めに取り付けた機銃を装備しようと考えるのです。
これはドイツと日本がほぼ同時に思いつきます。お互い情報交換もしていないのに同時にアイデアを思いつくところが面白いですよね。
ちなみにこの斜銃、海軍では斜め銃。日本陸軍では上向砲、、ドイツではシュレーゲ・ムジーク(斜めの音楽=ジャズ)の意と呼ばれていました。
◆ドイツでは夜間エース自らが開発に携わる
1941年にドイツの夜間戦闘航空団のルドルフ・シェーネルト中尉という人が上向きに機関砲を取り付けることを思いつきます。この中尉、夜間戦闘機のエースとしても有名です。
この機体は1942年後半に完成したものの、試験はうまくいかず、一旦アイデアは破棄されたのですが、更なる試験が行われた結果、実用化の目処をつけたのです。最初はみんな疑心暗鬼で、上司たちも否定的でしたが、1943年の5月に実際に撃墜の成果が上がると即採用になります。
上司たちも実際の現場で戦っている生え抜きのエースだから話が早いという感じですね。
斜め機銃のシュレーゲ・ムジークは、夜間戦闘機の標準装備としても装備され、新型の夜間戦闘機にも標準装備となります。
この時、機関砲の取り付け角を60度〜70度まで起こして取り付けるのが最適という研究結果を出しています。日本では30度の取り付けになりました。
実戦では、1943年から1944年にかけてのイギリス軍爆撃機の損失の80%はシュレーゲ・ムジークによるものと推測されており、相当の戦果を挙げていることがわかります。
◆夜間戦闘機「月光」誕生のきっかけとなった斜銃
さて、日本でも、同じようなことを考えている人がいました。発案者は小園安名海軍中佐。ラバウルへ進出し戦闘を行っていた日本海軍の第251海軍航空隊では、連合軍の夜間爆撃に対処するため、小薗中佐が斜め銃を考案しました。
ドイツでは現場担当から。日本では上司が発案という感じがお国柄なのでしょうか。
さっそく航空技術廠の会議室で提案をしましたが、この方変人で有名な方で、反応は冷ややかだったそうです。
支持者はほとんどなく、とにかくやらせてみればいいという、賛成も反対もしないという空気だったといいます。
しかし、初戦果が出た1943年5月。これも偶然なのでしょうが、ドイツと同じ時期に、襲来するB-17の撃墜に成功します。
これは二式陸上偵察機(後の月光)の胴体に20mm機銃を斜め上へ向けて搭載したもので、実際に戦果が上がった途端、今まで机上でばかり議論していた対大型爆撃機対策と夜間戦闘機の分野が一気に実現化の流れになります。
この戦果もあって、現地での士気が大いに上がり、、二式陸上偵察機は斜銃を搭載した夜間戦闘機「月光」として制式採用され、南方戦線において対B-17、B-24戦や本土防空戦でB-29相手にも使用されることになります。
◆日本陸軍は「屠龍」がB-29相手に大活躍
日本陸軍も海軍のこの戦果に影響を受け、上向き砲を取り入れます。すでに夜戦として活躍している屠龍に20mm機銃×2門を搭載、これを「キ45改丁」と称して実戦に投入。本土防空戦の対B-29用に使用しました。
この斜銃、斜め銃の効果が絶大なので、他の機種にも続々と装備をすることになります。
優秀な高速性能と上昇限度を誇る「一〇〇式司令部偵察機」や「彩雲」、単発戦闘機でも四式戦闘機「疾風」、そして零戦にまで斜銃を搭載して対抗します。
ただ、単発戦闘機や、構造が弱い偵察機ではかなり無理があったようで戦果が思うように得られなかったとも。
◆斜銃への対策と開発が教えてくれるもの
アメリカ、イギリスも対策を立て始め、後下方への警戒と反撃を通達で徹底させます。さらに硫黄島が占領されたことで、護衛の夜間戦闘機を作戦展開できるようになり、その護衛によって日本夜間戦闘機は阻止されるようになっていくのでした。
斜銃というアイデア。理論上では素晴らしくても、実際に成果をあげてみるまで周囲は否定的で、結果が出た途端に称賛されて、ブームになって、今度は持つのが当たり前のようになる・・・なんかiPodもそうだったような。今も昔も国もそう変わらないところが面白いですね。
納得させるには、研究への行動力と目に見えるカタチという成果が一番という良い事例かもしれません。