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匂いガラスと言われたアクリル風防
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模型制作で最も手間がかかる作業の一つが窓枠の塗装です。マスキングが大変で、専用のマスキングシートも販売されているくらい。日本機は特に窓枠が多く、私は1/144サイズのマスキングテープをせっせと貼っていました。
この風防にはアクリルが使われており、昔は「においガラス」とも呼ばれていました。今回はこのアクリルガラスについてのお話を。
◆アクリルの匂い
松本零士氏のコミック、「ザ・コクピット」に登場する「においガラス」という表現が印象的だった記憶があるのですが、主人公の息子が「こすると甘い匂いがする」と語っておりました。当時の子どもたちはそのガラスをこすって匂いを嗅いでいたそうです。密柑やリンゴのような香りだということ。
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私は学生時代に昔の飛行機たちに触れる機会が多かったのですが、実際にこすって試したことはありませんでした。ただ、風防は意外と傷だらけで曇っている印象がありましたね。
「匂いガラス」という言葉は文学やドラマでも取り上げられています。中島みゆきの『匂いガラス~安寿子の靴』などが有名ですね。
◆匂いと記憶の関係
匂いは記憶を呼び起こす力が強いと言われています。特定の香りを嗅ぐことで、昔の思い出がよみがえることがあります。たとえば、夏の草の匂いや古い木造建築の古い家具の匂いを嗅ぐと、田舎の思い出が蘇ります。
ちなみに、香りを嗅ぐことで記憶力が高まることが研究で示されているそうで。勉強中に特定の香りを嗅ぎ、夜の睡眠中にも同じ香りを嗅ぐと、記憶が定着しやすくなるそうです。香りの力は面白いですね。
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◆日本機の窓枠の多さの理由
さて、日本機の窓枠が多い理由ですが、これは当時の曲面加工技術が未熟だったからです。アメリカのP-51のような一体型風防を見ると、うらやましく感じますね。
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また、同じ日本機でも陸軍機と海軍機では窓枠の数が異なります。海軍機は広い洋上での索敵のため、大きな風防が必要でした。そのため、風防を大きくして、ゆがみを減らしたのです。初期のアクリル風防は精度が悪く、視界も良くありませんでした。アクリルの工業化は1934年とされ、戦争間際のギリギリのタイミングでした。アクリルはガラスに比べて軽く、加工性も良いため風防に適していました。
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現代の旅客機のコクピット窓はアクリルとガラスの5層構造です。ガラスだけでは温度変化や衝突に弱いため、アクリルとの組み合わせが必要です。しかし、内部で剥離すると交換が必要で、その費用はなんと1枚約300万円です。
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飛行機は、晒される外気の気温の差がかなり激しいので頑丈かつ柔軟性が必要なのでしょう。ちなみに車の窓ガラスはガラス(安全ガラス)だそうです。アクリルはダメみたいですね。曲面では映像のひずみが出るのがその理由。あとワイパーも動かすので傷がつきやすいのかな。
◆アクリル樹脂の進化
このようにアクリル樹脂は、戦争中の技術革新の象徴の一つでもありました。透明性や耐衝撃性に優れ、戦後の日本でも広まりました。
現在では建築材料や航空機、自動車、家庭用品など広い分野で活躍しています。水族館の大型水槽など、アクリルの可能性を示す事例も多いです。
匂いガラスから現代のアクリル樹脂まで、その進化の歴史を辿ることで、戦時中の技術革新が現代社会に与えた影響を実感できます。匂いガラスは技術の進歩と人々の暮らしを結ぶ重要な存在だったのですね。
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