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風防のカタチ。ファストバックか水滴型か。

 「風防」とは、呼んで字のごとしで、パイロットを風から守る透明な囲いのことです。英語ではキャノピー(Canopy)なんて呼ばれています。
 昔は風防は前だけで、開放型の操縦席で飛んでいましたが、200km/h、300km/hと飛行機たちの速度が上がるにつれ、パイロットの周りを全部囲うようになりました。また、高高度も飛行するようになると、操縦席の内部は地上と同じような気圧を保つため、与圧室を装備するようにもなり、飛行機の進歩と共に風防のあり方も大きく変わっていくことになります。
 第二次大戦時の戦闘機たちの風防のスタイルは、ファストバック型か、水滴型風防型に分かれました。 

ファストバック型のBf109と、水滴型風防型の零戦 

 ファストバック型は風防と胴体が一体化しているスタイルで、水滴型は、胴体の上に風防が乗っかっている感じのデザインです。いわば、ホントに水滴を落とした感じのデザイン。どちらが優れているのかは一長一短があります。では、まずはファストバック型の特徴を。

◆ファストバック型風防の特徴 

 大戦初期の頃の戦闘機には多いスタイルで、これは航空用エンジンがまだ非力だった頃に、空気抵抗を極力少なくするためのデザインなのです。
 一番良いのは、風防自体がないミサイルのようなカタチなのですが、そういう訳にもいかないので、パイロットの視界確保と安全性のために胴体にはみ出るかたちで風防が取り付けられるようになります。

突起物があると空気抵抗が生まれます

 こういう感じで、突起物があると気流の乱れが空気抵抗を作り出します。これを整流板で胴体に慣らすかたちで一体化させたのがファストバックスタイルという訳です。

スピードを競う場合は風防が大きいフィレの一部になってます

 スピートを競っていた頃には、このような流線型で、視界よりも速度重視のスタイルでした。
 ちなみにファストバックという名称ですが、当時はこういう呼び方はされていませんでした。本来はクルマに使われている用語なのですが水滴型に対して便宜的にファストバックという呼び方をされています。
 特に欧米では、スピードレースが盛んに行われていたため、このようなスタイルが一般的というか、流行っていました。
 ですのでドイツのBf109も、スピットファイアも例にもれずファストバックスタイルです。
 このようにファストバックスタイルの風防は、戦闘機が求める速度重視のコンセプトから生まれたデザインといえます。
 デメリットは見ての通り、後方視界が悪くなるということです。ですので、バックミラーをつけたり、風防を少し膨らませたりと工夫もされています。

上がファストバック 下が水滴型風貌の空気の流れ

 水滴型の方が、空気の乱れが発生しやすく、空気抵抗を生みやすいのです。速度差は5〜10km/hの違いが出ると言われています。

◆水滴型風防の特徴

 このファストバックに対しての水滴型風防ですが、大戦初期は日本機以外にはあまり例がありません。スピードレースなどの高速機開発まで進んでいなかった日本の場合は、最初から水滴型風防のスタイルでした。
これは
・格闘性を重視した軍部やパイロットの視界確保の強い要望を反映。
・無線装置が悪いため、個人で絶えず、索敵をする必要もあった。
などが理由としてありそうです。

日本では珍しいファストバック型の雷電

 ファストバックスタイルは、三式戦「飛燕」と「雷電」ぐらいでしょうか。しかし、三式戦「飛燕」の水冷エンジンの製造の遅れによって空冷になった五式戦は、途中から、他の日本機同様に水滴型風防に改修されています。日本のパイロットたちは、水滴型がよほど好きなんですね。

ファストバック型の五式戦も水滴型に変更になりました

◆それぞれのメリット、デメリット

 ということで、まとめると、
 ファストバックスタイルのメリット→空気抵抗が少ない→速度が出やすい。デメリットは後方視界が悪い→戦闘に不利

 水滴型風防のメリット後方視界が良い→戦闘に有利デメリットは空気抵抗が多くなる→速度が出にくい
 ということになりそうです。
 さて、エンジンのパワーが向上してくると、欧米では多少の空気抵抗はリカバリーできるとして、パイロットの視界を確保しようという流れになってきました。戦争中ですので、パイロットの養成にも視界の良さは一役買ったのではないかと思います。
 また、胴体が小さくなるので軽量化にもつながるということで、昔ほどファストバックの利点が少なくなったともいえそうです。
 欧米では日本機に合わせたという訳ではないのですが、上記の理由により、続々と水滴型風防に設計を改修し初めます。P-51Dマスタング、P-47サンダーボルトなどそうですね。スピットファイアも水滴型風防スタイルに切り替えています。

上がP-51A→下が水滴型にしたP-51D
P-47も水滴型に改修しています。
Bf109のライバルだったスピットファイアもこの通り。

 胴体の縦長比は、垂直尾翼と同じ安定性とも関係がありますので、ファストバックでなくなることで落ちる安定性は、垂直尾翼を大きくしたり、整流板を追加でつけるようにしています。

◆現在の主流は水滴型風防

 現在の戦闘機などは完全に水滴型風防になっています。最新式では、こんな一体型も。
 構造はよりシンプルになりましたが、使われている技術は最新式です。

F-22のキャノピー
F-35のキャノピー

 さらには、金を蒸着させてステレス性をアップさせたり、ヘッドアップディスプレイになったりと更に進化を遂げています。
 このように、パイロットと飛行機の関係は、風防のデザインに反映されます。速度を重視でいくか、視界重視でいくかと悩んだ時代は今は昔。エンジンのパワーが上がってくると、多少の空気抵抗は問題がなくなったり、両者を統合する空力デザインになってきます。

 個人的には風をモロに受けるスタイルも未だに大好きなんですけどね(^^)


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