人命救助の最後の砦〜航空救難団
全4回に渡って ドイツの海難救助隊の話をしてきました。補足として現代日本の海難救助隊の話も付け加えておきたいと思います。
◆様々な救助隊の中でもエリート中のエリート
災害、遭難、突然我が身に降りかかる災難。私たちは、いつどこで何に巻き込まれるか分かりません。生命の危機に陥った時に駆けつけてくれる人たちは本当にありがたい存在です。
日本には警察、消防、海上保安庁など様々な救難組織が存在しています。しかし、あなたの置かれている状況が非常に危険であり、せっかく駆けつけたにもかかわらず、何とも出来ない状況である時。その絶望感たるや・・・。
しかし、これらの救難組織があなたを救出することが困難であったとしても、まだ最後の切り札が日本には存在します。
それが、航空救難団。そう、彼らは人命救助の最後の砦とも言われている救難隊の精鋭中の精鋭であるのです。
◆「人命救助の最後の砦」と言われる所以
航空救難団は、埼玉県の航空自衛隊の入間基地に司令部を持ち、全国10箇所に救難隊を配置しています。彼らの主目的はベイルアウト(緊急脱出)した搭乗員たちを救出すること。
特に戦闘機は敵機に撃墜される可能性が高いです。日本の戦闘機乗りは一人を育てるのに数億円かかり、戦闘機を操縦する貴重な人材です。いつ、どこで撃ち落とされるか分からない状況で、ベイルアウトした場合、どんな状況下であれ速やかに現場に駆けつけ、発見し、救出すること。これが本来の使命なので、彼らはマルチフェイズで活動できるポテンシャルを備えているわけです。
ですので、民間人救助の場合、消防、警察、海上保安庁などの組織では装備的にも技術的にも救助が困難な状況の場合、彼らに救援要請が入ります。
「他に助けられる存在はいない。自分たちが最後の砦である。自分たちが駆けつけなければ、遭難者は確実に命を落とすことになる」
「最後の砦」の持つ言葉の意味はとても深く、そして重いものです。
遭難に遭った人たちを彼らはサバイバー(生き残り・生存者の意)と呼んでいるのですが、彼らが見つけ、救助しなければサバイバーの命は確実に無くなるという重圧の中で彼らは動いています。
◆人命救助のスペシャリスト達
彼らのモットーは「That others may live(他を生かすために)」そのために、自分たちをどう鍛え上げていくかが日々の訓練になります。
彼らの乗機は救難ヘリコプターUH-60Jと捜索機U-125A。チームを組んで24時間365日待機しており、出動命令が下ると戦闘機のスクランブル(対領空侵犯措置)同様、速やかに離陸し、救難にあたります。
◯操縦士〜戦闘機乗りに劣らない高度な操縦技術
戦闘機乗りから転属になったパイロットでさえヘリ特有の操縦技術に苦労すると言われています。
救難の際は、普段は下りることのない危険区域までいくことも要請されます。平時の操縦とはまったく異なるシケの海での強風、吹雪の高山での視界ゼロの救難。山間部のヘリの命を奪う高圧線。針の穴に糸を通すような飛行技術がそこには要求されます。また現場で救難員を下ろし、無事に回収するまで安定した操縦(ホバリング)を続けなければなりません。
◯ラジオクルー〜発見しなければ始まらない重要なポジション
ラジオクルーとは機上無線員のことを指します。U-125Aに搭載したレーダーによる探索通信のプロフェッショナルがサバイバーの一刻も早い発見を行います。
救難隊は現場付近に駆けつけたとしても、まず遭難者を発見しないことには救助が始まりません。いかに早くサバイバーを発見できるか。
風や雨で見えない時、一瞬の見逃しがその後の救助を大きく左右することになります。
◯救難員(メデック)〜自衛隊員の中で最も過酷な訓練を積んでいるプロたち
自衛隊で最も厳しいと言われる陸自の空挺レジャー資格の取得さえも通過点に過ぎないという救難員。彼らは自衛隊の中で最高峰の厳しさに置かれます。
救難員はヘリからホイスト(降下用ロープ)で現場に吊り降ろされます。そしてヘリが降下できない場合でも、彼らはパラシュートで救助に向かいます。空挺レンジャー過程も彼らにとっては救助で必要な過程なのです。そして海上遭難にそなえて潜水技術も習得過程に・・・・。
まさにどんな現場でも駆けつける屈強の肉体と精神力を持った救急救命士。洋上でも雪山でも谷底でも彼らは救助に向かいます。
救難員の選抜試験は非常に狭き門なのですが、それに合格したとしても、単なるスタートにすぎません。そこから更に己の限界を引き出す訓練が彼らには待っています。
◆完璧なチームワークで救助に向かうプロフェッショナルたち
「必ず見つけ出すから諦めずに待っていてくれ」という思いが彼ら全員に備わっているため、プロとしてのチームプレーも完璧を目指します。地上員との連携、僚機との連携、そして救出のためのフォロー。どれもが無駄なく、ただ一つの目的「必ず助ける」という目的に向かって動いていきます。
彼らが今までに救助した人数は約2,600名。災害派遣時には要救助者の救助、急患空輸、被災者の空輸および物資の空輸も行いました。また東日本大震災では消火活動のために200回以上の空中消火も行なってます。
日本にはこのような人々がいることをありがたいなぁと思うと同時に深い敬意を払いたいと思います。