実はオカルト好き?マクドネル社の飛行機たちのネーミングセンス
アメリカのマクドネル社といえば、F-4ファントムⅡで有名です。
日本にとっても航空自衛隊で馴染みのある戦闘機です。でも、ファントムって響きはカッコ良いですが、亡霊、幻とか幻像という意味なんですよね。今回は、日本ではちょっと考えられないネーミングセンスをもったマクドネル社の飛行機たちを紹介していきます。
◆若いマクドネル社が生み出した傑作機たち
マクドネル社は1938年に当時、39歳の若き設計技師ジェームス・マクドネル(1899〜1980)によって設立した会社です。
39歳の時に会社を起こしたばかりの小規模な会社だったので、思い切った航空機設計を行うことができました。
その結果、マクドネル社初の成功作、FH-1ファントムが生まれます。
当時のアメリカでは愛称は、それぞれのメーカーが考えて提出していることが一般的でした。グラマン社のワイルドキャット、ヘルキャットなどの"猫"シリーズなどもそうですね。
では彼の会社の飛行機たちをさっそく見ていきましょう。
◆XP-67 バット(Bat:コウモリの意)
1944年に初飛行した記念すべき一作目です。変わったスタイルですよね。愛称は「バット」。コウモリの意味ですが、うーんどうでしょう。
◆FD/FH-1 ファントム(phantom:幽霊、亡霊の意 )
マクドネル社初の採用になった機体は"ファントム"と名付けられました。
この機体は、1945年1月に初飛行した世界初の実用ジェット艦上戦闘機でもあります。ネーミングの理由は調べたのですが明確には分かりませんでした。
◆F2H バンシー (Banshee:死者が出る家に現れて泣く妖精の名)
機体自体はFH-1の発展型です。事実上アメリカ海軍初の実用ジェット艦上戦闘機になります。生産数は895。
ネーミングはバンシー。妖精というと聞こえは良いですが、家人の死を予告するという、アイルランドおよびスコットランドに伝わる女の妖精であり、死を予告しにくるなんて怖い存在です。
その泣き声は、ありとあらゆる叫び声を合わせたような凄まじいもので、どんなに熟睡している者でも飛び起きるほどだとか・・・。
また、バンシーの目はこれから死ぬ者のために泣くので燃えるような赤色をしているといいます。怖っ^^;
なぜこの名前にしたの? 聞き慣れないジェット音に辟易していたとか。
◆XF-85 ゴブリン (Goblin:小人の意地の悪い精霊の名)
B-36爆撃機の中に内蔵され、護衛する異色の試作機です。試作段階で計画中止となりました。丸っこいデザインがスゴイです。
ネーミングはゴブリン。ヨーロッパに多い民間伝承に出てくる伝説の生物。アメリカ映画やゲームなどでもよく出てきますね。緑色した丸々とした小さい姿で描かれることが多いようです。
悪意があったり意地が悪い性格で描かれています。
◆XF-88、F-101ブードゥー、(Voodoo:精霊の意味)
ブードゥーとは西アフリカなどで信仰されている「精霊」の意味で、ブードゥー教とはそれを信じている民間信仰です。呪術なども行うので、キリスト教圏の人たちにとっては、「奴隷の邪教」として徹底的に弾圧した歴史も持っています。ある意味、不気味な意味合いを持つ名前かもしれません。
ホントになんでこのネーミングにしたのだろう。
XF-88はロッキード社との比較競争に敗れましたが、高性能であったため、その後も開発が引き継がれ、F-101の基となり、このブードゥーのネーミングも引き継がれています。
◆F3H デーモン(Demon :悪魔、鬼、悪霊、鬼神の意)
「この鬼!悪魔!」とか人を罵倒する時に出る言葉ですね。なんか設計開発で社長始め、疲労困憊しているエンジニアが罵倒するつもりでネーミングしたという真相だったら面白いですね。
小型猛禽類を思わせる精悍なシルエットを持っていますね。
名に恥じないというか、この戦闘機、初期の機体で事故が相次いだため、F3Hには悪評がつきまといました。日本では確実に「縁起が悪い」と言われる名前ですね。日本陸軍四式戦闘機「悪魔」とかヤバすぎ・・・。
ただし、事故の原因は主に搭載していたエンジンの不具合による物で、エンジンの換装後は安定した性能を発揮しています。
◆F4H/F-4 ファントムII〜再び
そしてついに登場、大傑作機F-4ファントムⅡです。海軍用の艦上戦闘機として開発したにも関わらず、米空軍でも採用され、さらに世界中に輸出された、ベストセラー機です。5,195機製造。
マクドネル社は、この成功をきっかけに、アメリカを代表する航空機製造メーカーへと発展していきます。
マクドネルたちは、最初の採用機になったFH-1ファントムの成功にあやかり、次の傑作機F-4を「ファントムⅡ」にしたのでしょうね。
◆その後のマクドネル社
マクドネル社のその後ですが、1967年にはダグラス社と合併してマクドネル・ダグラス社となり、F-15イーグル、F/A-18ホーネットなどの代表的な戦闘機たちのみならず、民間旅客機のMD-11などの成功、ヒューズヘリコプターの買収もあり、アメリカの代表的な航空機製造メーカーにまで発展していきます。
しかし、その後東西冷戦の終了による需要が低下したこと、民間機事業の競争によるシェアを落としたことなどが影響し、1997年に、ボーイング社に買収されてしまいました。数々の傑作機を生み出した両社の名前はこうして消えていきました。
◆マクドネル社のネーミングセンスを日本機に当てはめたら?
ファントム、バンシー、ゴブリン、ブードゥー、デーモンなどの数々の変わったネーミングをマクドネル社。このセンスを日本機に当てはめたらどんな感じになるのか最後に考えてみました^^;
ファントム=幽霊ですが、「幻影」とかだとかっこ良くありませんか。亡霊だと不吉なので「英霊」だと守護してくれそうな感じ。一式戦「幻影」うーん。
バンシーやゴブリンは妖精、生物の具体的なネームなので、日本でいうところの、「河童」とか「天狗」とかに相当するかもです。
「死を知らせてくれる妖精」って日本では何だろう?泣き声がすごいらしいから「子泣きじじい」か。二式戦「子泣きじじい」駄目だ(笑)
ゴブリンは悪さをする生物なので「悪鬼」とか「邪鬼」だとかっこ良くなりますね。 デーモンは、かっこ良く「死神」とかズバリかな。
うーん、こうして考えると、不吉なイメージを戦闘機などにつけるのは、戦場において相手を威嚇する意味もあるのかもしれません。
敵の彼らにとっては、自分たちは「災い」「不安」「死」をもたらす存在ですので。
そう考えてみるとジェームス・マクドネルたちのネーミングセンスもあながち悪くないように思います。
でも個人的には、ワイルドキャット(意地悪女)とかスピットファイア(癇癪娘)とかの方が味があって好きだったりします。