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飛び出せ!飛行機からの脱出方法あれこれ
パラシュートの歴史についての続きを。今回は脱出システムについてです。
■パラシュートの脱出から射出座席システムへ
第二次大戦中、飛行機から脱出するためのパラシュートは、多くの搭乗員の命を救いました。しかし、機外へ脱出する際に事故が発生することも多々ありました。
脱出する際には、まず風防を吹き飛ばし、自力で機外に出る必要がありますが、これが非常に大変。空気抵抗は速度の2乗に比例するため、速度が2倍になると、体に受ける抵抗は4倍になります。
つまり、脱出時の速度が速ければ速いほど、パイロットは風圧で機内に押し戻され、自力での脱出が難しくなるのです。
運良く脱出できたとしても、尾翼にぶつかって意識不明になる事故も発生しています。有名なドイツのエースパイロット「アフリカの星」ハンス・ヨアヒム・マルセイユも、脱出時に尾翼にぶつかって亡くなっています。
よって脱出の際は、風圧などを使って風防を吹き飛ばし、脱出しやすいように背面飛行にして速度をなるべく落とす必要があります。緊急時にも関わらずです。銃弾を受け負傷した際、これがいかに困難なことか・・・・。
このように、戦闘機の速度が上がるにつれて脱出のリスクも増し、新しい脱出システムの開発が必要になりました。
技術大国ドイツは、こうした研究と実用化をいち早く進めました。世界初の射出座席を搭載した飛行機は、ハインケルHe280V-1ジェット戦闘機でした。実用化された飛行機で初めて射出座席を搭載したのは、夜間戦闘機として有名なハインケルHe219ウーフーです。
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この機体は、圧縮空気ボンベを使って操縦席と後部座席が独立して射出される仕組みになっていました。
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■7,700名の命を救ったマーチンベーカー社の射出座席
一方、イギリスでも本格的に研究が進められました。マーチン・ベーカー社は、大戦中から射出座席の開発を行っており、現在でも代表的なメーカーの一つです。戦後、アメリカでもジェット機の普及に伴い、射出座席の開発が進みました。
射出座席とは、軍用機が被弾や故障によって飛行不能な致命的な状態になったとき、パイロットを安全に機外に脱出させるための装備です。
マーチン・ベイカー社によれば、同社の製品を装備した航空機は84か国で54種類にも及び、総計で1万7000以上の射出座席が使用され、2023年3月末の段階で生還した累計人数は7691名に達するといいます。約7,700名ものパイロットたちの命を救ったことになります。
現代の射出座席は大きな進化を遂げており、高度ゼロ・速度ゼロの状態でもパイロットを安全に打ち上げ、パラシュートを開かせることができます。また、打ち出す推進装置も火薬からGが小さいロケットモーターに変わりました。こうして安全性は高まりましたが、それでも民間機に応用するのは難しいのです。
というのも、危険な状態から脱出する際、パイロットには15〜20Gの負荷がかかります。適切な姿勢をとらないと脊柱を痛めることがあり、ベイルアウト後に職場に復帰できる可能性は50%とも言われています。
助かっただけでも儲けものと考えるべきです。さらに、射出時の噴射炎による火傷、加速による脊髄の損傷、風圧による骨折、上空での凍傷や低酸素の影響、着地の損傷、着水の遭難など、多くの危険が伴います。
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■民間に応用するには難しい?
そのため、たとえ民間航空機に射出座席を装備しても、乗客が大怪我をしたり、時には死亡するリスクが高いです。特に洋上の場合は、脱出せずに不時着した方が安全性が高いとされています。したがって、民間の旅客機には射出座席やパラシュートが搭載されていません。
その理由は長くなるので次回にお話します。
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■ヘリコプターでは射出座席もパラシュートも搭載されていない?
また、ヘリコプターでも射出座席の計画がありましたが、ネックになるのはメインローターです。また、実際のところ、脱出装置が必要なほどの速度が出ないため、開発が進まなかったのです。その代わり、ヘリコプターでは「オートローテーション」という技術があり、エンジンが停止しても風の力を利用して安全に着陸することができます。例えば、AH-64アパッチは「高度20mからの落下でパイロット生存率80%以上」という条件で開発されています。
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ヘリコプターは低空での任務が多いため、パラシュートによる脱出は現実的ではないのかもしれませんね。
■モジュール式脱出装置
それ以外の脱出装置としてモジュール式脱出装置があります。これは、コックピット部分を機体から分離して搭乗員を脱出させる方式です。背景には、戦闘機の射出座席はパイロットが剥き出しで脱出するため、高高度や超音速飛行時の安全性に問題があったため考案された装置です。
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利点としては、高高度や超音速からの安全な脱出、着水時の低体温症回避、非常用物資の充実などがありますが、大型化するために、落下速度が増加したり、パラシュートの大型化や着地時の衝撃緩和のための重量問題や、メンテナンスコストの高さがありました。
何よりも低空飛行の主流化により「ゼロ・ゼロ射出」が難しいということから、F-111が最後で、それ以降の軍用機にも開発中止となりました。
では、民間機にパラシュートや脱出装置がない理由を次回に。