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翼はどこに取り付ける?高翼・中翼・低翼の違いとは?

 今回は、翼と胴体の取り付け位置に関して、それぞれの特性とメリット・デメリットがありますのでご紹介。


◆低翼機〜WWⅡの戦闘機や現在の旅客機に多いスタイル

 第二次大戦時のレシプロ戦闘機に多いスタイルです。ほとんどがこのスタイルでした。低翼機になった主な理由ですが、主翼に降着装置が取り付けられることが多かったことによります。
 中翼機だと、主脚が長くなるので重量がかさむことになり、構造上も不利なのです。元々水上機として開発された日本の「紫電」も地上用にする際に、中翼から低翼に改造しています。

(上)水上戦闘機「強風」を陸上用に再設計した「紫電」
(下)「紫電」の中翼を低翼にし、完全に地上戦闘機に改修した「紫電改」

 また、安定性は高翼機に較べて悪いのですが、それは、運動性とのトレードオフの関係にあるので、戦闘機には最適のスタイルであったといえます。
 デメリットは、胴体と翼の取り付け部に生じる空気抵抗が高いことなのですが、これは、「フィレット」なるものを付けて空気抵抗を抑える努力をしています。

YS-11のフィレット(『航空工学入門』日本航空整備協会)
九七式艦攻と瑞雲のフィレット 日本機は積極的に取り入れてます

 日本機が他国機に較べて美しく優雅に見えるのは、このフィレットが大きいからと私はみています。気にしない国はあまり気にしていません(笑)

◆旅客機も低翼スタイルが多い

 現在の旅客機の主流はこの低翼スタイルですが、これは、構造の強い部所の上に乗客が乗ることになるので、万が一の際にも安全性が高まるということもあります(高翼スタイルは胴体が潰されやすい)。また、エンジンが翼の下に来るので、乗客に対しての騒音の遮断効果も期待できるのです。

エアバスA380

◆中翼機〜理想形だけど色々と問題も。

 中翼は空気抵抗が最も小さい理想のカタチともいえます。
 第二次大戦機では、主脚が長くなるので、あまり採用はされませんでしたが、戦後の初期の超音速機などはこのスタイルが多くなりました。
 その理由ですが、高速を求めて主翼がかなり薄くなり、翼内に降着装置が格納出来なくなったため、逆に主脚の長さの問題がなくなったというものあります。

手を切るくらい薄い主翼のF-104 降着装置は胴体です。
スホーイSu-7 綺麗な中翼スタイルですね。

 中翼機のデメリットですが、胴体の中央から翼が出るため、低翼や高翼のような一体成型は不可能ですので、構造上複雑になります。

◆高翼機

 現在の軍用機に多いスタイルです。安定性があるのでそのままでは格闘性能的には不向きですが、主翼が高いことから、地面との間に大きな空間が確保されるのが最大のメリットになっています。

Su-25〜高翼機は、翼下に色々と装備しやすいのです。
高翼機のA-7コルセアⅡ
F-15なども高翼スタイルです。

 何故安定性が出るかというと、揚力が生まれる翼の下に胴体が来るので、重心が低くなり、安定性が高くなるからなんですね。ちょうど落下傘のように高い位置で吊ると姿勢が水平になろうとするのと同じです。これを自立安定性といいます。
 なので、練習機などはこの高翼スタイルが多いです。低翼機はこの逆で、主翼の上に胴体が来ますので重心が高い→安定性が悪い→運動性が高い(回転しやすい)という図式になります。
 なお、戦闘機で運動性が悪いのは不都合ですので、翼を下向きにして下半角をつけるという工夫がされていますが、この話はまた後で。

 高翼が主流になったもう一つの要因ですが、超音速飛行の場合の主翼から発生する後流の問題があります。低翼や中翼の場合、大抵は水平尾翼が高い位置に来ますが、迎え角をとった場合に主翼の後流が水平尾翼に悪影響を与えることが分かりました。

MiG-25 水平尾翼が主翼より低い設計

 高翼スタイルだと、増槽(燃料タンク)や大型の爆弾やミサイルなどの武装も翼の下に吊るしやすいですし、輸送機だと翼が邪魔にならないので荷物の出し入れもしやすいというメリットもあります。
 また、海面からもエンジンが離れることから水上機、水上艇はほぼこのスタイルになります。

海面からエンジンを離すスタイルのUS-2

 デメリットは、胴体とエンジンが並びますので旅客機の場合は、エンジンの騒音を翼で遮ることができません。なので、民間機や搭乗者の快適性を求める大型旅客機では、余り用いられていません。

アイランドエア DHC-8 シリーズ100

小型、中型旅客機でプロペラ機などでは高翼スタイルが多いですね。
高翼機より翼をもっと高くつけた場合はパラソル翼機と呼ばれます。初期の頃の偵察機や飛行艇に見られます。

パラソル翼の代表例〜九七式飛行艇

◆胴体がない全翼機

このように、色々な事情があって翼の取り付け位置が決まるのですが、胴体と翼の間に生じる空気抵抗も馬鹿にできません。段差がなるべくないのが望ましいのですが、主翼、胴体、垂直尾翼、水平尾翼などの様々な構成要素が、重量の増加と空気抵抗の増大を生むことになるのです。
 そこで、いっそ主翼のみで構成する「全翼機」を開発できないかという発想が生まれました。有名なのはドイツのホルテンHo229、XB-35などですが、完全な実用機として成功したものはB-2しかありません。

世界で一番高い飛行機 B-2

 これのメリットは、空気抵抗、軽量化、ステルス性、地面効果による短距離離陸など。逆にデメリットが、安定性と設計の難しさといえます。また離陸は地面効果があって短距離離陸が可能ですが、着陸時はそれが逆にオーバーランしやすいといえます。

◆ブレンデッドウィングボディ(Blended Wing Body)

 これは全翼機と同じような発想から生まれた形状の一種ですが、全翼機まではいかなくても、胴体と翼をなめらかにつなぐことで空気抵抗の低減を図ったものです。
 この効果として、高い揚力比、騒音の低減、胴体が幅広くなるので、内部空間が広くなるメリットがあります。

F-16〜胴体と翼がなめらかな一体成型です

 ブレンデッドウイングボディは、次世代の輸送機や旅客機などにも取り入れられる方向で勧められています。これからの飛行機のデザインの主流になるかもしれませんね。

実験機X-48B
将来の旅客機想像図
lockheedmartin Air Mobility

 このように、翼の取り付け位置はエンジンの種類や用途、目的によって変わってきましたが、こういう難しさと苦労の歴史があるからヒコーキは面白いともいえますね。
 お付き合いくださってありがとうございました。

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