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世界初の近代的艦載機〜九六式艦戦

◆映画「風立ちぬ」の堀越二郎

 もう10年以上の前になりますか、宮崎駿監督の『風立ちぬ』という映画がありました。
 その中の主人公の堀越二郎が設計した飛行機が、ラストで飛ぶのですが、それが九試単戦という飛行機で、この機体が実用化したものが九六式艦戦になります。
 映画では、この機体の前に七試艦戦という機体を作り、それが墜落して挫折を味わうのですが、そこで休暇をもらい、軽井沢で菜穂子と出会い、ラブロマンスを繰り広げて、この九試単戦の成功でクライマックスという流れですが、それは映画だけの話。
 しかし現実でも、この七試艦戦の一回の失敗で、よくも九試単戦の採用化にこぎつけたものだと思います。

映画でも最初の機体、七試艦戦は墜落して失敗に終わります。

◆本人さえも予想外の高性能

 この七試艦戦の失敗は実は海軍の日本人だけで欧米諸国に対抗できる航空機を作り上げようとする「航空技術自立計画」の第一段階でした。
 この失敗を受け、戦闘機の艦上運用という制約は時期尚早かもしれないと海軍上層部は判断し、一度、制約を取っ払って思い切り作らせてみようという英断をします。一説には山本五十六長官の進言だとか。
 2年の猶予を与えられ、その結果完成した九試単戦ですが、その結果は、

海軍の要望398km/hに対し→451km/hを記録
海軍の要望5000まで6.5分以内に対し→5分54秒を記録

 という、海軍どころか、設計者の堀越二郎氏自身も驚く結果を叩き出します。今までの飛行機は、海軍の仕様書を上回ることは決してなかったのですが(海軍の無茶振りは有名)、それを達成するどころか、軽くオーバーしたのですから。
 映画のシーンで「すばらしい飛行機です。ありがとう」とパイロットが二郎に握手を求めてきたシーンがありましたね。御本人も感無量だと思います。
 ではなぜ、こここまでの高性能を打ち出すことができたのでしょうか。
それは、
①翼端の捩り下げなどの徹底的な空力センス
②沈頭鋲の採用
③軽量構造の徹底化

があったと思われます。
 この性能は、採用中の九五式艦戦を、運動性能、速度面、全ての点で凌駕したのですから、その結果は強烈なものでした。さらに当時の輸入機たちと比べても引けを取らなかったといいます。正に日本の技術が世界に到達した瞬間であったと思います。
 堀越二郎氏いわく「この九試単戦こそが零戦への道を開いた突破口である」と感慨深げに語っていたとのこと。彼の思い入れは零戦よりもこの九六式艦戦(九試単座戦闘機)にあったと思われます。

海軍九五式艦上戦闘機 当時の主流はまだ複葉布張りでした

◆実用化まで2年。本当の苦労はこれから。

 この九試単戦ですが、正式採用されるにはさらに2年もの期間がかかりました。
 その主な原因は搭載するエンジンの開発です。そのせいで、ライバルの各社も低翼単葉、全金属などの開発にこぎつけ、九六式艦戦の優位性は国内では早くもなくなりつつあります。
 特にライバルの中島飛行機の陸軍九七式戦闘機は、模擬空戦で、九六艦戦よりも速度、上昇力、格闘戦性能の全てで勝る結果になります。
 しかし、堀越二郎は次の飛行機への開発へと目が向いていました。そう、超有名な「零式艦上戦闘機」です。  

ファインモールド 1/48 日本海軍 九六式四号艦上戦闘機 プラモデル 資料から

◆思わぬ戦果が格闘戦重視主義に傾く

 それでも零戦が登場してくるまでの間、九六式艦戦は各方面で敵国相手に大活躍を見せます。
 昭和12年9月から始まった南京上空戦闘では、九六式艦戦が敵戦闘機をバタバタを落とし始めます。この大戦果に国内の新聞もこぞって書き立て、この「海軍新鋭戦闘機」の名は国民にも広く知れ渡ることになりました。
 最大の戦果は、昭和13年4月29日。九六式艦戦27機と中国空軍各種戦闘機78機もの大空戦で、2機の損失で51機の撃墜を上げます。まさに天下無敵の大活躍。
 その間も現地から様々な要望が来て、1,000機あまりの生産数のわりに実に様々なバリエーションが出来上がることになります。
九六式1号(A5M1)、九六式2号1型【前期】(A5M2a)、九六式2号1型【後期】九六式2号2型【前期】(A5M2b)、九六式2号2型【後期】、九六式3号(A5M3a)、九六式4号(A5M4)等々。全部分かる方、そうとうなマニアです。
 日本人だけの力で欧米列強国機に対抗できる機体を実現するという目標は、この九六式艦戦によって達成されたといえましょう。
 しかし、この成功体験が陸軍の九七式戦闘機と同様、パイロットや陸海首脳陣に格闘能力優位思想を植え付けることになり、他国との差が開いていくことになるのです。

諸元:全長7,71m 全幅11.0m 最高速度405km/h
エンジン 760馬力 武装7.7mm機銃✕2門


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