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夜戦パイロットにまつわる余話

 第二次世界大戦で大きく発展した夜間戦闘という戦場ですが、新しい戦場ということで色々な情報戦が繰り広げられました。今回は前回の記事の双発戦闘機たちの物語の余話ということで、パイロットたちの話を付け加えておきたいと思います。

◆夜に強いのは、ニンジンと猫目のお陰?ニセ情報を流して、秘密兵器を隠せ!

 レーダーの存在がまだ軍事機密だったころ、イギリスでは、その戦果をレーダーによるものであることを隠蔽するために偽の情報をわざとドイツに流しました。
 当時のイギリスの迎撃部隊のパイロットたちは優れた夜間視力を得るために、「パイロットたちは毎日ニンジンを食べている」という噂を流したのです。なんともイギリスらしいですね。
 そのパイロットの中でも高速戦闘機デ・ハビランド・モスキートのパイロット、ジョン・カニンガムは、敵にも知られたエースパイロットでもあるので、”猫目のカニンガム”というニックネームをつけられて、イギリス情報部に宣伝させられていました。
 もっとも本人は酷いネコ嫌いだったそうで、このニックネームを嫌がっていたそうです(笑)。ネコかわいいんですけどね。

猫目のカニンガム大佐とデ・ハビランドモスキート

 この話は現在でも一部のニンジンに含まれるこの話は現在でも一部のニンジンに含まれるアントシアニンやカロテノイドが目に良いことの根拠として語られていますが、イギリス情報部による全く根拠の無い捏造話だそうです。でも眼精疲労には効果があるとも。

◆ブルーベリーが目に良いのは本当らしい

 嘘から出た真ではありませんが、アントシアニンの成分を持つブルーベリーが目に良いのが判明したものこの時らしいです。
 ブルーベリージャムが大好きで、毎日パンにどっさりのせて食べていたイギリス空軍のパイロットが、夜間飛行でも「物がはっきりと見えた」と証言したことから、それを聞いた学者が研究を進め、ブルーベリーに含まれる色素「アントシアニン」が、年齢や目の疲れからくるしょぼつき・かすみ・ぼやけを予防・改善できることを発見しました。
 この健康に良い食品ということで、ブルーベリーは多いに普及することになります。

人参やブルーベリーは目の疲れには効能があるのは本当みたいですね。

◆日本では暗視ホルモンという薬を開発。しかしその正体は?

 さて、日本ではどうだったのでしょうか。
 赤外線暗視装置やレーダーなど、闇夜での戦闘の技術開発のみならず、パイロットや夜戦任務の兵士たちのために「闇夜での視力を高めるにはどうすれば良いか」が真面目に研究されて、夜間視力増強用の内服薬が色々と開発されていました。
 そのうちの一つに暗視ホルモンという薬物があったのですが実はこれ、ヒロポンという覚せい剤でした!
 この名はギリシア語のピロポノス(労働を愛する)を由来としていますが「疲労をポンととる」というからという説もあります。
 住友製薬のちゃんとした商品で、当時はこのヒロポンの主成分のメタンフェタミンの副作用について、まだ知られていなかったため、規制が必要であるという発想自体がなく、一種の強壮剤として日常的に使用されていました(現在は「限定的な医療・研究用途での使用」を除き、覚醒剤の使用・所持がすべて禁止)。
 この覚せい剤は、現在ではアメリカでは一番危険なドラッグと言われていますが、当時の日本では副作用が解明できていなく、新聞で普通に滋養強壮剤のようなかたちで宣伝されていたのです。今思うと恐いですよね。

一般に市販されていたヒロポンの広告。
疲労防止や回復といった効果が強調されてます。

◆夜間戦闘機のエース、黒鳥四朗氏と、その後の悲劇

 まさか上層部も狙って配属させたのではないかと勘ぐりたくなる夜間戦闘機乗りにはピッタリの名前、黒鳥(くろとり)四朗少尉です。 黒い鳥・・・。
 正確には偵察兼銃手搭乗員で操縦士ではないのですが、戦後、ご自身の著作「回想の横空夜戦隊」(光人社)という著書で知られるようになりました。  
 横須賀航空隊で倉本十三上飛曹とペアで夜間戦闘機「月光」を駆り、ひと夜であの難攻不落の要塞、B-29を一気に5機撃墜したことで有名な方です。  
 元々は偵察員として配属されたので、偵察員の中で実際に敵機を追い、攻撃できる機種は夜間戦闘機しかなかったため、夜間戦闘機を熱望したそうです。  
 この黒鳥少尉たちも、夜間戦闘のために、この暗視ホルモンなる薬物の投与を受けて戦ったのですが、戦後すぐにこの薬の副作用が始まります。
 尖ったものや手や鼻が自分の目に飛びこむ感覚、微熱と目眩、食欲の減退に長期間悩まされ、完全になくなるには40年近くかかりました。なんとも恐い話ですよね。

斜銃を装備してB-29に攻撃する夜間戦闘機「月光」
「タミヤ1/48 中島 夜間戦闘機 月光11型 前期生産型 」箱絵より


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