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アメリカ急降下爆撃機の系譜。ヘルダイバーの愛称の由来は意外なところから。
少し軍事的な兵器の話をします(苦手な方はご注意を)。戦争で爆撃なるジャンルが生まれ、爆弾を搭載した爆撃機なるものが誕生しました。敵地の工場や施設または艦船や戦車などの兵器を効果的に破壊し、戦争の継戦能力を低下させるのが目的です。命中率が求められると、第二次世界大戦下では急降下爆撃機が生まれました。
アメリカを代表する急降下爆撃機というと「SB2Cヘルダイバー」が有名なんですが、ヘルダイバーと聞くと、「地獄(ヘル)に向かってダイブするぜ!」というようなイメージが日本人的には強い印象なのですが、実は全然違うという話も。
■急降下爆撃とは?
航空機が目標物に着弾させるには大きく2つの方法がありました。一つはポピュラーな水平爆撃。
水平で飛びながら爆弾を投下します。利点は、そのまま真っ直ぐに飛び続ければいいので、機体に負荷がかかりません。ですので大型化もしやすく爆弾も大量に積むことができます。
欠点は目標に着弾しにくいこと。風に流されたりもしますので誤差も出ます。なので、小さな目標物よりは工業地帯や大都市など広範囲に被害を与える用途向きです。B-17やB-29などの四発爆撃機は何トンもの爆弾を搭載できました。ドイツも日本も散々これにやられました。
もう一つが急降下爆撃機です。この最大のメリットは命中率が格段に向上すること。軍船や戦車など、小さな目標物に向いています。
分かりやすく図で示すとこんな感じ。
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デメリットは急降下と、引き起こしにかかる衝撃に耐える機体強度が必要なので、大型化が難しいこと。ですので、搭載できる爆弾も250Kg〜900kgなど少ないものになります。
・日米艦隊決戦では急降下爆撃機と魚雷のダブル攻撃が主流
ですので的になる艦船への攻撃には急降下爆撃は命中率が高いので有効なのですが、沈没させるにはやや威力不足。そこで、土手っ腹に穴を空ける魚雷攻撃ができる雷撃機とコンビを組みことが多いです。九七式艦攻&九九式艦爆、天山&彗星、TBFアベンジャー&SB2Cヘルダイバーなどですね。
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もうひとつのデメリットは、目標物に向かって真っ直ぐに近づいてくるので、相手側としては狙いやすいとうこともあります。なので被弾率は非常に高いです。両者命がけのデスマッチとなる訳です。
・物資の少ないドイツでは急降下爆撃機が大流行
ドイツでは、急降下爆撃のブームが起きました。なにせ四発の戦略爆撃機になる予定だったHe177爆撃機にも急降下爆撃をさせようとしていたくらいです。B-29やB-17が急降下爆撃するような感じです。強度不足で当然失敗しますが・・。
ちなみにドイツでは急降下爆撃機の代名詞というと、ユンカースJu87スツーカが有名。このスツーカという名称もドイツ語で急降下爆撃機を意味する「Sturzkampfflugzeug」という言葉から来ています。 ドイツの急降下爆撃機に関しては次回にご紹介。
◆ヘルダイバーの名はオビハシカイツブリという水鳥の意味
さて、急降下爆撃開発の元祖はアメリカですが、SB2Cの愛称は「ヘルダイバー」。「地獄へ向かって果敢にダイブする」そんな急降下爆撃機のイメージがぴったりない感じがしましすね。
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しかし実はこれ、鳥の名前から来ているんですね。それがこれ、オビハシカイツブリ(Pied-billed grebe)のという水鳥の別名なんです。えぇぇ?・・・・。
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池や沼や湖などでよく見かけられ、餌を捕るためにアッという間にもぐってしまい、あちらの方でポッカリ浮かびあがるという潜水の名手なのです。泳ぎに最適化しており、長く潜水する水鳥なんですね。
さらに言うと、このSB2C"ヘルダイバー"は実は二代目で、初代ヘルダイバーが存在していたのでした。
それがこちら、SBCヘルダイバー。1935年に初飛行。複葉機ながら金属製の胴体と引き込み脚を有しているのが特徴で、この時期の技術革新の狭間を感じるデザインです。
まあ、ヘルダイバー=地獄へ向かってダイブだぜ!のイメージは日本だけなのかな?
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空のオビハシカイツムリという感じですね。
◆アメリカ海軍機の愛称
さて、この頃のアメリカ海軍機の愛称は、なかなか勇ましく、
SBD ドーントレス : Dauntless, 恐れを知らない、勇敢な、不撓不屈のなどの意
BTD デストロイヤー:Destroye,破壊する者などの意
SB2A バッカニア:Buccaneer,国家承認の海賊
XTB2D スカイパイレート:SkyPirate:空の海賊の意味
TBD デヴァステイター : Devastator, 荒廃させるもの,破壊者の意
TBF アヴェンジャー:Avenger ,復讐者、報復者の意 などなど。
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TBFアヴァンジャーなどは、お披露目の日がちょうど真珠湾攻撃の日だったためにその場で名付けられたという噂もあります(実際はもっと前)。
さて、おエライ方々はこのようなカッコよくて勇ましい名前を付けますが、現場の将兵たちは俗語を付けるのは当たり前(笑)。色々なネームで呼んだりします。
・「Yo!サノバビッチ!お前は2流のセカンドクラスだぜ!」〜SB2Cヘルダイバー
SBC2Cは、急降下爆撃以外に魚雷も搭載できて雷撃も可能ということで上層部の受けは良かったのですが、現場では使いづらいしトラブルが多いと悪評で、SB2C=サノバビッチ・セカンドクラス(Son of a Bitch 2nd Class)、「二流のろくでなし」と呼ばれ、忌み嫌われていました。
ちなみにサノバビッチとは、直訳では「娼婦の息子」ですが、日本で言うところの「くそやろう」「ちくしょー」という意味です・・・。
なんかトラブルがあった時、クソっ!SB2C(サノバビッチセカンドクラスという意味で)!」と中指を立てて叫んでいたかもしれませんな。
・「お前はノロマだが必殺の野郎だ!」〜SBDドーントレス
逆にSBDドーントレスは、速度を除けばパイロットからの評価は高かったため、こちらも型番をもじって、SBD=スロー・バット・デットリー(Slow But Deadly)「遅いが、必殺」と呼ばれていました。
芸人の略語ネタのようで面白いですね。他にもあるのか調べたくなってきました(^^)
ちなみにSBDだのTBFなどややこしいですが、SBは偵察爆撃機 (Scout Bomber) を意味し、TBは雷撃爆撃機 (Torpedo Bomber)を指します。その後にあるDなどCなどの記号はダグラス社、カーチス社などの航空機会社のメーカー記号です。
SB2Cは、カーチス社の2番めに開発した偵察爆撃機、F6F はグラマン社の戦闘機で海軍に採用された6番目の機体という意味ですね。
アメリカでは偵察爆撃機が主に急降下爆撃機の任務も担っていたためにこうなってます。
◆雷撃機と急降下爆撃機はA−1スカイレーダーで統合される
さて、このような急降下爆撃機は、艦船攻撃で魚雷を積んだ水平爆撃を行う雷撃機とタッグを組むことが多いのですが、狭い空母の甲板上ではなるべく機種を増やしたくないのが理想です。 そこでエンジンの性能が上がって余力が生まれてくるようになると、この両者を統合しようという話が出てきます。
そこで生まれたのがA−1スカイレーダーです。初飛行は終戦の年の1945年の3月でした。終戦で間に合いませんでしたが、高性能になった機体はジェット機が主流になった、その後の朝鮮戦争、ベトナム戦争でも活躍します。
日本でも同じような話が出ていて九七式艦攻の後継機「天山」と九九式艦爆の後継機「彗星」の配備も不十分なまま、両者を統合したような性能を持つ「流星改」がすでに開発中でした。
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急降下爆撃ですが、現代ではほとんど実施されていません。これは、発達した高射砲や地対空ミサイルに対して危険であること、誘導爆弾や巡航ミサイルが普及したことが上げられます。
急降下爆撃は過去のものとなってしまいました。