「あなたのように」が私をつよくする─鷺沢萠『眼鏡越しの空』
「あぁッ!」
図書館で『ビューティフル・ネーム』という小説を見つけたとき、もっといえば『眼鏡越しの空』という文字が目に入ったときに、つい小さく叫んでしまった。
大好きな歌と作家が一堂に会した瞬間、私は主人公である奈蘭と同様に「運命」を感じずにはいられなかったのだ。
◇
初めて『眼鏡越しの空』を聴いたのは、14歳の頃だった。『ドォーモ』という九州の深夜番組で当時のエンディング曲に使用されていたのだ。
「眼鏡」「短い髪」「シャンとした後ろ姿」
そう発する吉田美和の声に手が止まり、大好きな恩師の姿と重ねて聴き入った。
コワモテだけどすっごく優しい私の恩師は、眼鏡と煙草が似合う、絵に描いたような”素敵なオジサマ”だった。
全てを書くと苦しいので割愛するが、小学5年生の頃に通常登校ができなくなって以来、中学に上がっても周囲に理解されずに苦しむ私に先生は居場所を作ってくれたし、「大丈夫だよ」と言ってくれた。
私はそんな先生が大好きで、今でも実の父親のように慕っている。
なので、先生が遠い街に異動することを知ったときはわんわん泣いたし、離任式でも秒で号泣したし、進級しても寂しくて毎晩静かに泣いていた。
──私も、先生のような人になりたい。
ずっと変わらないこの思いは、曲を聴く度に強まっていく。『眼鏡越しの空』は、私にとってお守りのような曲なのだ。
◇
それから約3年後。
定時制の高校へ進学した私は、入り浸っていた図書室でその後の人生に多大な影響を与えることとなる人物と出会った。
彼女の名は、鷺沢萠。
『執筆前夜』というインタビュー本の最後に、彼女は登場した。
ざっくばらんに語る姿がとてもカッコよく、『鷺沢萠』の章ばかり何度も何度も繰り返し読んだ。そして、読む度に「この人最ッ高にカッコいい!」と強く憧れた。
彼女の作品を貪るように読み、
「私も鷺沢さんみたいなエッセイ書きたい」と執筆家を志し、今に至る。
まっっったく鷺沢さんのようなエッセイは書けないけれど、それでもやっぱり彼女に憧れ続けている。大大大好きな作家さんなのだ。
◇
それからさらに数年経った現在。
「久々に鷺沢さんの小説読みたいな」
と偶然手にしたのが『ビューティフル・ネーム』だった。
「あなたのような人になりたい」存在が、「あなたのような人になりたい」存在を思わさせる曲を題材に小説を書いていた──。
この事実は、私をとても勇気づけてくれた。
憧れの先輩にちからを貰い、一歩を踏み出した奈蘭のように、私はふたりの「あなた」を想ってこのエッセイを書いている。
あなたのようになりたい、なれたらいいな、と思える存在がいることは、苦しいとき本当に励みになる。願わくば、画面の向こうのあなたもいつかそんな人に出逢えますように。