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暦応年中塩治判官家士四十七騎怨敵高野師直夜討之図 歌川国芳

歌川国芳・作。天保後期。

赤穂浪士による吉良邸討ち入りの場面を描いた作品。題名は仮名手本忠臣蔵の登場人物名である塩治判官(浅野内匠頭)と高野師直(吉良上野介)が入る。本作では広い邸内の池に架けられた渡り廊下が描かれており、他の義士討入図に見られない独特な構図である(出典)

仮名手本忠臣蔵は元禄赤穂事件を基にしつつ、当時の幕府の規制により、太平記時代の物語として脚色された。登場人物は史実と異なる名前で描かれており、例えば浅野内匠頭は赤穂の特産品「塩」にちなんで塩冶判官に、大石内蔵助は大星由良助に、吉良上野介は高師直として表現されている。浮世絵は、この脚色された物語世界を視覚的に伝える重要な媒体であり、芝居では観客の入りが悪い時でも忠臣蔵を出せば当たるといわれるほど庶民に人気があった(出典)。

仮名手本忠臣蔵で描かれた揃いの火事装束は、史実とは異なる舞伎の視覚的効果を高めるための演出の一環である。実際の討ち入りでは、大石内蔵助が目立たない黒い小袖を着用するよう指示し、各自が個別に装備を整えていた。黒い小袖に白い布を右袖に巻く合印こそあったが、統一された火事装束は用いられていなかった。その姿が火事装束に似ていたことから歌舞伎では派手な演出として火事装束が採用され、安永・天明期(1772~89年)頃から浮世絵にも雁木模様として描かれるようになった(出典)。

落款が削られている

本作は、米国ボストン美術館に右が欠損して収蔵されていた。

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