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ロシア旅行の思い出話【3】

エカテリンブルク市内を歩く

昼食を済ませて外へ出た。閑散としたロシアらしい光景が広がっている。そこそこ密度のある日本の地方都市を、そのままストレッチすれば・・・エカテリンブルクのようになるかも知れない。そう感じた。

広々とした市内

さて、最優先で銀行に行かなくてはならない。ルーブルを購入する予定。安全上の理由から、クレカの使用はなるだけ控えたい。旅行ガイドでも注意喚起されてあった。

「ちょっと立ち止まってください。そこのあなたですよ。この財布を落としませんでしたか? 旅行されてるんでしょう?」

突然、銀行正面で警察官に呼び止められた。屈強な身体の男だった。彼は、下に落ちている財布を指差していた。

少し焦ったが、「僕のではありませんよ」と即答。自分の財布はバックの中。落とすはずもない。予想通り、パスポートの検閲をされた。僕は既に滞在登録印を取得済みである。揺すりのネタが何もないと判断したのだろうか、警察官はすぐに去っていった。

【悪徳警官の代表手口】
旅行者に金をせびる悪徳警官は、ロシアの代名詞。ちなみに、ここで財布に触れて中身を確認してしまうと、持ち主を語る人物が、どこからか割り込んでくるらしい。そして、中身がなくなっている云々と駄々をこねて、拾い主が盗んだというストーリーをでっちあげるそうだ。当然この両者はグル。

銀行(奥に見える建物)

銀行では400ドル分を換金した。1週間遊ぶには十分な金額のはず。銀行内は厳重に警備されていて、分厚い仕切りを挟んで行員と対峙する仕組みのようだ。また、ルーレットが取り付けられてあるのは、受け渡しの際に、互いの手と手が触れぬようにするためだと思う。行員は僕の目をじっと見ていた。ルーブルの受け取りが完了するまで気が抜けなかった。

さて、観光を意気込んで外出したものの、どこへ向かっていいのか分からない。ここにきてモチベーションが急降下。とりあえず、裏通りを歩いてみることにした。ロシアには小さな公園がたくさんある。だが、管理はされていないのだろう。草だらけの荒地の中にブランコがポツリ寂しそう。

寂しい公園1
寂しい公園2

おや? 誰かが公園のベンチで居眠りをしている。どうやら、オッサンっぽい。男性は帽子を深く被り、背もたれに重心をかけつつも、頭部を前方に倒すようにして寝入っている。まるでロシア文学に出てきそうな光景だ。僕はしばらく彼を眺めていた。

でも、何かがおかしい。少し男性に近づいてみた。すると、なんと死んでいたのである。一瞬、恐怖と驚きで頭の中が真っ白になった。遺体はまったく傷んでいる様子はない。ということは、心臓発作か!? 手を当てて体温を確認してみようかと思ったが、色々な不安が頭をよぎり、あえてしなかった。

このまま放置するわけにはいかない。僕は一目散にキオスクに駆け込み、状況をありのままに報告した。目の合った女性店員さんは、「警察に通報しくわ」と、面倒くさそうな表情。だが、興奮する僕を見かねたのか、「珍しくないことよ。事情を訊かれると面倒になるから、早く立ち去りなさい」と続けた。僕は忠告を素直に受け入れた。それ以降のことは分からない。途中、呑気に会話しながら歩く人々とすれ違った。死体など気にもしていないようだ。色々と焦っていたのは、なぜか外国人旅行者である僕だけだった。おそロシア。

予期せぬ光景にショックを受けた自分だったが、1時間もすれば既に過去のこと。その後は、また歩き回った。目的もないのに郵便局に入ってみたり、本屋さんを物色したり。ロシアでは、ショッピングの前には、手荷物を預けるのが一般的。きつい顔の店員さんは、僕のバックをひったくるようにしてロッカーに放り込んでいた。低質なサービスの割にセキュリティにはうるさい。また、あれこれ監視されているかのような感覚にもなる。共産党時代の名残なのだろうか? 

そろそろお腹が空いてきた。偶然見つけた面白いお店で食べていこう。スタローヴァヤ(столовая)という食堂らしい。感激したのは、様々な家庭料理が提供されていること。しかも安い。旅行ガイドに紹介されているような料理ばかりである。

【スタローヴァヤ(столовая)】
旧ソ連時代から存在する大衆食堂のこと。美味しくてリーズナブル。食べたい料理を選んで、店員さんにとってもらうセルフ方式が多い。料理の種類も豊富。

シャシリク(шашлык)
これはロシア料理なのだろうか?

ロシアの焼き鳥をオーダーしてみた。シャシリク(шашлык)と表記されていた。どうせなら食いまくってやろう。チャーハン風の料理にもトライしてみたが、確かにライスが使用されていた。だが、これが本当にロシア料理なのかは不明。大勢のお客さんとテーブルをシェアする必要があったが、料理の美味しさのためか、全然気にならなかった。それにしても、笑顔のない店員さんにだけは、いつまでたっても慣れそうにはない。

その後はホテルに戻った。フロントには、いつもとは別のクラークさん。初対面のあいさつ代わりに、今日の事件のことを報告してみた。彼の見解は、ロシアでありがちな凍死。泥酔してベンチで寝てしまい、朝の冷え込みでそのままあの世へ。でも、満更でもないような気がした。間をおいて、「どんな酒を飲んでいたと思う?」とクラークさん。僕が考えていると、「ウォッカに決まってるでしょう!」と続けた。彼は笑っていた。ロシア式のジョークだそうな。

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