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ロシア旅行の思い出話【5】

※ 成人向けの表現が含まれていますが、卑猥さを助長する意図はございません。文章表現において、「包み隠さず描写したい」という私なりの方針にご理解いただきたく思います。

ナンシーとの出会い 後編

ホテルに帰還。フロントは空席である。呆れたものだ。ベルが聞こえなかったのだろうか? どうせ奥で居眠りでもしているのだろう。僕たちはクラークを待たずにエレベーターに乗り込んだ。ナンシーは笑っていた。

僕の部屋は4階にある。僕は自分の階のボタンを無意識に押してしまった。だが、これから向かうのは彼女の部屋である。「間違えた」と僕。だが、ナンシーは何もせずにエレベーターが動きだすのを待ったようだ。「あなたの部屋? 私も4階なの」と彼女。一瞬ハッとなった。偶然だろうが驚くべきことでもないので、僕はそのまま4階に着くのを待った。

ナンシーに僕の部屋を案内した後は、彼女に静かについていった。どこまでも廊下を奥へまで進んでいく彼女。僕の不安は的中した。「ここよ」と彼女は指差した。「この部屋だったんだ・・・」と自然に言葉が漏れた。

「どうしたの?」とナンシー。だが、僕は首を横に振り、彼女の案内されるがままに部屋に入った。直後に「Welcome !」と言われて、とても気持ちがよかった。「Do Not Disturb」の表札はドアの裏に掛けられてある。

彼女の部屋は何もなくスッキリとしていた。赤い大きなバックパックが置かれてあったぐらいだ。見るからにパンパンな状態。これでアメリカからエカテリンブルクまでやってきたのだろうか? 旅好きな僕には、彼女の気持ちがわかる。ナンシーは僕の手を引っ張り、彼女と並んで座るように、ベッドサイドに僕を誘導した。

「あなたも旅行好きなんだよね? 私もあちこち回ってるのよ。日本にはまだ行ったことはないけど、中国ならあるわ。ロシアは・・・初めてじゃないけどね。旅行の楽しさってさ、人との出会いよね。そう思わない?」とナンシー。彼女は夢中で武勇伝を披露する。

同意できる。僕も彼女に旅の話を聞かせてあげた。僕は大学1年時にオランダを旅したことがある。そしてその地で、マヨラインという(『オランダの香り』より)、後に生涯を共にする女性に出会った。ナンシーが軽快でフレンドリーに話す仕草などは、どことなく彼女に重なる。

だが、ナンシーには謎が多い。豊富な知識を振りかざす一方で、僕からの重要な質問には、曖昧な返事でぼやかしてしまうのだ。だから、彼女のバックグラウンドは、最後の最後まで未知のままだった。

「ワンセント? ロシアに来た本当の理由を教えてあげる。ロシア人のボーイフレンドを見つけにきたのよ。私はね、大学が終わったら、できるだけ早くロシアに移住したいの。恋人がいれば、モチベーションにもなるし、一緒に頑張っていけそうだから。だけど、実際には見つからないし、今更どうでもよくなっちゃった」

ナンシーは、将来はとにかく幸せになりたいと言っていた。お金に苦労することもなく、自由に旅行したりできる環境に身を置きたいと。僕が「だったら、ロシア政商を恋人にするしかないなぁ。上手くいけば、仕事しなくてもいいんだぞ」と言うと、ナンシーはアハハと笑っていた。

彼女の機嫌が良さそうなので、あの夜の「あえぎ声」について彼女に確認してみた。ナンシーの声だったような気がしてならなかった。

「分からないわ。私はいつも1人よ。この部屋に人を入れたのは、あなただけよね。それに、夜には外出していることもあるから・・・」

予想していた返事内容だ。僕もこれ以上の追求はやめよう。とても気になるが、所詮は他人同士。この瞬間を楽しめればそれでいい。それも、バックパッカーらしく。

僕たちは時間を忘れて、談笑をいつまでも楽しんだ。互いの趣味のことだったり、音楽やスポーツなど、様々な話題で盛り上がる。今から思い出しても、このときは本当に楽しかったなと思う。特にナンシーが、ブリトニー・スピアーズの真似をしてダンスを踊ったり、ハリウッド映画の話に夢中になったりする姿は、年頃の女の子なんだろうなと感じた。僕も負けじと、マイケル・ジャクソンを演じて見せた。この国に来て、大声で笑えたのはこの日が初めてだった。

だが、どんなに和気藹々と楽しんでいようが、部屋にいるのは2人の若い男と女。僕の経験上、男女の自制心が制御不能に陥るのは、こんなときに最も起こりやすいもの。

騒ぎが落ち着き始めた頃、隣に寝転んでいたナンシーは、冷蔵庫のコーラを取りに身を乗り出した。彼女の綺麗な身体が僕に重なるような体勢になったとき、胸が偶然にも僕の顔をかすめた。僕はその瞬間、無意識に彼女を抱きかかえてしまったのである。「やってしまった!」と一瞬、後悔もした。

ナンシー

「そろそろ来るんじゃないかと、思ってたの。私の勝ちね。我慢できなかったあなたの負けよ。いいわ、どうせなら一緒に楽しみましょ」とナンシーは笑った。途端、僕たちは激しく互いに唇を重ね、服を脱がし合った。その後は、ご想像通り。

「ワンセント? ロシアのアネクドート(ロシアの面白い小話)なんだけど、『ロシアの夜は長い』って聞いたことある? どんな意味だか知ってる? 共産主義時代の言い回しよ。『ロシア人は暇だから、セックスをするぐらいしか楽しみがない』って意味なの。もしかしたら、私たちのことよね」

セックスの最中にもナンシーがジョーク。また一緒に笑い出した。本当に人間らしい体験だった。僕は心の底からそう感じた。

結局、僕たちは一睡もせずに朝まで過ごした。ナンシーの部屋を出る際に、電話番号を交換した。この後も、僕たちは互いに時間を見つけては会い続けた。彼女との別れには「予想外な幕引き」が待っていたが、それについてはまた後から書きたいと思う。

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