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Z世代の就活生に選ばれる、採用戦略をつくるには。

新型コロナウイルスによって大きく変わった就職活動。採用手法の変化に戸惑う採用人事担当の方々も少なくないはずです。しかし、それ以上に激変しているのが「学生のキャリア観」この変化に気付かずに、例年通りの採用を進めていると、いつの間にか、学生から選ばれない企業になってしまうかもしれません。

電通とワンキャリアは、このような就活市場の大きな変化を踏まえ、新卒採用のトレンドと新事例を解説・考察する1DAYプログラム「OPEN HR LAB (β)」を2021年7月にオンラインで開催しました。

本記事では電通内のプランニング&クリエイティブユニット「電通若者研究部」(※)としても活躍する西井美保子氏・用丸雅也氏が語る、採用におけるマーケティングメソッドやクリエイティブ開発の考え方を中心にご紹介します。記事の前半では「明日から使える採用活動の型作りのヒント」として採用活動や採用広報に取り入れられる手法を説明し、後半は視聴者から寄せられた質問にお答えいただきました。

※電通若者研究部:「若者から未来をデザインする」をミッションとして掲げ、若者と社会がよりよい関係性を築けるようなヒントを探るプランニング&クリエイティブユニット。就職活動のリデザインを通して、若者と企業の新しい出会い方のプロデュースを行っています。
公式WEB:https://dentsu-wakamon.com

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【登壇者プロフィール】
◆西井美保子氏
電通 ソリューションクリエーションセンター
ビジネスデザイナー。数々の企業への経営・事業コンサルティングを行いながら、「電通若者研究部」(https://dentsu-wakamon.com)、「GIRLS GOOD LABO」(旧電通ギャルラボ)に所属。 著書に、『パギャル消費~女子の7割が隠し持つ「ギャルマインド」研究~』(日経BP)、『なぜ君たちは就活になるとみんな同じようなことばかりしsゃべりだすのか。』(共著、宣伝会議)。D&AD、Red Dot Design Award、One show、キッズデザイン賞など受賞。NPO法人ETIC.クリエーティブ統括アドバイザリー、Voicyブランド戦略顧問など社外活動にも従事。

◆用丸雅也氏
電通 第2クリエーティブプランニング局 / Future Creative Center
クリエーティブ・ストラテジスト。東京大学法学部を卒業後、電通に入社。広告のみならず、MVV(ミッション、ビジョン、バリュー)/事業/企業アクション/採用コミュニケーション/インナーコミュニケーション開発など、社内外の企業の期待価値を高めるクリエイティブ開発が得意。若者から世の中に前向きな空気感を作りたいという思いを形にすべく、「電通若者研究部」としても活動。受賞歴にD&AD ブランディング部門最高賞、ADFEST BRAND EXPERIENCE部門ゴールド、PR Awards Asiaゴールドなど。趣味はストリートダンスとスナック巡り。

◆北野唯我氏
著述家・ワンキャリア 取締役
兵庫県出身。新卒で博報堂経営企画局・経理財務局で勤務。米国・台湾留学を経て、ボストンコンサルティンググループへ転職。2016年、ワンキャリアに参画、現在、取締役として戦略・人事・広報クリエイティブ領域を統括。著書に『転職の思考法』『オープネス』(ダイヤモンド社)、『天才を殺す凡人』(日経BP)、『分断を生むエジソン』(講談社)など。最新作は『内定者への手紙』(キンドル限定版)。

◆新卒採用は正解のない時代に入った

セッションに先立ち、電通の西井氏がOPEN HR LAB(β)を立ち上げた背景を語りました。就職活動が大きく変化し、新卒採用が正解のない時代に突入した今、重要なことがあると切り出します。

「未来が予測不能な時代だからこそ、各社の新しい採用事例を知り、どのように採用戦略を創っていくか知ることが重要です。OPEN HR LAB(β)では、皆さんと議論しながら、新たな採用事例が生まれるようなプログラムを作りたいと思います。今回、名前に(β)が付いているのは、このイベントを実験の場として立ち上げたからです」(西井氏)

正解がない中での採用活動は、採用人事の悩みの種になっています。特に新型コロナウイルス感染拡大の影響で採用のオンライン化が急激に進んだため、ウェブ上での面接や採用戦略に課題を抱える企業が少なくありません。イベント前のアンケートに寄せられた採用人事の悩みにも、以下のようにオンライン化の影響が色濃く出ました。

【人事部や採用チームが抱える4つの悩み】
1.狙った通りの学生に出会いにくくなった
2.そもそも会社として、どうやって採用戦略を作っていいか分からない
3.オンラインに変わり、学生の本音が分かりづらくなった
4.内定を出した後のフォローがうまくできていない

ワンキャリアの北野唯我氏は、今年の内定辞退率が急激に上がっていると前置きした上で、オンライン採用だけでなく、学生の変化に企業がついていけていないと話します。「Z世代の価値観、特にLGBTQやSDGsなどについて学生から聞かれる機会が増えたことで、企業もどのように対応したらいいか困っている感覚があります」(北野氏)

学生との出会いから内定後のフォローまで、どのようにして学生たちに企業を好きになってもらい、選ばれる企業になればいいのでしょうか。

◆戦略も何も、まずはZ世代を「理解」することから

最初のセッションは電通の西井氏・用丸氏から「激変する就活市場で学生に選ばれる企業の秘密」というテーマについてお話しいただきました。

今、就活生にあたる1999年や2000年生まれは、いわゆる「Z世代」であり、上の世代と比べて価値観や仕事に対する意識、キャリア形成の考え方が激変していると言われています。副業解禁や終身雇用制度の崩壊、経団連が定める採用ルールの変化などで就活環境が大きく変わり、これまでの採用手法が通用しなくなる中で、優秀層から大手外資系企業に流れていく傾向にあると西井氏は説明します。

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「エントリー数が激減するわけではないため気付きにくいのですが、応募者に優秀層よりも安定志向の学生が増えたと感じるなら、大手外資系企業に学生が流れているからかもしれません。約半数が外資を志望している現状で、Z世代の考え方を理解しないまま例年通りの採用活動を続けていたら、じわじわと学生から選ばれない企業になるでしょう」(西井氏)

では、Z世代と呼ばれる学生たちはどのような価値観を持っているのか。西井氏と同じく、電通若者研究部としても活動する用丸氏は「世界的な不況や、テロ行為、未曾有の災害などを見て、当たり前という概念が通用しない環境で育ったために、前提を疑う力が強く、未来についても希望的観測をしない」とZ世代を分析します。

Z世代は、物心ついたときからスマートフォンやSNSが存在しました。そのため、いつも周りの目にさらされ、世の中とずっとつながっている世代とも言えます。これまでの若者とZ世代の間で大きく異なる要素は次の4つです。

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1.解消されない不安からくる合理主義

Z世代は、これまでの当たり前が通用しない、正解のない時代に育ちました。そのため、前提を疑い、本質を問いかける傾向にあります。上の世代には、こうした姿勢が合理的に映るかもしれません。

2.タイムパフォーマンスへの意識が高く、「KY」は消失

情報爆発の中で生きているからこそ、同じ時間でどれだけ効率よく情報が得られるか、というコストパフォーマンスならぬ「タイムパフォーマンス」を重視する傾向にあります。TikTokのような一瞬で見られるコンテンツがZ世代にウケたのもこの理由から。
ただ情報を受け取るだけでなく、自分から情報を発信する方がリテラシーが高いと評価される世代のため、「空気が読めない(KY)」という概念は消失し、「自身の努力や個性を周囲に発信することに積極的」という特徴があります。

「石の上にも三年ということわざがあるが、下積みという感覚で3年間頑張ることに不安を感じ、自分のやりたいことに時間を費やし、成長したいと考える傾向にある」と用丸氏は話します。

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3.サステナビリティ・ネイティブ

未曾有の災害を見聞きして生きてきたため、Z世代にとってESG(環境、社会、ガバナンス)やSDGsは自分ごと。学校教育の影響もありますが、「地球環境は自分たちでどうにかしないと」という気概があるため、地球規模でのサステナビリティ(持続可能性)やソーシャルグッドを意識するのは彼らからすれば、当たり前のことなのです。

4.バーチャルもリアル

これまで「バーチャル」と「リアル」は対の概念として表されてきましたが、Z世代にとっては、バーチャルもリアルの一部。ネットが匿名性の高い世界というのは、今は昔。SNSを見れば相手の人となりが分かるため、バーチャルで会う人の方が友達や仲間になりやすい。透明性の高い世界になったとも言えます。

物事の裏側が見えやすくもなったため、用丸氏は「採用活動をはじめ、あらゆる企業活動において、透明性が求められるようになっている」と注意を促しました。

■3つのヒントから作る「自分たちだけの採用の型」

Z世代の特徴が理解できたところで、それをどのようにして自社の採用活動や広報に生かせばいいのでしょうか。西井氏は明日からできる方法として「自社なりの採用活動・広報の型を作ること」を提案します。紹介されたヒントが次の3つです。

1.3C分析を活用したコアメッセージの開発

3C分析とは、自社の戦略を考える際に「自社」「消費者」「競合」の3つの視点を考えること。しかし、特に採用の場においては消費者、つまり学生と競合の視点が欠けていると西井氏は警鐘を鳴らします。その結果、採用のコアメッセージを考えても競合のメッセージに埋もれ、学生との間に温度差が生じている可能性があるとのこと。

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「皆が体のいい言葉を使うので、メッセージも同じ内容になりやすいです。採用候補者に魅力を感じるのは、その人にしか経験ができないことを伝えたときですが、それは企業にも当てはまること。どの企業にも言えそうな、うわべだけのコミュニケーションをしていては、学生との本質的なマッチングは生まれません」(西井氏)

電通自体も、事業変革が進む中で、どんな方に関心を持っていただきたいかを考えながら、伝えたいことを常にアップデートし、ターゲットとする方の意識や競合の戦略も踏まえて採用コミュニケーションを進化させてきたと言います。2022年卒採用のコンセプトは、「電通を、つかえ。」このメッセージをきっかけに関心を持った方々も多くいらっしゃったそうです。

コアメッセージを作るときのコツは「差別化」と「独自性」の2点です。

会社の事業において、What(何をやるのか)とHow(どうやってやるのか)については、各社が差別化しにくいため、言葉にしようとすると、抽象度が高く、どこかで見たことがあるようなものになってしまいがち。そのため「Why(なぜやるのか)」を突き詰めて自社が持つスタンス、思想、哲学などを言語化する必要があります。

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また、情報過多の時代のため、きれい事ではなく、自社の思想やスタンスのある言葉を発信できるか、つまり言い方に独自性を持たせられるかも重要となります。

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2.コアメッセージを起点に、採用コミュニケーションを設計する

コアメッセージを起点に、パンフレット、ウェブ、説明会、インターンシップ、PR活動など、採用コミュニケーションを設計していきます。

電通若者研究部がプロデュースしてきた他社事例では、「損得よりも善悪」という社是からヒントを得て、メッセージを不等号(「<」)のフレームに当てはめて採用コミュニケーションを展開した日立製作所や、「つなげて、うみだせ。」というコピーのもと展開したNTT東日本などがあります。

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「ここで考えたコミュニケーションフレームを、パンフレットや各種イベント、インターンシップなどの施策で統一展開することが重要です。例えばインターンシップだけトンマナを変えるのは、メッセージの伝達効率が下がります」(用丸氏)

さらに、「特に、採用コミュニケーションにおいて、インターンシップが重要になっている」と用丸氏。学生に既に認知されている企業にとっては、就職先として再会する機会であり、認知されていない企業にとってはインターンシップが、はじめましての機会。一方で、インターンシップが供給過多な状況も否めない今、ただ企業都合の募集メッセージだと、もともと自社に興味のある人しか参加しません。そのため、志望者でなくても参加メリットが感じられるよう入り口を広げる必要があります。

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「今は学生が『イノハラ(イノベーション・ハラスメント)』と言うぐらい、新規事業を考えさせるプログラムが多いです。学生がインターンに参加するメリットを考え、話題性のある取り組みなどを切り口にするなど、自分ごととして向き合える内容をコミュニケーションの設計から考える必要があります」(用丸氏)

3.オリジナルのリクルートジャーニーを考える

3つ目のヒントは、会社ごとのリクルートジャーニーの制作です。消費者が自社の製品を購入するまでにどのような体験をするのかをマップ化した「カスタマージャーニー」の就活生版と考えると分かりやすいでしょう。

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ここで重要なのは、「どのようにして就職先として再認識をしてもらうか」を接点ごとにまとめることです。

「定量/定点調査を通して、コンタクトポイントとしてどの因子が重要なのか、選択に対し意思変容に影響していたかなどを毎年アップデートすることが大切です」(用丸氏)

最後に西井氏は「採用は型を自社で作ることが重要。伝えるのではなく、伝わる状態を作るためにもフレーム作りから始めてみてください」と話をまとめました。

続くセッションでは、「資生堂のジョブ型採用と『優秀』な人材」という内容をテーマに資生堂で新卒採用を担当する岡大樹氏とワンキャリアの北野氏、若山隼佑氏を交え、新卒採用の最新事例を解説、考察するディスカッションが行われました。

■大切なのは一緒に採用候補者心理を理解すること。自分ごとならメッセージは受け入れられる

最後のセッションは、視聴者から寄せられたQ&Aに登壇者が回答しました。特に盛り上がったテーマはSNS。採用広報としてSNSを活用する企業が増える中で、今後のSNSの立ち位置に関して「今年に入ってから口コミ以上の影響力が出てきた」と西井氏は説明します。

「これまで就活は、先輩の口コミが大きく影響していましたが、今年に入って、InstagramとTwitterの影響力が上がっているという数字が出ています。SNSを使う企業数の増加と活用頻度の増加が影響していると考えられ、中でも新卒採用専門のアカウントを開設する企業が増えています」(西井氏)

「解像度が高くキレのある採用メッセージをどのようにして上層部に納得してもらうか?」と当日視聴者から寄せられた悩みには、現場で作ったメッセージを提案するのではなく、上層部と一緒に探すところからスタートしては、と用丸氏は勧めます。

「答えは僕らがゼロから考えるのではなく、既に企業の中にあるもの。だから、発明するのではなく発見していく、というプロセスを取ることになると思います。そのため、上層部に提案という形は取らず、一緒に探す方法を取るのはいかがでしょう。例えば、ワークショップ形式でZ世代の心理を役員も交えて勉強し、自社ならではの哲学や思想を言語化していく会議体や組織体を作ることが大事だと思います」(用丸氏)

世代を越えた価値観の理解に悩む視聴者も多く、「Z世代の価値観を採用担当者が理解していたとしても、役員や取締役、現場社員などが理解できないケース」を心配する声が上がりました。

用丸氏は「採用戦略は企業の未来の競争力を作る戦略」と説いた上で「まずは経営者に未来に対する不安を聞くところから始めては?」と提案します。その中でZ世代の価値観を共有し、採用の進め方を提案することで、経営者や役員に近しい内容として理解しやすくなるからです。

「経営層にとっても、若者やZ世代を知るというのは未来の顧客を考える上で必要な情報であるはず。近い未来を知る方法として、社内勉強会を採用担当者が開くのも有効だ」と西井氏。さらに、学生と企業、双方が理解し、歩み寄ることが大切だと改めて強調しました。

「Z世代の学生と企業が、本音の部分でつながることが重要です。私たちもどんどん採用というあり方をオープンにできるよう努めますので、これからも採用担当者の皆さんのお手伝いができたらと思います」(西井氏)


電通×ワンキャリアによる最新事例解説「OPEN HR LAB」は今後も開催していく予定です。最新のイベント情報はPeatixで配信しております。気になった方はぜひフォローをお願いします!

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