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伝説の夜再び

アラバキロックフェス参戦1日目、磐越ステージのトリを飾ったのは ARABAKI BIG BEAT CARNIVALというセッションバンドだった。、The Birthdayのメンバーやウエノコウジさん、奥田民生さん、池畑潤二さん、浅井健一さんなど、総勢18名の豪華メンバーだ。
このバンドは、去年亡くなってしまったチバユウスケさんが生前親交のあったアーティストが集まり、チバさんが在籍したバンドの曲や好きだったバンドの曲をメンバーを入れ替えながら演奏していくという趣向のものだった。

夕暮れが近づくと、The BirthdayのTシャツを来たお客さんが増えてきた。中にはミッシェルガンエレファントのTシャツを着ているお客さんもいる。
どうしても前でバンドを見たかった私は、泣く泣くGLIM SPANKYを諦め、妻とともに早々に磐越ステージへと向かった。
幸い、まだそれほど人は集まっておらず、前の方へ行くことができた。
私が陣取ったのは下手側。クハラさんやウエノさんがよく見える位置だ。
ステージを見ると、既にラディックのドラムセットや、ボディがえぐれたフェンダーのプレベが置かれている。そしてセンターには、チバさんが生前使っていたフェンダーのギターアンプが置かれている!一体この楽器で、どれだけの曲を、どれだけの歴史を紡いできたのだろう…。既に胸が熱くなった。
様々な出演者が入れ代わり立ち代わり簡単なリハを行う。18名もいるから、PAさんも大忙しだろう。
妻とお茶を飲みながら、ミュージックステーションで初めてミッシェルガンエレファントを見た話などをしていると、突然周りのお客さんからワッと歓声が上った。

スタッフと一緒に入ってきた黒いジャケットを着た長身の男性、テレビで見るよりずっとスリムなその人はおもむろにボディがえぐれたプレベを構えてこっちを向いた。ウエノコウジさんだ。

言葉で言うなら、「ベキベキ」という音だろうか。
荒々しいピッキングから弾き出されるその音は、今まで聞いたどんなベースの音よりも濃厚だった。
ボディがえぐれているのは、そのピッキングの爪痕だ。一気に会場の空気が変わるのを感じた。
程なくしてドラムの池畑さんがサウンドチェックを初め、続いてクハラさんもやってきた。
パワーでガシガシ叩くというよりも、「刻む」ようなドラムだ。ミッシェルの女房役と言われていたのがよく分かる。
開演が近づき、他のアーティストと一緒に音を出し始めた。そして、おもむろに池畑さんとクハラさんがスネアを叩き始めた。
それに続いてウエノさんもベースで応える。阿吽の呼吸で弾き始めたのは、The ClashのI fought the lawだった。私が高校時代、友達と一緒によく歌った曲だ。既に感無量である。

程なくしてメンバーが捌けて、MCの方のコールとともにステージが始まった。
様々なアーティストが演奏する中、私はずっとウエノさんの演奏を眺めていた。すると、意外なことに気づいた。
ウエノさんは、派手なプレイスタイルとは裏腹に演奏に入り込むというよりは、バンドに寄り添ったプレイをするのだ。
他の出演者の方を見ながらリズムを淡々と刻んでいく。年輪のように刻み込まれた貫禄がそこにあった。
中でも印象的だったのは、GLIM SPANKYの2人とのやり取りだ。ソロが明けるタイミングが分からなくなったのかギターの方が一瞬不安そうな表情をした。すかさずウエノさんが演奏の合間に手でサインを送り、入るタイミングを教えていた。何気ないやり取りではあるが、ベーシストとしてバンド全体に気を配るウエノさんの人柄に改めて感動した。

最後の曲は、ミッシェルガンエレファントが幕張で最後に演奏した「世界の終わり」
奥田民生さんのボーカルだった。伸びやかに歌い上げた声はきっとチバさんに届いたことだろう。いや、もしかしたらステージで一緒に歌っていたかもしれない。
しかし、何と言っても感動したのはクハラさんとウエノさんが同じステージでミッシェルの曲を演奏している姿を見れたことである。あの頃と全く同じ並びで、同じ音を出す。そんな姿を見られるとは思わなかった。
クハラさんにしてもウエノさんにしても、アベさんやチバさんほどミッシェルでスポットライトを浴びることはなかったのではないだろうか。しかし、多くの出演者と一緒に出すその音は、紛れもなくミッシェルガンエレファントの骨太なサウンドだった。

演奏が終わり、バスへと向かう際、あちらこちらでお客さんのすすり泣きが聞こえた。感動と悲しみと、きっと色んな思いの詰まった涙なのだろう。

心地よい静けさを纏った余韻が春のエコキャンプみちのくに広がっていた。


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