高校3年の強歩大会で起きた珍事件
高校1年の夏に長距離走を走るのが好きになった私は、部活を引退したあともランニングを続けていた。
というのも、10月に強歩大会(「強く歩く」という願いを込めてこういう名前になっていた)という学校行事があったからだ。
歩くことも走ることも認められており、全長28キロメートルをどうにかしてゴールするというものだった。
部活を引退した友人たちの多くは、徒歩で道を行くことを選ぶ人が多く、背中にはリュックサックを背負っている。
私は少しでも体を軽くするために、電話するための20円のみをポケットに入れてスタート地点に立った。
号砲とともに学校から走り出していった。最初は下り坂なので足に自信のあるランナーたちが大きな集団となって坂を降りていく。
しばらくすると長い国道に出た。先頭の4人からは離されてしまったが、どうにか食らいついていっている。
先頭の4人はいずれも陸上部。そのうちの1人は私と同じ3年生の友人だ。彼も、引退してからも私と同じようにトレーニングを続けていたのだろう。陸上部特有のきれいなフォームでペースを刻んでいる。
陸上部の4人に平地で勝負を仕掛けることは難しそうだ。私は、コースの後半にある得意の上り坂で勝負を仕掛けることにした。
チェックポイントを超え、農道を抜けていくと、彼らはさらにペースを上げた。
勝負をかけるにはだいぶ距離が離れてしまった。上り坂に入ると多少は追いつくことができたが、肩を並べるまではいかない。息はどんどん上がってくる。
「5位入賞できればいいか…」
気持ちまでも弱ってきた。どうにか坂を上りきると、林道に入った。
山道を走るのも得意だ。幼い頃から家の周りで虫取り網片手に走り回っていた。
そんなことを思い出しながら走っていると、少しずつ元気が出てきた。下り坂なのも手伝ってどんどんペースが上がっていく。しかしながら彼らの姿は見えてこない。
林道から出るとチェックポイントについた。
係員の友人に「すげえなたばた、1位だよ!」と声をかけられた。
おかしい。まだ私は、彼らに追いつけてすらいないはずだ。とりあえず、「ありがとう」とだけ返事をして、先へと進んだ。それから先も係の生徒に「1位だ!」「トップいけるぞ!」と声をかけられる。 こうなると考えられることは1つしかない。
次のチェックポイントに到着した際、笑顔で迎えてくださった先生に、
「あの、私の前にいたはずの4名が、道を間違えてるっぽいんですけど…」
先生の顔からサッと笑顔が消え、他の生徒もざわつき始めた。
大急ぎで他の先生と連絡を取っていただき、私はコースに戻った。
その後も誰に追いつかれることもないままレースは進んでいき、棚からぼた餅ではあったものの、ついに私は1位でゴールする事が出来た。
高校に入ってからは勉強も今ひとつ、部活でも最後までレギュラーを取れなかった私にとって、高校時代の1番の思い出となった。
後日、トップを走っていた友人に聞いてみると、坂を登りきったあと、林道に入らずにそのまま道を進んでいき、隣町まで行って途方に暮れていたところを先生の車に拾ってもらったのだそうだ。
惜しいことをしたが、これを糧に頑張りたいと前向きな話をしていた。
それから12年の月日が経っても、彼とはたまに一緒に浜辺をランニングしたり、家族ぐるみで仲が良かったりと、付き合いが続いている。
これもある種「戦友」とでも言うのだろうか。