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源泉かけ流し宣言の村に行ってみた〈奈良・十津川の記録〉
源泉かけ流しの温泉って、いいですよね。なんか気持ち良さそうだし、本物っぽいし…
でもそもそも、源泉かけ流しの具体的な「良さ」って何でしょうか? そのヒントが、別府市HPの中にありました。
〈源泉〉温泉施設の所在地に源泉が存在しているもの。
〈引湯〉温泉施設の所在地とは別の場所に源泉があり、給湯管を通して温泉施設へ温泉を引いているもの。
〈かけ流し〉浴槽等に供給する湯量をコントロールせず源泉からの温泉をそのまま流しているもの。
〈循環〉浴槽等に供給する湯量をコントロールし、さらに排出された温泉の不純物を取除き、ろ過したものを再利用しているもの。
この定義によれば、温泉施設(大浴場)の近くからお湯が湧き、それを再利用(消毒・濾過循環)せずにどばどば流しているのが「源泉かけ流し」。つまりその良さは、お湯の新鮮さ・豊かさという贅沢なのです。
この贅沢を追い求めて、循環だけでなく加水・加温もしていない温泉のみを「源泉かけ流し」と認める流派(?)も存在するようです。水で薄めたり、ボイラーで沸かしたりするのは邪道、という考えも理解はできます。ただ、温度調節をしないと快適に入浴できないなら、加水・加温は必要なことだと…
いや、ちょっと待ってください。
十津川村は全国初「源泉かけ流し宣言」をした村です。(中略)
この村自慢の「源泉かけ流し温泉」とは温泉のお湯を循環、一切再利用させず、沸かさず、塩素消毒をせず、薄めず「ほんまもんの温泉」だけが浴槽内に常に滾々(こんこん)と流し入れられている(かけ流されている)状態の新鮮な温泉です。
十津川温泉郷の豊富な湯量だからこそできる極めて贅沢な「極上の温泉」なのです。
(十津川村観光協会HPより抜粋)
そんな温泉の理想郷があるだなんて…! これは行かないわけにはいきません。
その場所とは奈良県十津川村。紀伊半島の中央部に位置する、日本一大きな村です。
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紀伊半島といえばなかなかの秘境。せっかくの機会なので、十津川村だけでなくその周辺も一緒に巡ることにしました。
先に言っておくと、温泉オタクなら間違いなく行って損はないゴールデンルートです。
ちなみに、大多数の温泉が消毒や循環・再利用を行っているのは、利用客に安心して入浴してもらうためです(レジオネラ症防止など)。継続的な衛生管理に感謝して入浴しましょう。
〈湯ノ口温泉〉トロッコで行く温泉
湯ノ口温泉に行く前に、紀伊半島を訪れたら立ち寄りたい場所があったので、ちょっと足を運んでみました。それが和歌山県北山村です。
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北山村は日本で唯一の「飛び地の村」。和歌山県にありながら、周囲を奈良県と三重県に囲まれています。地図オタクとしては堪らないスポットです。
今回は村内にある「道の駅 おくとろ」を訪問してみました。「じゃばら」という柑橘系の果物が北山村の特産品で、強い酸味が特徴的。じゃばらドリンクは酸っぱすぎず、爽やかな飲み心地でした。
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北山村に来たら必ず飲んでみよう
さて、「道の駅 おくとろ」から車で約20分。北山川のほとりにあるのが、「入鹿温泉 ホテル瀞流荘」です。
しかし今回入るのはこの温泉ではありません。ホテル瀞流荘で購入するのは、トロッコのチケット。これから向かう湯ノ口温泉は、トロッコで行くことができるのです。
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この辺りはもともと鉱山の町だったそう
トロッコはガタガタと音を立てながら、狭い坑道をゆっくりと走っていきます。そしてトンネルを抜けると、ようやく湯ノ口温泉に到着。片道10分ほどの旅ですが、ちょっとわくわく感が高まります。
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きちんとメンテナンスされた立派な建物
湯ノ口温泉の魅力は、もちろんトロッコだけではありません。その温泉の特徴は、ほんのりと漂う鉄の香り。湯の華も茶色く、細かい粒子がお湯に混ざっています。鉄っぽい温泉にはなかなか出会えないので、けっこう貴重です。
お湯自体は無色透明で、とてもしっとりとした肌触りです。なんといってもここは「源泉かけ流し」なので、新鮮なお湯に浸かり続けることができます。
知る人ぞ知る、熊野の秘湯です。
湯ノ口温泉についてはこちら↓
※2025年1月現在、トロッコ列車は運休しています。直接車で訪問することは可能です。
〈湯の峰温泉〉世界遺産の温泉
続いては、湯ノ口温泉から西側へ。和歌山県・熊野本宮大社方面へと向かいます。実はその近くに、「世界遺産の温泉」が待っているのです。
その温泉があるのは「湯の峰温泉」エリア。旅情溢れる鄙びた温泉街です。
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宿から漏れる優しい光が夜を照らす
湯の峰温泉の一角には、「つぼ湯」と書かれた小さな小屋があります。このつぼ湯こそが世界遺産。熊野本宮大社などへの参拝(熊野詣)に先立ち、身を清めるための場所(湯垢離場)として使われていたため、つぼ湯は世界遺産「紀伊山地の霊場と参詣道」の構成資産となりました。
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浸かれる世界遺産はとても珍しい
つぼ湯は30分交替制。すぐ近くの「湯の峰温泉 公衆浴場」でチケットを購入し、番号札を受け取ります。つぼ湯入口には、入浴中の方の番号札が掛けられているので、その番号を見ながら自分の順番を待ちましょう。
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奥の「つぼ湯」と書かれた東屋が待合所
そしていよいよその時がやって来ました。小屋の中に入ると、小さな壺型の湯船が一つ。そこには不思議な色のお湯が湛えられています。時間帯によって、灰白色や深い藍色など、色が変わるのです。
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私が入ったときは灰白色でした
しかもこのつぼ湯、足元からお湯が湧いています。つまり、空気に触れていない最も新鮮な状態の温泉に、体を沈めることができるのです。肌触りはつるつるなだけでなく少し粘り気もあって、温泉成分の濃さがわかります。さらに硫黄の香りがたっぷりなので、いわゆる温泉の雰囲気も十分に味わえます。
ちなみにつぼ湯入浴後は「湯の峰温泉 公衆浴場」にも入れます。一般湯・くすり湯のいずれかを選べますが、くすり湯の泉質はつぼ湯と同じで、浴槽は広めです。
つぼ湯についてはこちら↓
〈十津川村〉源泉かけ流し宣言の村へ
①上湯温泉
湯の峰温泉から北上し、車でおよそ40分。ついに今回の本題・十津川村に入り、上湯温泉に到着します。十津川村の中心は国道168号線が縦断していますが、上湯温泉はそこから少し外れた場所にあります。
今回私が足を運んだのは「上湯温泉 源泉大露天風呂」。露天風呂の入口はこちらです。
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秘湯の匂いがぷんぷんする
この細い階段を下りていくと、受付に辿り着きます。ここで入浴料(500円)を支払い、いざ露天風呂へ。露天風呂の入口には、源泉の注がれた石臼のようなものが置いてあります。
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熱湯なので触るときは気をつけよう
そしてついに大露天風呂へ。お湯に浸かると、肌触りはとってもつるつるすべすべです。しかも湯船の至るところに、見たことがないほど巨大な湯の華の塊が! 掌で掬うと、とろとろの感覚とともに溶けていきます。こんな体験は他ではできません。
目の前には渓流と森。湯船は「大露天風呂」の名に恥じない広さ。お湯はけっこう熱めでしたが、小雨が降り込むことでちょうどいい温度になっていました。
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温泉と清流に癒される極上の時間
源泉かけ流しはもちろんのこと、露天風呂の良さを存分に感じられる場所でした。この体験がワンコインでできるのは、正直破格です。
上湯温泉 源泉大露天風呂についてはこちら↓
②湯泉地温泉
続いては湯泉地温泉へ。ここが村の中心部で、村役場や道の駅があったりします。せっかくなので「道の駅 十津川郷」には立ち寄ってみましょう。
道の駅では温かい蕎麦を頂きました。山のグルメといえばやっぱり蕎麦ですよね。もちろん美味しいので、ぜひ食べてみてください。
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三つ葉ととろろ昆布がいい具合に利いている
腹ごしらえも済んだところで、すぐ近くにある「湯泉地温泉公衆浴場 泉湯」へ。泉湯はけっこうコンパクトな施設で、とても清潔感があります。
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入浴料600円
泉湯のお湯ももちろん源泉かけ流しで、つるとろな肌触りが楽しめます。お湯が少し青みがかっているのが綺麗でした。あとは硫黄の香りがするのも嬉しいですね。
泉湯に限らず、十津川村にある温泉の源泉は温度が高いです(60℃以上)。加水せず、ある程度冷ましてからお湯を注ぐ方式のため、湯船の温泉も温度が高いのですが、それもまた源泉かけ流しならではの体験です。
湯泉地温泉公衆浴場についてはこちら↓
③十津川温泉
最後に訪れたのは十津川温泉。今回は「十津川温泉 庵の湯」に入りました。看板にも堂々と「源泉かけ流し」の文字が書かれています。
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入浴料600円
大浴場までは川沿いに設けられた回廊を進んでいきます。川の色は翡翠色で、曇り空も相俟ってどこかノスタルジックな雰囲気が充満していました。
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いよいよ秘境に踏み込んだなあという空気感
庵の湯は内風呂のみですが、大きな窓から雄大な川を存分に眺めることができます。お湯は肌触りがつるつるで、その色は目の前の川のような翡翠色です。
ほんのりと漂う硫黄の香りと旅愁に包まれたら、いつまでもぼんやりとお湯に浸かっていたい、という欲求に満たされていきます。
十津川温泉 庵の湯についてはこちら↓
まとめ・アクセスマップ
どの温泉を訪れても、新鮮で浸かり心地の良いお湯がかけ流されている。驚くべきことに、これが十津川村では保証されているので、どの宿・公衆浴場に行っても素晴らしい体験ができるはずです。ただ、個人的なイチオシは上湯温泉の大露天風呂ですね。あの湯の華の塊には本当に感動しました。
しかも全部安いんですよ。「いい温泉」って手があまりかからないので、かえってリーズナブルになるのはけっこうあるあるです。
そして十津川村は、世界遺産に登録された熊野古道(小辺路、大峯奥駈道)の通過点でもあります。いずれの道も、熊野本宮大社と結ばれている道。熊野詣に来た際には、ぜひ源泉かけ流し宣言の村・十津川村で全身を癒してみては?
熊野古道についてはこちら↓
本記事で取り上げた場所のマップはこちら↓
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②入鹿温泉・湯ノ口温泉
③湯の峰温泉・熊野本宮大社
④上湯温泉
⑤道の駅十津川郷・湯泉地温泉
⑥十津川温泉
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①道の駅おくとろ
②入鹿温泉・湯ノ口温泉
③湯の峰温泉・熊野本宮大社
④上湯温泉
⑤道の駅十津川郷・湯泉地温泉
⑥十津川温泉
※写真は全て筆者撮影