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心の光(短編小説7)

病院のベッドに座りながら、孝は窓から外を眺めていた。

年は19。同級生たちはこの春、進学やら就職などの
人生の転換期で、身も心も浮き足立っているのが
LINEに届くいろんなメッセージから感じる。

「●●中の、翔太です!この春から◆◆大学へ進学しました!
引き続きどうぞよろしくお願いします!」

「■■中の、岳です。私は〇〇会社へ就職しました。
山梨へ引っ越しもして、新生活が始まりました。
大変なこともあるけど頑張ります!
近くにいる人がいたら遊んでくれる人、募集中です!」

ー引き続きどうぞよろしくお願いしますー
ー私はー

携帯に目を落としながら、孝はなんとも言えない
居心地悪さを感じた。

中学時代、一緒に話していた時、
そんな敬語なんか使わなかったし、主語は“俺“、だったじゃん

急にかしこまった同級生たちのLINEを見て
なんだか置いてけぼりを喰らったかのような気持ちになるのに耐え切れず
孝は「みんな、大人ぶっちゃって」と携帯を机に置く。

季節は春。桜が綺麗なのに、綺麗であればあるほど
桜を見るのが辛くなる。

孝は、去年、身体に異変を感じて、検査をしたところ
何やら脳に原因不明の影があり、それからというもの入院をして
日々様子を見ながら歩行障害や発語障害などと向き合っている。

原因がわからないので、治療のしようもなく
ただただいろんな薬をあてもなく試しながら
副作用に苦しみながら、どこに希望があるのかもわからず
うまく動かない身体で生きるのは想像を絶するしんどさだった。

ーいいなあ。俺も頑張りてぇー

ー自分の自己紹介、更新してぇー

とてもじゃないけど
「脳のよくわからない病気で去年からずっと入院してしてます。
治療頑張ります!」
なんてメッセージ、
元中のクラスのライングループでする気にはなれなかった。

孝の目からは涙が流れた。

こんな自分も、桜も、世界も、もうどう愛していいのか
わからなかった。

ーもういっそのこと、消えてしまいたいー

そう思った時、そう思ったことに罪悪感を感じながら
孝は布団にくるまる。

するとしばらくして
心の奥の方から、声が聞こえた。

「おーい」

、、、

「おーい、俺。聞こえる?
ひどい気分なとこ、悪いな。
俺、来世のお前。

俺もな、全部が
わかるわけじゃないんだけどな、
沢山転生して、沢山の人生を見てきたんだ。
それで思うんだよな。

お前が今,体験してることと、
お前が欲しいと思ってる誰かの体験、
本当はどれも、同じ体験なんだ。」

え?
来世の俺?

え?転生って何?

「だから、お前も、みんなと一緒に進んでっから
心配すんな」

布団をガバッとめくって
もたつく身体で起き上がると、窓の外は暗かった。

どうやら寝ていたようだ。

ー本当はどれも、同じ体験ー

ーみんなと一緒に進んでるー

ぼーっとしつつも
先ほど聞こえた言葉を脳内で繰り返す。

「いや、どこがだよ、、、」

孝はポツリと本音を吐き出し
再び眠りにつく。

ひどい気分なのは変わらなかったが

それでも、なんとなく心に光が灯った

そんな気がしていた。

おしまい


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