書評「新版 負けない英文契約書」

本書に関する情報は↓から
https://store.skattsei.co.jp/book/products/view/2220

 表題の書籍について、3月末に購入、4月初めに一通り目を通したので、書評(感想?)を書いてみたいと思います。
 書評を書くことに慣れていないので、読みにくい部分があるかもしれませんが、ご容赦いただければと思います。

本書の感想

 本書を開くと、いきなり英語のサンプル契約(タイトル、目次、契約書本体合わせて29頁)に出迎えられ、面を食らった。
 もっとも、内容については、第Ⅰ部・第Ⅱ部において丁寧に解説されているので、安心してほしい。
 なお、英文契約書審査初心者であっても、日本語で書かれている解説部分を読むだけでも非常に勉強になると思われる(偉そうに言っているものの、私もまだ初心者の域から脱せてはいない。)。
 例えば、「法務の観点から重点的にレビューすべき事項」に関する表(47頁図表2)やMiscellaneousの重要度に関する表(図表10)など重点的に確認すべき点を示してくれているため、レビューや契約書の修正にあたっての良い道標となってくれるのではないかと思われる。
 ただし、本書でも示されている通り、条文のタイトルだけで内容の判別がつくわけではないし、思ってもみないところに重要な条項が記載されていることもあるため、「見落とさないように特徴的な単語を探して特定しておく」(103頁)などの対策を行い、契約書全体を注意深く読んだうえで修正等を行う必要がある点には注意されたい。

 また、同意を条件とすることにより文章の意味をひっくり返すことができること(36頁)など、本書で再確認できた事項もあれば、Indemnification条項に関し、「Indemnifyやhold harmlessのみでdefendなし」か「Indemnifyやhold harmless」+「defendあり」の場合で補償範囲が異なるとする点(184頁の図)など、本書で初めて知ることのできた情報(※)もあり(裏取りはできていないので、理論的にそのように区別されているのか、あくまでもそのような傾向にある、という程度なのかはわからないが)、非常に勉強になる点も多かった(新版で追加されたForce Majeure条項の解説なども非常に勉強になった。)。

※ ただ、Indemnification条項については、補償範囲や手続等について詳細に記載されている場合が多いため、単に"defend"を削除するよりも何が書かれており、何が自社に不利なのかを判断しつつ対応するケースが多いと思われる。

気になった点

・日本語訳が付されているが、意訳になっている部分が散見された。契約書の内容を正確に理解する、という観点からはもう少し丁寧な訳が良いのではないかと思った(そもそも英文のままで理解できないレベルの人間は本書のターゲットではないのかもしれないが。)。

・115頁では、表明保証条項に"to its knowledge"を追加する修正を行い「これにより『自身の知っている限りにおいて』当該事実が正しいと保証すればよいことになり・・・」と解説されているが、134頁以下(同じく表明保証条項についての解説)においては、「何をもって『知っている』とするかによって様々なバリエーションがあり、『actual knowledge』(実際に知っていたことに限定)と『constructive knowledge』(知ることができたことに限定)の2つに大別されます。」と記載がある。
 134頁以下の説明に基づくと、単に"to its knowledge"と記載した場合には、「知ることができた場合」が含まれると解釈される可能性があるということだと思われ、そうであれば、114頁の修正案も"to its actual knowledge"といった記載のほうが正確なのではないかと思った。

・守秘義務の存続期間の定めがない条項例に対して、「契約期間中~契約終了後3年間」存続させる趣旨で、"for a period of three(3) Years from the date of termination of this Agreement"を追加する修正案を提示している(82~83頁)が、この記載だと相手方に「契約終了後3年間」のみ守秘義務がある(契約期間中は守秘義務なし)と主張される可能性が残ってしまうのでないかと思った(ただ単に私の理解が足りないだけかもしれないが。)。

・守秘情報(秘密情報)の例外規定について、政府機関等へ開示された情報が例外に含まれている場合、削除すべき、という記載がある(88頁)が、ただ単に削除しても受け入れられないのではないかと思われる。
 この点については、第三者開示禁止を定める条項において「政府機関への開示が第三者開示禁止規定に違反しない」などと追記する等の代替案を提示する必要があると思われるが、本書にはその点についての配慮はない(自力でそこまでドラフティングできない人間は本書のターゲットではないのかもしれないが。)。
 なお、第三者開示禁止の例外として定める場合の条項例については、森本=石川=濱野「秘密保持契約の実務 第2版」(中央経済社)38頁以下などを参照。

終わりに

 もっとも、上記のような点を差し引いてもどのように修正するか、どのように妥協案をドラフトするかなどを考えるうえで非常に良い本であることに変わりない。
 興味があればできるだけ早く購入することをお勧めする(本書が出版される前は、旧版が良書だという情報は回っていたものの、絶版になっていたため、入手できなかった方も多かったようなので・・・。)。


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