消えた華
華男と別れた木曜の夜。
アイツのおかげで、アパートに帰れたが、
なんか胸の内がしっくりこない。
食欲がわかないけど、お腹は鳴るので、カップの味噌ラーメンにお湯を入れる。
3分経ち、蓋を開けてスープを啜る。
ふと、アイツの顔を思い出す。あの豆腐とお揚げの味噌汁美味しかったなぁー。そう言えば、誰かに料理作ってもらうの、久しぶりだった。
って私、何で、アイツのこと気になっているんだろう。そもそも、勝手に人の部屋で倒れていたのは、アイツなんだから。
頭の中でブツクサ思いながら、ベッドに入る。今晩は、昨日焚かなかった白檀(サンダルウッド)のコーン型のお香を焚く。
強い煙で、あっという間に燃え尽きるけど、どっしりと落ち着いた香りは、気分が落ち着く、、、。
少し眠気がきたので、目を瞑る。急に思い出したのは、あの艶やかな華ばなの刺青。薔薇、白百合、向日葵、桜、キキョウ、蔓薔薇。あんだけたくさん彫ってあるんだから、背中には、どんな華が咲いていたのだろう、、、、
やばい、、、また、あの男を思い出してしまった。もう、早く寝ないと、、、。
そう思いつつ、でも、あの男が言っていた『心がホッとする香り』ってどんな香りだろう、、、それにあの薔薇の胸の血の匂い、、、
忘れたいばっかりなのに、あの男のことが頭から離れない。
あれこれと気を紛らすために、他のことを考えようとしたが、結局、思い出すのは、一昨日からの出来事。たくさんのお惣菜。それに男のファッション。それから、男の腕に彫ってあった桜の花びらを見た時に感じた、変な気持ち。
もう!もう!また、いろんなモヤモヤが私の頭の中で渦巻き、もしかしたら眠れなくなるかも、と思ったが、仕事の疲れと睡眠不足のおかげで、いつの間にか、眠ってしまった。
金曜日。たくさん眠れなかったわけではないが、何となくまだ、アイツのせいでモヤモヤ感は残っていた。
こう言う場合、よくある恋愛系のドラマや映画では、最悪の出会いから出会ったイケメンに恋して、いろんな試練を乗り越え愛し合って、それで最後は結婚してハッピーエンド、、、っていう展開になるのだろうが、、、。
残念ながら、私はそうはいかない。そもそも、そんな恋愛ストーリーは好きではない。
それに、私がアイツに対してもつのは、水曜日からはっきりしないモヤモヤ感と疲れがしっかり取れなかったことに対する苛立ち。
あの、クソッタレ華男。
頭の中で、散々暴言を吐きながら、仕事に向かった。
仕事中は受付や電話、会計などであの男のことは忘れることができたが、、、。
昼休み、飲み物をまた、忘れてしまい、自販機で水を買う。
自販機のボトル紅茶を見て、また、あの男のことを思い出す。
もー‼︎一体、何なんだ‼︎
妙にイライラが止まらなくなり、そのまま、午後の仕事に入る。
金曜の夜。こんな日はお酒を飲むに限る。キンキンに冷えたハイボールの500
mlのフタを勢いよくプシュッ
そのまま一気に飲む。ぷはー
明日は、午前中までの開院日で仕事があるので、今日の夕飯は、冷凍の揚げ春巻きにする。
レンジから、ホカホカの春巻きを齧りながら、無心に酒を飲む。
アイツ、今ごろ部屋で飲んでいるのかな?
あ、、、もう‼︎また、アイツのこと思い出しているじゃん。
なるべく忘れるようにしていたが、どうしても、アイツのことが頭から離れない。
気持ち悪い。
晩ご飯を軽く済ませて後、すぐに寝ることにした。
今日は妙に、お香も何もしたくない。でも、イライラする。
一体このイライラは何なのか?
あの男の華ばなの刺青も、『心がホッとする香り』も、全く興味がないようにしよう。
そう自己暗示をかけたが、どうしても、その晩は、寝付けなかった。