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雑記85 サッカー: ロェール氏のゲーゲンプレスの説明方法、各人の言葉の認識の一致と不一致について

雑記85 サッカー: ロェール氏のゲーゲンプレスの説明方法、各人の言葉の認識の一致と不一致について



文字数 3800

ロェール氏の説明:
「ゲーゲンプレス→ ボールを失ったら5秒以内にボールを奪い返す戦術」

視聴していた自分:
「わかりやすい!」




サッカー界では、ゲーゲンプレスという言葉が近年よく使われている。
人の口にもよくのぼる。
これはドイツ語で、ドイツ発祥の戦術がサッカー界を席巻して広まっている。



ゲーゲン → gegen → 英語でいうagainst のようである。
しかし、against pressと変換してみても、あまりそれでピンとくるとも自分は感じない。

ボールを失って、本来ならいわゆる「攻守の負の切り替え(トランジション)」が発生して、こちら側にぐわっと圧力がかかってくるはずのタイミングで、こちら側からあえて流れに逆らう形(againstの向き、for = 順流に対する逆流)で press 圧力をかける、という具合のイメージで、against press 的な言葉が当てられているのだろうか。結局、推量するだけで答えはわからない。

自分の推論を日本語に変換すると、
例えば「逆流的プレス」かな?などと思ったりしている。あくまで「素人考え」である。





最近、2022年サッカーワールドカップの直前番組をいくつか録画していたものを視聴した。

NHKスペシャル「サムライブルー ドイツ攻略 ベスト8への道」  という番組である。



その番組の中で、2022年当時のドイツ代表のアシスタントコーチを務める、ダニー・ロェール氏へのインタビューが放送された。
32歳の、ちょっとヒゲの生えた男性である。



ドイツ代表をサポートしての意気込みをまず語り、その後、ドイツ代表の戦術であるゲーゲンプレスについて語った。


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引用  上記の番組より(以後、断りがない限り、全て、上記の番組から引用する。)



ナレーション:
「(ロェール氏は) 戦術の分析力や効果的なトレーニングを考える能力が高く評価され、32歳と言う若さで抜擢されたと言う。
交渉の末、特別に15分のみ、ロェールへの取材が許された。」



ナレーション:
「まず口にしたのは、ドイツが今大会にかける強い思いからだった。」



ロェール氏:
「私たちのミッションは再び世界の頂点に立つこと。ワールドカップに最高の状態で望むためにチーム、選手として成長を続けていく。」


ナレーション:
「ドイツ代表の戦い方を象徴する、ある戦術について語った。」


ロェール氏
「私たちの戦い方は明確。ボールを奪われたら最初の5秒で奪い返す。ゲーゲンプレスだ。」


ナレーション:
「それは世界のサッカー会を席巻する戦術の1つだ。…(中略)… 相手にボールがわたった瞬間、複数で激しいプレッシャーをかけている。」

ナレーション:
「ボールを持った相手に複数で襲いかかり5秒以内に奪い返す戦術。」

ナレーション:
「5秒以内にボールを奪い返す戦術。それがゲーゲンプレス。」





引用終わり

・・・・・・・・・・・・・・・・・・


そして、番組は、少し前に行われたドイツ対ハンガリーの試合のある場面をピックアップして紹介している。

ドイツ代表はハンガリー代表にボールを奪われるが、紹介される2つの場面ではどちらもドイツ代表が機能的に相手にプレッシャーをかけて実際に5秒以内にボールを奪い返している。

それぞれ、
2.5秒
4.6秒
でボールを奪い返している。
(ちなみに、このハンガリー戦はドイツ代表にとって一年ぶりくらいの黒星となった。ハンガリー勝利 0-1)





結局、ドイツ代表は大会で日本代表に敗北してしまった。そしてグループステージで敗退した。
しかし自分は、このドイツ代表のアシスタントコーチの説明を今になって聞いて感心している。

というのも、自分はこれまで、このゲーゲンプレスという言葉の説明について、これほど「なるほど!」と感じさせる説明に出会ったことがないように感じているからである。



おそらくこの大会のドイツ代表のメンバー20数人に対して、「ゲーゲンプレスとは一体何か?」
と言う簡単な質問を行ったら、ほぼ全員が「ボールを奪われたら5秒以内に奪い返すことだ」と言う具合に、かなり統一感のある回答をしてくるのではないかと自分は思っている。

この「ボールを奪われたら5秒以内に奪い返す」と言う説明は、特別にサッカーに関心を持っていない人にも、このフレーズを伝えればすぐにピンとくるものだと自分は思っている。

実際に、ゲーゲンプレスという言葉を1度も聞いたことがない、球技スポーツにそこまで関心のない友人に対して、試しにこの言い方でこの言葉の意味を説明してみたところ、「なるほど、すごくよくわかった。」と実感のこもった様子で反応してきた。
その後の様子からも、記憶によく定着したようであった。




自分は色々な サッカー解説を読んだり、単語を検索してみると、その説明にバラツキを感じる気がしている。

例えば、こんな具合の説明が可能に思う。自分の考えた拙い例だが、
ゲーゲンプレスの意味の説明として、以下のような説明は一応それぞれ、それなりに成り立つと思う。


①ボールを奪われたらすぐ奪い返すことを狙う戦術

②ボール喪失時、攻守切り替えのタイミングで逆に相手からボールを即座に奪い返すことで高い位置でチャンスを作れる戦術

③ボール喪失時に相手は前がかりになるスイッチが入るが、逆にそこで気合いを入れてボールを奪って、前がかりにになりかけた相手の急所をたやすく狙えるようにすることを目指す戦術



①の「すぐ」というのが、ロェール氏の説明では「5秒以内」になっている。
②や③は、サッカーやバスケ等のようなスポーツに慣れた人ならピンときやすいが、そうでない人だとなかなかピンときにくいのではないか、という気がしている。


とにかく、①〜③と比較して、ロェール氏の
この「ボールを奪われたら5秒以内に奪い返す」という説明は、自分に「なるほど!」と感じさせる度合いが強い。


別にこれはチームによっては、5秒が7秒に変わっていてもいい。
とにかく、「なるほど!それなら わかる!」と多くの人がピンときて、
一斉に「何々って、どういう意味ですか?」とクイズを出された時に、皆の回答が「そこで一致点をつくれるような説明」、

そういうものが重要なように思う。





その番組内では、日本代表の武器として「ビルドアップ」を挙げている。(もう一つの武器はハイプレスと説明していた。)

番組内の説明をこちらで咀嚼すると、番組内の意図するビルドアップというのは、ロングボールを蹴らず、ショートパス主体で最前線までつなげていくスタイルを指すようである。

雑誌フットボリスタ では、ある号でヨーロッパの国ごとに単語の定義が違う、と書いている。
オランダやポルトガルが例に出されていたが、

ある国ではビルドアップはDFライン、最後尾からFW、最前線までボールがつながれていく全ての段階を指す。
(サッカー用語で言うと、ファーストサードからラストサードまでを指す。サードは3番目というより3分の1を意味する。)

だが、またある国では、ビルドアップは、ピッチを味方ゴール近辺、中盤、相手ゴール近辺と、3分割した時の最初の3分の1の攻撃の組み立てを指すという。
(サッカー用語でいうと、ファーストサードだけを指す。)




それらの国では、その国の中の「ビルドアップ」という言葉の定義が、国のサッカー協会によって決定され、トッププロチームの監督も、小学生を趣味で指導する指導者も、ビルドアップという単語を同じ意味で扱うのが当たり前になっているらしい。
だから、違うレベルの人同士で急に会って、あれこれ前置き無しに話し合いをしても齟齬が起きないと説明していた。

(ちなみに、ある国や地域では、ビルドアップと言わず、訳して 英語のconstructionに対応するコンストゥリュサオン的な単語でそれを表したりしているらしい。→ この例はポルトガル。)




雑誌フットボリスタ では、

ビルドアップの定義は、
①最後尾から最前線までのつなぎを指すもの
②味方ゴール近辺というピッチの手前3分の1でのつなぎを指すもの

のどちらが果たして正しいか、という問題はさほど重要ではない、としている。
それよりも、一つの言葉が統一されずに、人によって複数の解釈で使われている状況ができていることに問題がある、と書いている。






岡田武史さんは、サッカーの打ち合わせをしている時に、ある選手が使う「くさびのパス」という説明に疑問を感じたらしい。
岡田武史さんは、その選手の言うパスは自分の思う「くさびのパス」ではない、と感じた。

岡田武史さんが気になったのは、「くさびのパス」の正しい定義は何か、という問題ではなく、

「みんな確かめ合っていないだけで、実は使っている言葉の意味が、それぞれでバラバラで、なおかつそれにあまり気づいている人が少ない」
ということであった。





物理学者のアインシュタインと、同じく物理学者のニールス・ボーアは書簡のやり取りをしていたらしいが、ボーアによると「言葉の認識のずれ」も原因となったのか、結局大事なところで分かり合えなかった、と感じたらしい。
果たして「言葉の認識のずれ」が本当に問題の急所だったのか自分にはわからないが、「言葉の認識のずれ」は至るところに発生する余地があり、それの意見の統一をはかることは意味があると自分は思っている。




文章としては中途半端かもしれないが、大体、書きたい材料を消化したので、今回はここで終わりにしたい。


ここまでです。


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