【Audible本の紹介37】ほんとうの定年後 「小さな仕事」が日本社会を救う(坂本 貴志)
今回紹介する本は、日本社会の近い将来において、重要になってくるであろう「定年後の働き方、生き方」を書いた本です。2022年の出版。
本書のメッセージは、今の40~50代の人たちが、60代から以降、現役時代とは違う形(=小さな仕事)で働くことで、安定した定年後の生活を迎えることができる、"という考え方をすれば、不安ばかりではないよ"、という点です。
著者の坂本貴志さんは、国(厚生労働省)の官僚経験後、民間シンクタンク(現在はリクルートワークス研究所)で働く40歳代の方です。
政府統計や民間調査などのデータに基づく分析が特徴です。
Audibleで聴くことができるので、聴く読書にお勧めです。
本書のポイントは、以下の2点です。
1つめは、関連データなどの分析による定年後の仕事の「現実」の提示
2つめが、今後、日本はどんな経済社会をめざすべきか、という提言
定年後に求められる「小さな仕事」
定年後の仕事の実態を明らかにするために本書を書いた、と著者は冒頭で述べています。たしかに、今50歳を迎えた自分も、およそ15年後に退職して、悠々自適に残りの人生を過ごすというイメージは持てず、なんらかの形で働いている気がします。この本を読んで、定年後の人生を考えるヒントが少し得られたかな、と感じました。
まず著者は、定年より少し前、50代頃から仕事に対する価値観が変化していく、と分析しています。
・若者から中堅世代まで多くの人が持っている「高い収入や栄誉」を重視するという価値観がこの頃に変化し、「他者や地域への貢献」に対する意識が高まっていく、との分析です。
これを受け、
・定年後に幸せに働き続けられる「仕事の要件」としては、
著者が「小さな仕事」と定義する、以下のようなものが考えられる。
-健康的な生活リズムに資する仕事(デスクワークより現場仕事に価値感)
-過度のストレスのない仕事
-利害関係のない人たちと緩やかにつながる仕事
・他の観点(役職、収入、貯蓄、生活にかかるお金等)から考えても、小さな仕事は必要十分なものであると考えられる。
地域社会と結びついた「小さな仕事」(現場仕事)を就労の選択肢とする。そのためには、無理のない仕事で適正な賃金が得られる市場環境の整備が何より大事である、とのことです。
【自分の感想】
この「小さな仕事」論は、標準的(=割と恵まれた労働・生活環境)の人には当てはまるけど、世の中には、より厳しい条件・制約の下で生活している人がいるから、ここまできれいごとでは済まされないだろうな、という気がしました。
なお、具体的な定年後の生活や仕事に関する情報は以下のとおり示されています。
定年後の仕事「15の事実」
事実1 年収は300万円以下が大半
事実2 生活費は月30万円弱まで低下する
事実3 稼ぐべき額は月60万円から月10万円に
事実4 減少する退職金、増加する早期退職
事実5 純貯蓄の中央値は1500万円
事実6 70歳男性就業率は45.7%、働くことは「当たり前」
事実7 高齢化する企業、60代管理職はごく少数
事実8 多数派を占める非正規とフリーランス
事実9 厳しい50代の転職市場、転職しても賃金は減少
事実10 デスクワークから現場仕事へ
事実11 60代から能力の低下を認識する
事実12 仕事の負荷が下がり、ストレスから解放される
事実13 50代で就労観は一変する
事実14 6割が仕事に満足、幸せな定年後の生活
事実15 経済とは「小さな仕事の積み重ね」である
労働供給制約時代における経済社会のあり方
本書では「労働供給制約社会」という概念が示されています。現代日本の労働市場は、急速に進む少子高齢化で純粋消費者(消費だけする高齢者のような存在)が増え、働き手が足りない「労働供給制約社会」になってきている。
そこでは、高齢者も「小さな仕事」に従事しながら、無理のない仕事と社会生活を両立させることを目指すのが一つの解になる。
あわせて、現在の日本の消費者偏重の市場メカニズムは早晩崩れることになるだろうが、安価な外国人労働力の確保といった手法に頼るのではなく、機械化や自動化に関するイノベーションで小さくても豊かな国を目指すべき、という考え方が示されています。
【自分の感想】
Audibleで聴く前は、”きびしい老後の現実を覚悟しなければならない”という内容かなと思って聞き始めましたが、読後の感想としては、手取りも責任も減っていき、縮小均衡する社会経済ができれば、現実的な解になるかもしれない、と感じました。
何についても知らないことが一番怖くて、ある程度想像できれば「そんなものかな」と思うことができます。自分の定年退職は15年くらい先ですが、少し先の未来を感覚としてつかんでおくことは勉強になったと感じています。
最期に、同じリクルートワークス研究所の古屋星斗さんの書籍「働き手不足1100万人の衝撃」の紹介記事のリンクを貼っておきます。高齢者の小さな仕事、労働供給制約社会など、同じ趣旨で書かれている部分があります。