見出し画像

パタゴニア③

快晴の中フィッツロイに向かって歩き出した野宿が決まった4人組。
 
パタゴニア地方の山々は壮大で、どこを見ても立ち止まってしまうような景色が広がっていた。そんなガイドブックの写真を並べたような道を歩いていると、一番前を歩いている一人が、立ち止まって前を眺めている。そこまで、追いつき前を見るとフィッツロイがそびえたっていた。まだ遠いのだろうけれど、その存在感は圧倒されるものだった。
 
それからはフィッツロイがだんだんと大きくなっているのを感じながら進んだ。すると、前から聞き覚えがある言葉が近づいてきた。すれ違ったのは、団体旅行で来ている日本人旅行者たちだった。久しぶりに「こんにちは」と挨拶をした。お年を召した方々だったので、引退をして第二の人生で旅行をしているのだろう。
 
歩いて3時間くらいたつと、山道ではなく湿原に入った。友達が夜に歩き、携帯を落とした場所だ。昼間歩けばそんなに危なくない道だが、夜はどこに足場があるのか分からなくなりそうだ。
 
湿原を抜けると、テント場がある樹林帯に入った。すでに、テント場には多くの人がいた。野宿なので、雨が降っても濡れなそうな大きな木の下を探し、荷物を置いた。日も落ちかけてきたところなので、急いで前日に調達しておいた食材を調理し、食事にした。
 
今回の仲間は、1年半前に3カ月間も同じ研修を受けて以来の再会だったので積もる話もあると思いきや、今はSNSが発達している時代。みんなが何をやっているかをある程度知っていたし、旅の打合せもSkypeでやっていたので、久しぶり感が無い。そんなさみしさを感じながら、くだらない話をした。そして、明日は朝が早いので、雨が降らないことを祈りつつ寝袋に入った。
 
アルゼンチンの夏といえども、パタゴニア地方は寒かった。夜に目が覚めて、トイレに行こうと寝袋から出た。少し開けた場所で上を見上げると、思わず声が出た。
満天の星空とはこのことだ。
天の川がはっきりと見える。
いつも日本でみえる一等星がどれか分からないくらいだ。     
足を止めて見入っていた。
こんなきれいな星空を見るのは2回目で、1回目はペルーでインカトレイルに参加した時だ。その話は、また今度書こうと思う。
星空を堪能した後、再び寝袋に入った。
 
4時くらいに起きて、出発の準備をした。朝焼けのフィッツロイを見るポイントは、ロス・トレス湖という高台になる。テント場から1時間くらい登ったところにあるので、ヘッドライトと必要な飲み物をサブザックに入れ歩き出した。
 
ごつごつした岩をヘッドライトだけで登るのは怖いもので、ゆっくり進んだ。登っている途中に振り返ると、東の空が白んできた。少しペースを上げ、日の出の30分前にポイントに到着した。そこには、すでに多くの人が到着していた。話し声を聞くと英語やスペイン語、フランス語など様々な言語が聞こえてきた。
 
そんな中、日本語で話しかけられた。南米を旅している日本の大学生だった。旅で会った人たちと夜歩いてここまで来たと言っていた。これまで行った場所やこれから行く場所について楽しそうに話してくれた。私が大学生だったころはそんな勇気は無く、海外旅行に行きたいと思っても行くことのない、そこらへんにいる一人だったので、彼の行動力と勇気をただ「すごい」と思うしかなかった。
 
そうしていると、だんだんと日が昇ってきた。
フィッツロイに雲は無く、はっきりと見えていた。
山頂から朝日に照らされ、ゆっくりと赤くなる山肌に見惚れ、誰も喋らない。
半分くらい赤くなったところで、太陽が隠れてしまった。
それでも、十分すぎた。
完全に、日が昇るのを待ち下山した。
 
テント場で、荷物を拾って昨日来た道を戻った。おそらくもう来ることない道を踏みしめ、何度も後ろを振り返りフィッツロイの姿を目に焼き付けた。


いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集