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【エヴァ考察】神のシンボル/白い鳩
今回は主として死海文書に関するプチ考察です.
1.セフィロトの樹の上
劇中の死海文書に見られたセフィロトの樹の上には3つの円盤が描かれています.その左右2つをここでは取り上げたいと思います.いずれの絵も古代メソポタミアにおける神のシンボル(Divine symbols)になります.
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(1)星
まず右の絵からみていきます.これは栗でもウニでも花でもなく“星“です.古代メソポタミアにおいて星の絵は金星の神のシンボル.すなわち,イナンナ/イシュタルという女神のシンボルになります.イナンナはシュメール語,イシュタルはアッカド語で同じものを指します.
もっとも,通常は星の先端が8つに描かれます.しかしこれは16個です.ネットの情報では八芒星だけでなく十六芒星もイナンナの象徴らしいですが裏が取れません.何か理由があるのでしょうが,この点は後でまた戻って来ます.
さてイナンナ/イシュタルの紹介でよく引っ張って来られるのが次の「バーニーの浮彫」です.
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ほとんどそのまま劇中に登場しました.
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オリジナルからの変更で気になる点は翼が12枚に増えていることでしょう.12枚の翼といえば聖書の堕天使ルシファーです(他の天使の翼は多くて6枚).聖書では明けの明星=金星はルシファーの象徴です.この絵と死海文書の星のシンボルはルシファーをも意味するのでしょう.
そして『エヴァ』において12枚の翼といえば巨大化レイ,つまりリリスです.
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以上から『エヴァ』のリリスはイナンナ/イシュタルとルシファーを取り込んだ存在であり、最初の死海文書の星の図像はリリスのシンボルと考えられます.
このように絵が合流合体することは神話では珍しくありません.イナンナとイシュタルにしても元々は別々の存在だったものが混同され同一視されるに至った経緯があります.おそらく庵野さんもこうしたあるあるをわかってリリスとルシファーを混ぜているはず・・・.
(2)月
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次は3つのうち左の絵です.これは上下2つのシンボルからなります.まず下にある三日月から.これは古代メソポタミアで三日月は月神シン/ナンナという男神のシンボルです.シンはアッカド語,ナンナはシュメール語.
次にその上の有翼円盤です(有翼日輪とも).これは太陽神シャマシュ/ウトゥという男神のシンボル.シャマシュはアッカド語,ウトゥはシュメール語です.そして彼は月神シンの息子です.
有翼日輪とは例えば次のような絵です.
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尾羽は後から付いたものらしいです.死海文書の方と比べると(下記画像),あちらはさらにいろいろ付いています.具体的には有翼円盤の上に3つの何やら判然としない物があり,円の中が人ではなく一つ目と口のようです.
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これと酷似する絵があります.次のものです.
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右上に3つの何かが乗っている横長の物体と,先ほどの一つ目と口のような印が一致します.元ネタでしょう.
この画像は古代宇宙飛行士説という疑似科学の一説でお目にかかるものです.次の記事で劇中の死海文書との類似が指摘されています.
古代宇宙飛行士説とは,人類とその文明は古代に地球を訪れた宇宙人がもたらしたものという仮説です.この説は旧作エヴァ(引いてはナディア)の世界観の元ネタでもあります.エヴァでは第1始祖民族のリリスが地球に根を下ろし,現地球上の生命はその者を源として繁栄したという設定なので(エヴァ2),この古代宇宙飛行士説に立脚しています.
新劇の前史は一切謎でしたが,旧作と変わらず古代宇宙飛行士説を採用していると考えていいでしょう.同説で用いられる上記画像を借用したのはそのことを端的に示すためと考えられるからです.
ちなみに古代宇宙飛行士説の画像には16個の先端を持つ星もあります.先ほどの,リリスの象徴である星の先端が8つではなく16である意味がここにつながります.おそらく星についてもその画像を元ネタにしており,有翼円盤とともに古代宇宙飛行士説を示唆するためと思われます.
さて話を戻し,月と有翼円盤の理解です.まず有翼円盤の絵柄でピンとくるものがあります.
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NHG.光の翼を放つことになる背中の3つのパーツと,有翼円盤上の3つのオブジェが似ています.
さらに,死海文書の有翼円盤にはさらに両翼と尾羽が着いています.これらの翼を合計すると6枚となり,同じく6枚の翼を持つ聖書の智天使ケルビム(あるいはセラフィム)を想起させます.
ここからそのケルビムをモチーフとするアダムスにつながります(「アダムスの翼」).NHGはアダムスなので(∵マリの台詞),要するに死海文書の有翼円盤はアダムスのシンボルと考えられることになります.
では戻って三日月です.これまで検討してきたシンボルがいずれも神のものであることと,反対側の星がリリスのシンボルなら,対するこちらはアダムのものだろうと想像はできます.劇中リリスに匹敵する神的存在はアダムをおいて他はありませんから(新劇のアダムについては「アダム新劇場版:再訪」).
とはいえもう少し検討しましょう.もう1度確認すると,元ネタの神話だと三日月が月神シンで,有翼円盤が太陽神シャマシュで2人は親子でした.そして仮に死海文書の三日月がアダムで有翼円盤がアダムスで,この2つが親子だとすると神話の設定にカチッとハマります.
アダムとアダムスが親子関係であることは,破公開当時から噂されてきました.これはリリスとリリンの名前に親=単数系と子=複数形という関係があり,アダムとアダムスも同じなのでは,という理屈からです.これらの事情を合わせると三日月がアダムのシンボルである可能性は非常に高いといえるでしょう.
死海文書では2つのシンボルを1つにまとめたのことで,2つの関係性(親子関係)を示していたと考えることができます.
以上,三日月はアダムのシンボル,有翼円盤はアダムスのシンボルという考察でした.
ここまでのまとめ
・星はリリスの象徴
・三日月はアダムの象徴
・有翼円盤はアダムスの象徴
2.エヴァガールズ
続いて死海文書中央の木の右側です.以前にTwitterで指摘したことと重複しますが,初号機の周辺の物体はエヴァパイロットと理解できることを確認していきます.
まず,これが初号機であることは手にする聖なる槍とミステリーバッグが反対側の13号機と共通することから導けます.13号機は初号機と対になる機体でしたから.
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ABCの絵についてはおさらいなので一段落とします.
A:ライオン
古代メソポタミアでライオンはイナンナの聖獣(お供)です.イナンナ=リリス=ユイを前提にすれば,彼女のお供・協力者として考えられる劇中の人物は,大学時代を共に過ごしたと思われるマリしかいません.シンエヴァで彼女が披露したライオンATF攻撃も根拠になるでしょう.
B:鳥(鳩)
鳥というより鳩と考えるとレイであることが理解できます.聖書で鳩はいろんなものを表しますが(後述),その1つに三位一体の第3の位格である聖霊を象徴するというものがあります.エヴァにおける三位一体とは主たる神ユイ,神の子シンジ,聖霊レイです.したがって,レイでしょう.
C:太陽
この絵はまず,四芒星と4つの波型からなるので太陽神シャマシュのシンボル,太陽だと分かります.そしてアスカとレイの2人は日本神話の天照大神と月読と重なるところがあります.『古事記』によれば天照大神は伊邪那岐の左目から生まれ,月読はその右目から生まれました.劇中でアスカが左目に,レイは右目に眼帯をしていたことは2人がこの神話の神に関係することを示唆します(旧作は20話で一回だけレイが右目に包帯を巻いてましたが新劇ではみられません).そして天照大神は太陽を司る女神です.したがってこの太陽はアスカを意味すると考えられます.ちなみに月読は月の神です.
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3.白い鳩
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話は変わって,先ほど聖書に登場する鳩はさまざまな象徴を担うといいました.例えば聖霊の他にも,十字架の横木に描かれる鳩は平和の象徴だったり,12使徒や信徒を羊の行列に代わって鳩で表す場合もあるようです.
新劇では13羽の白い鳩が飛び立つ描写がみられましたが,あれはいったいなんだったのか.
私の記憶だと13羽の白鳩は4回確認できます.
①『序』で綾波の幻影が現れたとき
②第3村で別レイがシンジを訪れたとき
③第3村でハイカイと浄化無効阻止装置が映ったとき
④宇部新駅
③だけ描写が異なりますが検討対象に入れます.
先ほど例に挙げた,鳩が“12使徒や信徒”を表すという見方をこれら4つに当てはめてみたいと思います.13という数字が劇中の使徒の数と一致するからです.聖書の世界では12匹の羊が描かれていたらそれは使徒を意味しますが,エヴァで13羽の白鳩が使徒や信徒を意味するのだとしたら,そこにはいったいどういう意図が込められているのか.
1)序
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まず序のシーン.TVシリーズの第1話「使徒,襲来」に当たるところです.このタイトルを参考にして鳩を使徒と見立てると,それは使徒たちが第3新東京市を目指して動き出したことを意味すると考えられます.同時にそれは神が人類に与えた運命の開始とも捉えることができます.
2)第3村①
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次に第3村での1つめのシーン.別レイがシンジを訪ねてネルフ跡地に来るところです.13使徒が全て葬られた後なので,その飛び立ちは使徒がこの世界から去ったことを意味すると考えられます.同時にそれは神が与えた運命の1つが終わったことを意味するかもしれません.
あるいはすぐ後で述べるように新人類=エヴァインフィニティ=新使徒でもあるので,人類補完計画の最終段階が始まることの予期とも解釈できるかもしれません.
3)第3村②
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では第3村2つめのシーンはどうか.ケンスケにハイカイと呼称される首無しエヴァは,カヲルくんによれば「インフィニティのなりそこない」でした.エヴァ∞とは使徒をコモディティ化した人類の新たな器で,ゲンドウは“神の子”と言います.
聖書で神の子といえばイエスか信徒一般を指します.エヴァ∞は不特定多数の存在なのでここでは信徒を意味します.上の画像の前に次のカットがあります.
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ここでもハイカイが起き上がるのに合わせて白い鳥が一斉に飛び立つのですが,その数は13よりも多いです.無数の白鳩=不特定多数の信徒とつながるので,このカットの鳩は信徒,神の子を象徴していると考えられます.
それでは先ほどの画像の13羽はどう理解するかといえば,13は使徒を意味するので,ハイカイと一緒に映すことでハイカイが実質使徒であること,つまり生命の実を備えた新たな人類の器であることを暗示していたと考えることができます.あるいは全体としてこの後に起こるフォースインパクトを暗示していたとも.
4)宇部新川駅
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最後の駅のシーンはお分かりでしょう.エヴァ♾と同じでエヴァも新人類の器でと考えられるので信徒の側面があります.この世界から13機全てのエヴァが飛び去ったことを意味するのでしょう.
まとめると次のような整理になります
新劇場版の飛び立つ白い鳩の意味
①序→使徒の始動
②第3村その1別レイ→使徒の滅亡
③第3村その2ハイカイ→信徒(エヴァ∞神の子)の象徴
④宇部新川駅→エヴァの消去(エヴァの次の世界への旅立ち,続編への期待?)
5)おまけ
以上に関連して気になるのは,先ほどの①と②の白鳩の映像が前後を含めて似ていることです.両方ともレイの幻影,レイの瞬きがありましたよね.ところが細かくみると両者でカットの並び方が異なることに気づきます.
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序:シンジの目線→レイ幻影→レイ瞬き→鳩
シ:鳩→レイ瞬き→シンジの目線→レイ幻影
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どういうことだろうと考えて気づいたときには2つを連結していました.2つを並べると次のようになります.
シンジ→幻影→瞬き→鳩→鳩→瞬き→シンジ→幻影
ご覧の通り「鳩」がレイの「瞬き」に挟まれる順になります.先ほど鳩を使徒と理解しました.するとレイの瞬きと瞬きの間に使徒が目覚め,そして滅んだということになります.
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世界の始まりと終わりすら瞬き1つの時間に過ぎないという伝説はインド神話のヴィシュヌ神のものですが,それに近いものがあります.
以前からここの幻影レイはリリスではないか,と言われてきました.仮にそうだとするとあの瞬く目は「神の目」ということになります.聖書で神の目は全てを見通す全知の象徴.あれ?
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今回は以上です.最後までお読みいただきありがとうございました.
・参考文献
ピョートル他編著『図説 古代オリエント事典』東洋書林,2004年
日本オリエント学会編『古代オリエント事典』岩波書店,2004年
大貫ほか編著『岩波キリスト教辞典』岩波書店,2002年
画像:©khara/Project Eva.