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【エヴァ考察】 量産型パイロット

今回は謎が増えるだけの回ですが,レイとアスカ両パイロットについてあれこれ考えます.以下『庵野秀明展』のネタバレあるのでご注意ください.

1.とある台詞の超解釈

(1)儀式の贄となる使徒

ゲンドウ「私が神を殺し,神と人類を紡ぎ,使徒の贄をもって人類の神化と補完を完遂させる」
ミサト「そのためにアスカを使い捨てるか,碇ゲンドウ!」
ゲンドウ「綾波と式波型パイロットはもとよりこのために用意されたものだ.問題ない」

パイロットに着目すると台詞の意味は大要,綾波と式波両タイプは補完計画の人柱として用意された存在だ,ということでしょう.劇中で少女たちは贄となる使徒と融合しており,儀式の犠牲となった側面があります.整理してみます.

・第9使徒とフォースインパクト
アスカが第9使徒と融合.13号機が取り込みシン・フォース.

・第10使徒とニアサードインパクト
レイが第10使徒と融合.初号機が取り込みニアサー.

・第12使徒とフォースインパクト
レイが第12使徒と融合.13号機が取り込みQ・フォース.

まず,アスカと第9使徒の融合という視点は没となったコンテにあります.

破コンテ(マーカー引用者以下同じ)

これによると3号機に取り憑いた第9使徒が同機体と融合.そして同機体を通してパイロットとも融合した.没ですが内容自体は本編に通じるものがあります.エヴァと使徒の融合も,使徒の機能を備えたMk6,Mk4につながります.

次に,レイと第12使徒が融合というのは空白の14年の出来事です.以前,下のTweetの通り,破のレイは第10使徒に零号機ごと取り込まれたのち,使徒のコア表面に無数のレイとして現れました.この描写がQの第12使徒の描写と一致することからレイも使徒と融合したことが導かれるです.


そして,上の整理から本編でブランクとなった第11使徒は,これまた空白となったサードインパクトで贄となり,その際おそらくレイが犠牲になったという予想ができましょう.実際,私自身はそう睨んでいますが,よくわからないところではあります(「使徒の量産化?」).

そしてシンエヴァ本編前に付された『これまでのヱヴァンゲリヲン新劇場版』では,YouTube版と異なりユイのカットがレイとアスカに変更されていました(「アスカ(人形,レイ,ユイ)」).このことからも2人には共に論じることができる事柄があるらしいのです.今回はこの辺りを進展すべくあーでもないしていこうと思います.



2.とある場面のオリジナル

(1)赤色と青色

さてシンエヴァで突然現れて,謎の台詞を残してそれっきりの式波タイプのオリジナル姫.

「最後のエヴァは神と同じ姿.あなたも愛とともに私を受け入れるだけ」

台詞前段もこの内容をこのタイミングで彼女に言わせる意図が謎ですが,後段は本当に謎です.エヴァの難解台詞四天王に認定します.おめでとうございます.

もっともここで取り上げたいのは,オリジナルアスカが使徒アスカを連れ去るシーンが、破でアスカが第9使徒に取り込まれるシーンに似ていることです.参考までにまずは破.

プラグ内の赤色描写はQ以降のコア化に酷似
コア化の青バージョンに近い印象

次にシンエヴァ.

オリジナルはコア化処理
使徒アスカも青のコア化処理

まず色について.青色が使徒を指しているとして赤色はどう理解すればいいでしょうか.赤色部分にコア化処理が施されている点が気になります.

次に色に関連して,破のプラグ内は赤くコア化しているように見えます.破の段階では特技としてのコア化処理は未確立ですが(下記Tweet参照),技術的な問題ですからコア化していると考えて問題ないでしょう.シンではオリジナルアスカがコア化.オリジナルアスカはQ以降のレイと同様,コアからなる生命体なのでしょうか.

もう1つは両アスカに見られる光の翼?らしきものについてです.破の時点では特に気にならなかったのですが,シンエヴァで再び登場したことでどうやら何か設定がありそうとなります.今のところお手上げです.ちなみにレイのコア化というのは下記Tweetを参照.

(2)第9使徒とアスカ

次に,アスカの人外可能性について少し異なる観点から考えます.
先ほど引用した第9使徒戦後のゼーレの台詞です.

「そしてエヴァを触媒とし、我ら人類との融合の可能性も見いだせた」

破コンテC-1252

まず蛇足ですが,ゼーレが「我ら人類」と言うあたり,彼らも元はヒトだったことが読み取れます.で,指摘したいのは「人類との融合の可能性」の部分です.アスカは使徒と融合を果たしたので、使徒と人類の融合に道筋はついたのでは?「可能性を見出した」には,やっとスタートラインに立ったといったニュアンスがあります.ゼーレにしては自信がない.

この説明として,アスカはヒトではないからというものがありえます.すなわちアスカは使徒と融合前から人外だった.3号機の実験で成功したのはヒトもどきと使徒の融合であって,純粋なリリンと使徒の融合はまだ未知数.したがってゼーレはその可能性の指摘にとどまっているのだと.深読みか.

(3)プラグ内で行われたこと

さて,先ほどのオリジナルアスカのシーンに戻ります.使徒化アスカをエヴァから回収するという筋書きはかなり前から決定事項だったことが次のTweetからわかります.

この山下案ではATFを駆使してアスカの生身の体がエヴァの外に取り出されます.これに対し本編でアスカの回収はどのように行われていたのでしょうか

状況からいくつか指摘できそうなことを挙げていきます.まず,破の3号機起動実験シーンの描写に似ていること.ここからコアに引き寄せてアスカをLCLに還元させた可能性があります(シンエヴァの描写から翻って3号機事件のときアスカはLCLになった可能性が高い.その後サルベージを施し封印柱だらけになった).

また,別のエヴァに乗るパイロット同士がパイロットの姿で対面するという描写は破でシンジが綾波を救出したシーンを彷彿とさせます.あれも同じ原理だとすれば,がむしゃらだったシンジとは対照的にオリジナルアスカには余裕が感じられる点,やはり式波タイプは優秀ということなのか.

結局,妄想の域を出ませんが,新2のコアに近づけさせることで使徒化アスカをLCLに還元し,DSSチョーカーの執行を回避.そして魂の回収の描写として破の綾波救出シーンに似せた.これが今のところの言えることになります.

ついでに山下Tweetに描かれる円が,シンジの8号機→初号機の謎ワープを彷彿とさせます.あのワープは紛うことなき謎.

「大丈夫,マリさん.行ってくるよ」じゃないです.その左腕のスーツのくぼみ,もんじゃのヘラがちょうどいい感じに収まりそうじゃないか.


(4)オリジナルアスカの目的

破の綾波救出シーンと似ていることを指摘しました.さらに想像を膨らませて,オリジナルアスカはシンジのように使徒化アスカを救おうとしていたと見ることはできないか.

もっとも顔がそう見えない.いい顔してますが.

インパクトのために使徒化アスカの生捕りが必要だったとしても例の難解台詞の意味が明らかにならないため,考察するにあたって何かが足りないわけです.もう一度引用しましょう.

「最後のエヴァは神と同じ姿.あなた愛とともに私を受け入れるだけ.さあこちらへ」

手元のエヴァ翻訳機によると,「13号機は神だから来るものを拒まない.だからあなたを受け入れる.あなた“も“私の願いを受け入れ大人しく溶けなさい」とのこと.どういうこと?引き続き今後の課題です(暫定的な回答として「式波アスカのオリジナル」の4).


3.綾波から式波を考えるために

アスカ「私たちエヴァパイロットはエヴァ同様,ヒトの枠を超えないよう設計時に抑制されている.非効率な感情があるのもそう.人の認知行動に合わせてデザインされている」

シンエヴァ

さて劇場当時は,情報量の多さに処理が追いつかず、この段階でアスカも量産されているとは露にも思わず観ていた気がします.アスカは「エヴァパイロット」と括るものの,ここでは式波タイプと綾波タイプ限定の話として進めます.

つまり両タイプは,ともに量産エヴァパイロットとして共通することから,綾波タイプの考察は式波タイプの参考にできるか,その可能性を以下で検討していきます.

(1)ゼーレチルドレン・再考

以前,Q以降の綾波タイプは生命の実由来の生命体であり,リリンとは異なる生命体という位置づけがなされていることを指摘しました(「人類補完計画とコア化」).簡単におさらいします.まずはアドバンスド・アヤナミシリーズです(以下アドナミと略称).

冬月「アダムスの器の贄となる,雌雄もなく純粋な魂だけで造られたけがれなき生命体.アドバンスド・アヤナミシリーズの再生」

翻訳すると…
「雌雄もなく」:限りある命ゆえ繁殖で種を保存する人類と異なり、その必要がない単体の生命体、使徒を示唆.

「魂だけで造られた」:コアとは魂の物質化.コアから造られていること示唆.

「けがれなき生命体」:知恵の実を食べた原罪を負わない,すなわち知恵の実要素のない生命体.

この後の光輪も謎の1つ

次に,黒波ですがコア化大地も平気でしたし,シンエヴァで消滅した際に生じた光の十字柱と光輪の描写から彼女が人外であることを示唆します.

関連して,アドナミと黒波はゼーレが造った綾波タイプであることが,破の次回予告コンテや,次のQの没コンテから読み取れます.

たとえばQコンテ.「あの複製体」は黒波を指す

つまりゼーレチルドレンとネルフチルドレンは区別されるシリーズである.したがって,綾波内で異なるシリーズの考察を安易に別の式波タイプに援用することは混乱となるおそれがあり,慎むべきでしょう.まずは綾波タイプについてもう少し整理する必要がありそうです.

そこでまずは,綾波に関するこのゼーレチルドレンという設定は本編に活かされているのか,それとも設定自体破棄されたのか.細かいですが,まずはこの点を検討したいと思います.

まず冬月は黒波について「ゼーレのプログラムで動く」と言いますが,Qの最後で黒波が「これが命令」とMk6の首を刈るとき,命じたのはゲンドウと理解するのが自然です.ネルフの命令で動いただと?とはいえ,ゼーレがゲンドウの命令に従うよう事前の指示があったと考えれば食い違いは避けられます.この程度は「問題ない」.しかし,シンエヴァで次のようにも言います.

冬月「綾波タイプナンバー6は無調整ゆえ固体を保てなかったようだ.自分と同じ喪失を経験させるのも息子のためか,碇」

ゲンドウが、固体を保てないよう黒波に操作を加えていたとも捉えられます.「我々の関知しないところ」とは嘘.関与しまくり.さらに…

ネルフマーーーク

というわけで,Q以降のアヤナミ=ゼーレチルドレン説という設定には変更があったと考えられます.もっとも,どの程度の変更があったのかは不明です.

(2)アヤナミタイプの連続性

これで一応ゼーレチルドレン,ネルフチルドレンの区分は気にしなくてよいことになります(もっとも庵野さんが当時こうした区分を設けた意図は別途考察の課題として意識したいところです).

いま一度ここでの戦略を説明すると,綾波タイプを用いて式波タイプを考察するにあたって,まず綾波シリーズを整理してから、綾波の考察で得られたものを式波へ援用しようというものです.ここまでで確認できたのは,ゼーレの綾波とネルフの綾波という区別は考えなくてよいこと.

そこで次にアド波,黒波,ポカ波をまとめて理解できないか試みます.

Qコンテ.「ゆえに」の後に「碇も興味はないようだ」が続きます

この没コンテの「アヤナミ型試作体第 6号」というのは黒波のことです.そこではユイの情報が転送されていないだけで,黒波はそれまでのアヤナミシリーズと同じものと読むことができます.

次に,破における綾波レイの水槽シーンです.

そのまなざし息子君にもくれて

わかりにくいですが,水槽には封印柱に見られたあの人外未知の文字列が確認できます.ここからレイは人外未知の技術が用いられた存在であり,ヒトではないという予測が立ちます.したがって、黒波もポカ波もともにリリンではなさそう.すると、アドナミもそれまでのシリーズと質的に異なるものではなく,程度の違いで捉えた方がよいのかもしれません.アドナミに進むにつれて知恵の実要素が少なくなっていくといったように.

以上,アド波,黒波,ポカ波をひとまとまりにしてみました.アスカへの類推如何には着手できませんでしたが,今回はこの辺で次に向かいます.

※綾波型と式波型について結論を出しました↓



4.プラグスーツの充電

さて「無調整」が黒波LCL化の原因だというのはいろいろ考えさせられます.固体を維持できている他の個体は「調整済」ということなのでしょうか.

そもそも「無調整」という際,調整の対象が何なのかわかりません.もっとも使徒の形象崩壊を参考にすれば,固体を維持できなかった=LCL化=形象崩壊と理解できるので、調整の対象は身体のLCLを固定・維持するATFに係る仕組みというニュアンスはあります.

(序C-429)リツコ「A.T.フィールドを失った使徒の崩壊.予想以上の状況ね」

もっともこれは本編から受ける印象と異なります.黒波のプラグスーツのアラームが鳴ってから,彼女の様子に異変が生じましたし,アスカはプラグスーツを車のバッテリーから充電している様子が描かれていました.これらの描写から,「プラグスーツのバッテリー切れ」がLCL化の原因という印象を強く受けます.

しかし,おそらくスーツはそこまで関係ない気もします.仮にスーツが固体維持に重要な代物ならば,アスカがレイのスーツを充電しないことが気になります.確かに「ヒト1人に大げさね.もうそんなことに反応してるヒマなんてないのよ,この世界には」(Q・C-315)と黒波の生死に関心を持たないアスカも想像できます.「お前にやる電力はねえ」.それとも他に理由があるのでしょうか.

しかし,そうした一方で「初期ロット、ちゃんと動いてる?」と気にしてもいたわけです.「動く」という無機質な言葉がアスカらしい.個人的には黒波の崩壊はプラグスーツの充電などではどうにもならない事柄だったと思いますが,みなさんはどうでしょう.


今回は以上になります.なかなか地味な作業をお見せすることになってしまいました.最後までお読みいただきありがとうございました.

画像:©khara/Project Eva.

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