どぶろく、にごりざけ、あらばしり、うすにごり、おりがらみ ②

昨日の続きです。

ある程度日本酒が好きな人なら、あらばしり、おりがらみ、うすにごり、などとラベルに書かれた酒を飲んだことはあるのでしょうか?

にごり酒ほどにごりはありませんが、どれも底のほうにわずかに白い部分が沈んでいて、やわらかい舌触りとミルキーな味が楽しめるお酒です。

ただ、これらの三つが一体どう違うのか、厳密に理解している人は、相当酒が好きな人でも稀だと思います。

実際、これらの酒を出している蔵元によっても、様々な考え方があると思います。以下で説明することは一般論ですが、これとは違った解釈をしている酒蔵様もあるかもしれないので、その点は留意してお読み進めください。

まず、あらばしりというタイプのお酒があります。

前回「清酒とは米麹水を発酵させたもろみを、何らかの手段で濾したものである」というような定義を説明したかと思います。この濾し方にもいろいろありますが、酒袋という袋にもろみを詰めて、袋の繊維の隙間から液体部分を濾しとる、というやり方があります。

こんな感じです。酒袋を並べていって、上から圧力をかけて絞る方式ですね。

酒袋で酒を絞る際には、槽という装置で絞るのが一般的ですが、舩で絞る際には絞る段階で出てくる酒の名前が呼び分けられます。

酒袋に酒を入れて並べていって、圧力をかけていない自重だけで流れ出てくる酒を「あら走り」、圧力をかけ始めたときの酒を「なかどり」、ある程度絞って酒が出る量が減ってきたら、積み替えて圧力を追加でかけて絞り出す「責め」。

説明すると長いのですが、この酒袋は絞り始めたときには、結構もろみ部分(澱=おりと呼びます)を通してしまうのです。そのため「あらばしり」にはおりが絡むので少しだけ白い部分が混ざった酒になります。

「おりがらみ」はその名の通り澱が絡んだお酒になります。ふつうは「あらばしり」と同じ意味でつかわれますが、厳密に言うと「あらばしり」は酒を絞っている段階の呼び名で、「おりがらみ」は酒の状態を指します。

「あらばしり」だけでなくても、「なかどり」でも「責め」でも、槽でしぼると少量の澱は出ます。あるいは、「あらばしり」をとらなかった場合には絞った後の酒には結構な澱が残ります。この澱を取り除くために「澱下げ」という工程が行われますが、(こんなことをやっている酒蔵が世の中に存在するかどうかは知りませんが)、この「澱下げ」した澱と清酒を混ぜ合わせて澱が絡んだ酒を造ったとしたら、それも「おりがらみ」になるわけです。

「うすにごり」も「おりがらみ」と同じような意味でつかわれているケースが多いと思います。

ただし、個人的なイメージではありますが、この「うすにごり」という酒を出しているのは、酒袋を使ってない酒蔵の場合が多い気がします。

自動圧搾機(通称ヤブタ)はろ過性能が高いのでほとんど澱が出ないと聞きます(僕がいる酒蔵では使っていないので実際にどの程度なのかは知りませんが)。ヤブタで酒を絞っている酒蔵では「あらばしり」や「おりがらみ」は作れない(あるいは量を作りにくい)ことになります。

そこで、にごり酒を作る要領で、もろみを粗く絞ったにごり成分多めの酒を、きれいに絞った清酒に少量まぜたらおりがらみに近い「うすにごり」の酒ができることになります。

まあ、前述したとおり、これらの呼び分けは蔵によってさまざまなので、すべての酒がこのような定義に従って名づけられているわけではないと思いますが。

いずれにせよ、もろみ成分が少量混じっていることで、きれいに絞った清酒にはない独特の味わいが出てくるわけですね。

ここで、もう一つ余談になるのですが、「中汲み」と呼ばれる酒があります。

現代では普通、槽で絞っている際に「あらばしり」をとった後圧力をかけ始めた「なかどり」の段階と、ほとんど同じように使われている用語です。

一般的に「なかどり」あるいは「中汲み」の酒が香り味ともに一番優れている、とされているので、ラベルに誇らしげに表記がなされているわけです。

ところが、僕も最近知った事なのですが、この「中汲み」の使い方は厳密に言うと誤用らしいのです。たしか「灘の酒用語」という本の中で解説されていたのですが、元来「中汲み」とは絞った後の酒を澱下げしてる時、澱と酒部分の境目の酒(つまり清酒と澱が両方入ったおりがらみの状態)を指していたそうです。

この「中汲み(おりがらみ)」の状態が最も珍重されていたので、現在で最も価値があるとされている「なかどり」と混用されてしまっている、ということらしいです。

「おりがらみ」の説明で、「(こんなことをやっている酒蔵が世の中に存在するかどうかは知りませんが)」などと書きましたが、江戸時代にはそれが「中汲み」と名付けられて最も珍重されていた、と考えると面白い話だと思いますね。

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