「あそび」が培う神経エクササイズ
Office ONAKA TEATEでは「おなか」から元気になるトレーニングサポート「Onaka Training(おなかトレーニング)」を提唱しています。
その中で最も力を入れているのが成長期の子どもたちへのサポートです。身体を作り上げる成長の時はあっと言う間に過ぎてしまうので、その時をどう過ごすかはとっても大切になります。
この春から新しく小学生対象のサッカースクールのサポートを始めました。そのサッカースクールは「サッカーを楽しもう」をテーマにしているそうです。
これからサポートしていくにあたり、スポーツという枠を超えて「あそび」として楽しんで身体を動かすことを考察して、「あそび」を通して培われる神経の発育についてお話ししてみようと思います。
「あそび」に夢中になって楽しむ
「あなたはそのスポーツに夢中になっていますか?」
必ずしも「はい」と答える人ばかりではないと思います。
スポーツを始めるには何かきっかけがあったり、続けるには目標となるゴールがあったりするものです。きっかけが「友達に誘われたから」「学校で人気の部活だから」とか、「親に言われて」という子どももいるかもしれません。そして、「Jリーガーになりたい」「大きな大会で優勝したい」など目指すゴールも様々でしょう。
しかし、きっかけや目標となるゴールが自分の中から生まれたものでない場合、もしかしたら「やらなきゃ」と思って続けているかもしれません。
では「あそび」の場合はどうでしょうか?
少なくとも私が子どもの頃の「あそび」は、夢中になれるかどうかなんて考える以前に、持って生まれた能力を満遍なく使い夢中になって毎日遊んでいました。無意識のうちにゴールが「夢中になって楽しみたい」になっていたのです。
運動神経、感覚神経、自律神経、全ての神経ネットワークを使う
夢中になってやっているのと、やらなきゃと思ってやっているのでは使われる神経ネットワークが違ってきます。
人は複雑な神経ネットワークや内分泌によって常におなかの中のバランスを保っています。そして身体中をめぐる神経ネットワークは生まれてすぐの赤ちゃんの時が最も複雑に張りめぐらされているのです。それが「人は全能を持って生まれる」と言われる理由なのです。
なんとなく反対だと思っていた人はいませんか?生まれたばかりは神経ネットワークが単純で大人になるにつれて複雑になってくるのだと。
確かに生まれたばかりは神経の一本一本は未熟かもしれませんが、ネットワークは最も複雑なのです。そして、大人になるにつれて繰り返し鍛えられた神経は強くなるし、使われなかった神経は退化してしまいます。
ですから子どもの時から何かを反復して練習させれば、その動作は上手くなるかもしれませんが、他の能力を退化させてしまうかもしれないのです。さらに「やらなきゃ」と思ってやっていると、意識でコントロールできる神経を使って無理やり動かしているだけで、潜在意識ではつらくてすぐにでも休みたいと感じているかもしれないのです。
神経ネットワークは運動神経、感覚神経、自律神経がお互いに影響し合って身体を機能させています。様々な神経をリンクさせ全力で遊ぶ。つまり成長期こそ色んなことを経験してみたほうが、色んな能力を培うことができるのです。
今、育ちつつある能力にフォーカスする
しかし、色んなことを経験したほうが良いと言っても無理やり色々させれば良いというものではありません。それでは「やらなきゃ」になってしまいます。とにかくその時その時、どんなことでもいいので興味を持っているものに夢中になれる環境が大切なのです。
子ども達は、突拍子のないことよりは今育ちつつある機能を使い、できそうでできないことに興味を持つことが多いです。大きい子も小さい子も一緒になって遊ぶことが多かった一昔前は、小さな子がお兄ちゃんお姉ちゃんの真似をして色々とチャレンジしたものです。誰にさせられるわけでもなくみんな、遊びの中で色々と身につけていきました。
野生に近い動物たちはもっとシンプルです。我が家の2匹の犬は小さな布切れ1枚があれば、それを取り合うようにして夢中になって遊びます。「あそび」を通して狩をする能力を培うのです。元々狩猟民族の文化の中で生まれたサッカーでは、ボールを追うことが狩をする本能を駆り立てると考える人もいます。
このように原始的な社会や野生の動物の習性には、多くの「あそび」のヒントがあります。
協働調整から自己調整を培う
では、ただ昔ながらの生活に戻り、野生の習性に見習えばいいのかと言えばそうでもありません。
一昔前と、自然環境が壊され人間関係が複雑になり過ぎた現代社会とでは、子ども達を取り巻く環境が違うし、自然の力強さに負けないように子ども達に必要な抵抗力や想像力は平均的に下がっています。
現代社会には刺激やストレスが溢れています。調和のとれた自然に囲まれて暮らしていた一昔前とは違い、現代社会の刺激やストレスは、未成熟な子ども達にはあっと言う間に強い負荷となって襲ってきます。
自然が残り多くの生き物が生きられる環境には多様性が存在し、その中で遊ぶだけで抵抗力や想像力が培われます。反対に人間の都合が優先し過ぎた社会では、無意識のうちにかかる負荷がどんどん増えています。
調和して多様性のある環境の中で子どもが興味を駆り立てられる環境、そして子ども達自身で環境を作っていくことが大切です。
子どもたちは一緒に遊ぶことで、協働調整(周りにただ合わせることではなく、個人の間で相互に生理的状態を調整し合うこと)を経験し、ゆっくりとゆっくりと自己調整(他人の力を借りなくても自分の行動を制御できる能力)を培います。
やがて自己調整を身につけ大人になり、調和の取れた社会の構築に関心を持つのです。
「育つ」を優先する
環境や人間関係から受ける負荷と共に必ず考えなくてはいけないのが、休息と栄養です。負荷があることが悪いのではありません。適度な負荷は成長のスイッチを入れてくれます。
大切なのは「負荷」に対して「休息と栄養」のバランス、そして成長により培われる「抵抗力」とのバランスが大切なのです。これらのバランスを常に測っていないと、休息と栄養に対して慢性的に負荷が優ってしまうと人は疲れ果ててしまいます。それは子ども達も例外ではありません。それにより「抵抗力」はどんどん下がってしまうのです。
とにかく成長にエネルギーをあてることが大切です。力強く育った子ども達は(誤解のないように書き加えると、その子にとっての力強さです。人と比べてではありません。)また、次の社会を育ててくれます。
なかなか上手くいかない場面も多いかと思いますが、大人は社会が成長期の子ども達が育つことに夢中になれる環境となり得ているかを考え続けなくてはなりません。でなければ、今ある成長の時はあっと言う間に過ぎ去ってしまいます。
子どもたちが感受性を働かせ神経ネットワークを満遍なく使い遊ぶ、そんな子ども達の「あそび」と「神経エクササイズ」をサポートしていきたいと思います。