【前世の話】萬年筆と僕
子供の頃から萬年筆は好きじゃなかった。
家に萬年筆と言う名の萬年筆風のペンが在って、使い勝手が惡そうだなあ思って毛嫌いして居た。けれど思い込みで嫌っていちゃいけないと思い、使って見るも、豫想通り書き味が惡くて放り投げた憶えが在る。そのペンはペン先だけ萬年筆風でインクの詰め替えが出來ないタイプのペンだった筈。
それが8歳の頃だった。
そんな思い出もあり、萬年筆には全く好い印象が無かった。
どうせ書き辛いんでしょう、と半ば決めつけて居た。
僕が萬年筆を使い始めたのはカクノが發賣され「女子文具」などの流れがある中だった。萬年筆には何時もの「前世で使ってた」感は無く、僕はそれを試行錯誤しながら使って居る。
振り返れば萬年筆が戰前から在ったことも少し前まで知らなかったのだ。
乾信一郎さんの「新青年の頃」に拠ると、乾さんが入社した頃〜昭和7年頃だろうか(戸崎町時代で横溝正史さんが博文館に居た頃)、萬年筆は未だ性能が惡く値段が高い割に直ぐ壊れるという話だった。だから横溝さんや新青年の編集の人たちは付けペンを使って居たそうだ。
夏目漱石や新青年3代目編輯長の延原謙さんはたしか英國製の高級な萬年筆を使って居たと云う話があったと思うけど、そのレベルじゃないと執筆業の人たちを満足させるペンでは無かったということなんだろう。
色々思い出した今振り返ると、僕の萬年筆へのネガティブなイメージは昭和四年當時のものかもしれないなあと思う。
そして昭和四年の新青年の人間としては萬年筆に懐かしさを憶えて居なくて正解だったんだなあと思った。
此れ亦、一貫性の在る話。笑
お終い。
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