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本と育つ、本で育つ 生後3か月からの「読書」

息子は本と育ち、本で育った。私は息子を本に育ててもらった。
私が幼い頃から本好きだったので、息子も仲間の可能性があるとは思っていたが、実際はそれ以上だった。
最初に読み聞かせたのは、「にんじん」(せなけいこ)。育児記録によると生後76日目に初めて読み聞かせており、その時のことは今も記憶に鮮明だ。
ベビーベッドに仰向けに横たわる息子の顔のうえに本をかざすと、彼は黒い目を大きく見開いて絵をじっと見つめた。文を読むあいだ、まばたきもせずに見つめ続けた。ページをめくるとまたじっと絵を見つめ、読むあいだ身じろぎもしない。最後のページまで同じことが繰り返され、読み終えた私は一人首を傾げた。「3か月にもならない赤ちゃんが本の読み聞かせに反応することはあるのかしら!?」試みに再度読み聞かせてみる。結果は同じ。何回読んでも息子はじっと目で追い、耳で聞いていた(聞く方はあくまで私の印象だが)。その日の私の結論は「この子は読み聞かせに間違いなく反応している」であった。20年近く経った今もそれは変わらない。読むという行為は本に入り込み、同時に本を自分の中に吸収することだと思う。そういう意味で息子は3か月から「本を読んでいた」と私は確信している。
その後は翌々日、生後78日目に「まざあぐうす」(北原白秋)、更にその翌日79日目に「花のき村と盗人たち」(新見南吉)を読み聞かせている。「まざあぐうす」は私が選んで購入したように思うが、「花のき村」のほうは、なぜ0歳児にそれを読み聞かせたのか記憶が無い。恐らくどこかからお下がりの本をいただき、他に読む本がまだ用意出来ていなかったので読み聞かせたのだろう。
せなけいこさんの絵本は私自身が幼い頃から慣れ親しんでいたので最初の絵本として選んだ。「にんじん」に息子が反応したので、「せなさんの絵本はこの子の好み(または興味)に合うのだな」と思い、増やしていった。購入履歴によると生後半年で「いやだいやだ」を入手している。これも「にんじん」と同じくらい私には馴染みであったが、文中に「いやだ」が連発されるので、生まれて初めての本として読み聞かせるのはどうかと思い二番目となった。「ねないこだれだ」「ふうせんねこ」「もじゃもじゃ」が少し間を置いて続く。
せなさんの絵本は躾の要素が強い。「にんじん」はニンジン嫌いの子どもが多いからこそ主役に選ばれたのだろうが(これがイチゴだったらどうだろう?)、目を引くオレンジ色とテンポの良い文で子どもを乗せて、「ニンジンおいしそう!ぼく(わたし)も食べる!」という気持ちに誘う明るい絵本。一方それ以外は「こんな子はこんな目に合っちゃうよー!」と子どもをちょっと怖がらせて「そうならないようにします・・・」と誘導していく感じがかなり強い。私はそこに少し反発があったのと、暗い配色が多く幼い子供に恐怖心を抱かせそうな気がして、三冊目以降は購入がだいぶ遅くなった。とはいえ、どの絵も文も簡素でわかりやすく、幼い子どもの興味をぐっと惹きつけ、教育的な落ちも嫌みが無いのはさすがである。息子の「一冊目」にせなさんの作品を選んだのは正解だったな、と思う。
さて先日、「心に緑の種をまくー絵本のたのしみー」(渡辺茂)を読んでいて思わず「あっ!」と声をあげそうになった。渡辺さんのお孫さんがやはり3か月で絵本に間違いなく反応を示したというくだりがあったのだ。息子とそっくりである。「そうですよね、3ヵ月でも読みますよね!」思わず私は心の中でつぶやいた。生まれながらの本好きが世の中にはもっといるのだろうと思い、何だかとても嬉しかった。

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