第6回 高次脳機能障害でも再就職へ!
現実で起こることはバーチャルでも起こる
私が再就職した会社では、パソコンのイラストレーターで図面を起こす仕事をやっていた。
具体的には、野外の現場で野帳にスケッチしてきた遺跡の地層や出土品の手書きの図面を、パソコンのイラストレーターで印刷用の図面に清書するという仕事だ。
数はとても多かったが、図面の1つ1つは小さなものが多かったので、私は慣れてくるとかなりのスピードで仕上げていくことが出来た。本社からも『君、図面を仕上げるのが物凄く早いんだって?』と様子を見に来てくれたこともあった。これは、私は漫画を描くとき全てではないがパソコンを使っていたし、イラストレーターの基礎も学んだことがあったからスムーズに仕事が出来たのだと思う。
ここまで仕事の作業だけなら良かったのだが、物忘れをする(今思えば、遂行機能障害もかなり入ってると思う)という現実の症状が、パソコンの中でも起きる・・・、と言うことを知ることになったのだ。
具体的に言うと、ファイルやフォルダを記憶し整理することができなくなってしまう・・・と言う、バーチャルの世界でも、現実の世界と同じことが起きてしまうのだった。
これから私は、会社での仕事は製図作業だけではないということを痛烈に実感させられることになるのだった。
まず出社の時間が異常
私の出社は10時で、退社が5時の契約社員だったのだが、出社するための時間がとにかく不安だった。何故そんなに不安だったのか今でも判らない。
後に書くことになると思いうが『自分を信用できない』ことが原因だと思う。
実際は9時に家を出ればいいのだが、私は8時前に家を出て7時58分のバスに乗り(当時)、会社の最寄り駅には9時前には着くようにしていた。最寄駅から会社までは15分弱だから、ゆっくり歩いても40分くらいの時間的余裕があった。
それだけ自分が必要とする時間を理解しているのなら、1時間も前に駅に着くようにする必要はないと思うわれるだろう。しかし、私は電車の乗換えや、『道順を間違わないか自信がない』のか、『なにか不意の出来事が起こってそれに対処できないかも知れない』・・・ということなのかハッキリとはしないが、漠然とした不安が常にあった。だからどうしても普通の時間での通勤が出来なかった。
これは今でもある症状だが、近い未来を正確に予想することが上手く出来ないのだと思う。
当時の気持ちがそうだった・・・ということもあるが、現在の私も約束の時間があると、かなり早めに家を出ないと安心できないとい。だから約束の場所の近くの喫茶店に入って、1時間ほど時間を潰しながら、これからの約束の準備(予習)をするというのがデフォルトになっている。
再就職をした時、出社については時間をかけるということで安心と成功を積み上げることができた。しかし、重大な問題は出社の仕方ではなく、作業を始めてから明らかになっていくのだった。
思わぬ落とし穴が!!
さっきも言ったように、図面を描く作業は上手くいっていた。
でもここに、思ってもない落とし穴があったのだぁぁ~~~~っ!・・・と劇的に叫んでみる。
こんな風に感情が噴出するのは、その当時の私の事を思い出すと本当に胸が痛くなるほど苦しくなって、当時の不安を思い出すし、とてつもなく恥ずかしくなるからだ。
当時、私の仕事ぶりは自分でもなかなか上手くいっていると思っていた。(あくまで"自分では"そう思っていた!)
問題は挿絵の通りだ。
昨日作業して保存しておいたデータを起こして、続きをやろうとパソコンを立ち上げると・・・やりかけのフォルダがいくつも現れる。それもかなり沢山。
『?』私は一瞬手が止まる。『なんでいくつもフォルダがあるんだろう?』 と、まずは最初のフォルダを開けてみる。
すると複数のファイルがある・・・・『??』。開けると、ファイルナンバーに01とか02とかついていて。隣の別のフォルダを開けると今度は複数のサブフォルダが入っている・・・『???』。さっきのフォルダにはファイルが入っていたが、今度の複数のサブフォルダを開けてみると、ファイルが1個もなかったり、逆にファイルが何個も入っていて、ファイル名はさっきのファイルと同じで少しだけ作業が進んでいたり・・・結局どのファイルがどこまで進んでいて、どのファイルが最後に作業したファイルなのか・・・全部開けてみないと、どれが捨てるべきファイルでどれが残すべきファイルかが判らないのだ。
フォルダやファイルを1個ずつ開けて確かめる
3個4個のフォルダやファイルならなんとかなるが、当時実際にPCに残っていたフォルダやサブフォルダの数は10個~15個(もっと多い日もあった)。ファイルの数は多いときは、全部で軽く30個を超えている。とうぜん空のフォルダ、手つかずのファイルが何個もある始末。
これらのファイルを片付けるために、全てのフォルダ、全てのファイルを1つずつ開けて進み具合を確かめないといけない。しかも、確かめる作業をするために新しいフォルダを作って、一番進んでいるファイルを入れて、もっと進んでいるファイルを見付けたら、ファイルを入れ替えて最終のファイルを見付ける・・・という作業を繰り返す。
ここで、もう一度びっくりすることが起きる。
なんと、選びに選んで最終的に残ったファイルが、なにも進んでない手つかずのファイルだったりするのだ。
慌てて、PCのゴミ箱を探すのだが、さっきまで整理して片付けていた大量のファイルやフォルダが入っているので、また1から選別の作業をやらないといけなくなるのだ!!
結局“今日の作業”に入るまでに軽く半日はかかってしまうのだ。みんなには言っていなかったが、お昼までに次の作業に取り掛かれたらラッキーってな感じだった。
家出も、会社でも、PCでも・・・
私は漫画やイラストを描いているのだが、今でもいろんな場面でPCを使う。
作画、着色してできた作品のデータを保存する。もちろん紙に書いて紙に着色することも大好きなので、今でも紙に絵を描くことも多い。それでも、紙に絵を描いても、SNSにUPする時は一度紙の絵をデータにする。そこで、データをUPするためにパソコンで加工するとき、同じようなややこしい問題が起きるのだ。
やってる時には判らないのだが、いろいろなフォルダに進み方がまちまちのファイルがいっぱいできているのだ!
そしてこれらのことが、次の問題を起こす!
『俺の時間を返してくれ!返してくれ~!返してくれ~~!!』(やまびこ)
これらの失敗を自分が理解してないという事が、当時の自分の状態を周囲の人たちに伝えられないという事に直結するとは、全く気付いていなかったのだ。
残念、おれ!