見出し画像

令和の衝撃映画【どうすればよかったか?】について


新年明けましておめでとうございます。
私の2025年初投稿はこの映画の感想にしようと思います。

私の親は東京に住んでいるので、年末年始は東京に帰省するのですが、帰省した折に知人と再会しまして。
その知人に「2024年で一番面白かった映画ってある?」と尋ねてみたところ、上記の作品を勧めてもらいました。

そんなわけで、愛媛に帰って映画館が遠くなる前に、東京で観てしまおうと。
1月2日に渋谷へ


都会


汚い。嫌いじゃない


渋谷のユーロスペースという映画館にお邪魔しました。こういう小さい映画館に入るのは劇場版メイドインアビス以来だったので、なんだか新鮮。お客さんも高齢の方が多くて、tohoシネマズとの違いに驚きました。
なんだろう。こういう小さい映画館の方が、映画を「作品」として展示しているような気がして、好きになりました(大きい映画館は映画を「娯楽」として扱っているような気がする・・・迫力とかあっていいんだけど)

そんなわけで、これから『どうすればよかった?』の感想を書かせていただければ。なるべくネタバレは避けるつもりですが、感想を喋る都合上微ネタバレは悪しからず。

『どうすればよかったか?』 感想

あらすじ

家族という他者との20年にわたる対話の記録
面倒見がよく、絵がうまくて優秀な8歳ちがいの姉。両親の影響から医師を志し、医学部に進学した彼女がある日突然、事実とは思えないことを叫び出した。統合失調症が疑われたが、医師で研究者でもある父と母はそれを認めず、精神科の受診から姉を遠ざけた。その判断に疑問を感じた弟の藤野知明(監督)は、両親に説得を試みるも解決には至らず、わだかまりを抱えながら実家を離れた。
このままでは何も残らない−
姉が発症したと思われる日から18年後、映像制作を学んだ藤野は帰省ごとに家族の姿を記録しはじめる。一家そろっての外食や食卓の風景にカメラを向けながら両親の話に耳を傾け、姉に声をかけつづけるが、状況はますます悪化。両親は玄関に鎖と南京錠をかけて姉を閉じ込めるようになり・・・・・・。

どうすればよかったか?HPより

この映画の撮影者であり監督である藤野知明氏(以下、弟)の8つ年上の姉。姉は幼い頃から優秀で、両親が携わっている医学の世界を志すようになる。両親もきっと大きな期待を寄せていたことだろう。
しかし、姉は医学部に進学するにあたり苦学。それでも最終的には医学部に進学することが叶う。
そんな姉だったが、医学部の解剖実習をきっかけに発狂、通常と明らかに違う様子から、精神疾患を疑う。
父の知り合いの精神医に診てもらうということで、父と姉は病院に検査に行く。
帰ってきた父の言葉は「診てもらったが、姉の身体におかしいところはない」という検査結果の言葉。
納得のいかない弟は説得を試みるも解決することはなく、無症状の一点張りの両親、再検査すべきだという弟、暴れて叫び出す姉。家族の間に溝が深まる。
弟は実家にわだかまりを残したまま離れ、映像制作を学ぶことに。
姉が発症したと思われる日から18年。映像制作を学んだ弟は、学んでいることを口実に家族にカメラを向ける。そこに描かれるのは、ありふれた家族の日常であり、決して埋まることのない他人との溝。

感想

家族とは何か。
家族とは、あらゆる人間関係の中で最も深く、尊く、厄介なものかもしれない。
なぜ、両親は頑なに再検査を拒んだのだろう。きっとそこには当人しかわからないとても大きなものがあるのだと思う。

父は優秀な医師であり、母もまた優秀な研究者であったという。その間に生まれた優秀な娘、それも医学を志すという。
「医師の家系」という言葉があるが、医学の世界もそういうものなのだろうか、とにかく、両親は娘に多大な期待を寄せていたことは想像に難くない。
そんな娘が、精神疾患。両親は何を思っただろうか、やっとの思いで医学部へ進学したと思ったらあまりにも残酷な話である。

そんな娘と父は父の知り合いであるという精神科の元へ、帰ってきた父の言葉は「なんともない」

それでも以前と明らかに様子の違う姉、弟が疑うのも当然である。
しかし両親は再検査を頑なに拒み続ける。
なぜ再検査をしなかったのか
ここから先は憶測だが、両親は「娘と家にレッテルを貼られることを恐れた」のではないかと思う。

万が一娘が適切な治療を受けて治ったとしても、「精神病歴あり」というレッテルが娘のキャリアを阻むかもしれない。
また、家族から病人を出す。ということで医学者の父、母の名誉が危ぶまれるかもしれない。

最も望ましいのは、時間経過によって娘が回復し、何事もなかったかのように娘が復学すること、明日にはケロッと治ってしまうかもしれない。健康だった過去があるからこそ、そんな幻想を信じて、その日を待ち続ける・・・

特に父親は、医学の道に進むことこそが幸せの道だと信じて疑わなかったのだろう。現に、娘の国家試験受験を条件に本の出版費を負担したという。

誰かの幸せを願うという善意の中で、自分の意志を押し付けるという悪意はもみ消されている。

弟は姉の再検査を何度も勧めたが、それも無駄だった。何せ両親が医学の人である。最も手強い、どうしようもない相手だ

「お前に何がわかる」

きっと、飽きるほど聞かされたのではないだろうか。両親は娘の幸せを思うが故に沈黙を選ぶ。弟は姉の幸せを思うが故に再検査を進める。
優秀な姉ということもあって内側のコンプレックスも大きかったと思う。医学の道に進めない自分の情けなさをこれでもかと噛み締めたのではないか。だからこそ、親にも強く出られない境遇に陥ったのだと思う。

弟が実家を離れたのも、止むを得ない選択だったと思う。自分が精神科医になることぐらいしか、解決策はなかったと思う。

そして18年。状況が前を向くことはなかった。
映像制作を学んだ弟は、家族にカメラを向ける。

18年の時が経っても沈黙の意志を一向に崩さない両親。踏み込んだ話をしても、やはり口論になる・・・

映画に映し出されるのは、あくまで家族の日常。ホームビデオ感。
その等身大の景色の中でストーリーが繰り広げられるからこそ、生々しく、リアルに感情が染み込んできます。

家族

改めて、家族という言葉は本当に不明瞭で形を持たない、難しい組織集団のように感じられる。
それでいて「サザエさん」のような「家族像」を皆共通の意識として掲げ、「理想の家族」を追い求めている。

僕は三つ子で、兄と弟がそれぞれいるのですが、いずれも重度の知的障害を抱えていて、そんな兄弟と22年間生きてきました。
母は僕が物心つく前に離婚しましたが、父親によると「子供がそうだとわかってから、母親の精神は不安定で、このままでは子供に良くない影響が出ると思ったから離婚した」とのことでした。

きっと、僕にも両親がいたら、この映画とまではいかずとも、もっと厄介なゴタゴタに巻き込まれたのではないかとも思ったりします。

だからって、離婚してくれてよかったのかって言えば、それは僕にもわからない。もしかしたら手を取り合ってうまいことやってたかもしれないし、帰りが遅い父親を待ち侘びる僕の幼少期はなかったかもしれない。でもそんなタラレバは通用しない。ただそれだけのことで。今は、その結果をどのように自分で噛み砕けば自分が気持ちいいのか、それを探るばかりです。だから、離婚して父親に引き取られたこと、母が自分の人生を歩みなおしたことは、きっとよかったことなんだと思ってます。

家族は「血の繋がった他人」
親から生まれたからと言って従順である必要はないし、必ずしも愛さなければならないわけじゃない。でも、自分が生きているのは家族のおかげだし。そこには切っても切り離せない、かけがえのない絆がある。

こんなふうに、家族について難しく考えなければ生きていけないような人間がいることこそ、家族の難しさを証明する最大の証拠なんじゃないかなって、この映画も、そんな家族の難しさを、これでもかと映し出しているような気がします。

僕の兄弟は生まれた時から病気だってわかってたけど、もし、元々「普通」の人が急に病気になったら、そんな時はどうやって心の準備をすればいいのか、それは僕にもわかりません。

藤野監督は自分の家族を「統合失調症の対応の失敗例」であると、HPで述べています。しかし、もし自分が藤野監督と同じ立場にあったとして、再検査を受けさせることができたかといえば、できる気がしません。情けない話ですが。
ただ、そこで回された映像用カメラが、一人でも多くの人に「どうすればよかったか?」と、この世に偏在する正解を持たない問題を、目に見える形で投げかけてくれたことは間違いありません。

失敗であることはわかる。成功する方法もわかる。それでも成功に向かうことができない理由、たとえ家族でも、それぞれに幸せの形を見出すことで分かりあえなくなる。

また、この映画について、最大の被害者は20年の時を奪われた娘のようにも思えますが、実際のところは、両親も、弟も、それぞれ娘のこと、姉のことで思い悩み、苦しんだと思えば、家族みんなが理不尽な病気に苦しめられたのではないでしょうか。皮肉なことですが、これも家族の繋がりというのかもしれませんね・・・

また、極めて個人的なことを言えば、精神疾患を患った人がいる家庭は、それとどう向き合っているのか。僕もそれを多くの人に理解してもらいたいので、そういう意味でもこの映画をお勧めします。

分かり合えなさとともに生きる全ての人へ、この映画を見てみて下さい。
そして、この文章の中では触れなかった、この人たちが「どうしたのか?」
ぜひ、それは生でみて下さい。

最後のネタバレを防ぐように感想文を書いたので語り口調になってしまいました・・・
そんなわけで、今年もいい映画ライフを!






いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集